米国ウラン燃料のロシア依存脱却への動き


環境政策アナリスト

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 米国では新型原子炉の開発推進のための新型原子炉用ウラン燃料の調達を巡ってロシアへの依存から脱却する動きが始まっている。今回は米国議会での動きを中心にして報告したい。

 米国では開発が進んでいる新型原子炉の燃料として必要とされる、ウラン235の濃縮度を5~20%にした高純度低濃縮ウラン(HALEU)をこれまでロシアに依存していたが、ロシアのウクライナへの侵攻に対抗してロシア依存から脱却しようという動きが盛んだ。化石燃料についてはロシア依存を排除してきたが、ウランについてはそうはなっていなかった。また一方米国国産ウラン燃料の採掘についてもこれを活性化しようという機運も高まっている。  
 下院は2023年12月にロシアのウラン燃料の輸入を原則禁止する法案が可決した。ロシアだけでなくロシアのウラン燃料の供給を受けた他の国からの輸入に対しても適用される。この法案ではそれを執行させる権限を持つエネルギー省が、他に供給源がないと認めた場合、かつその輸入が国益に合致している場合に限定して2024年から2027年までにわたりおおむね47万キログラムから46万キログラムの上限をもって輸入禁止を免除することができる。ただし、その免除措置は2028年をもって終了する。そのためにエネルギー省に対してロシア産ウラン燃料に代替できるかどうかの5ケ年の評価を行うことおよび国産ウラン燃料生産の支援を提案することを求めている。またエネルギー省に対してウラン燃料の国際競争力、供給多様性、安定供給などの面をいかに配慮するかの検討も求めている。

 一方、上院ではエネルギー天然資源委員会の共和党側有力議員であるワイオミング州選出のバラッソ議員が、ウラン資源に関する法案を提出している。バラッソ議員は長年国内のウラン資源採掘の活性化を主張しており、内容は上記下院の法案と同様としている。バラッソ議員はロシアのウクライナ侵攻に対して米国が対抗するという意味と原子力発電のサプライチェーンの安定的確保という二つの意味を法案に持たせている。国際的なウラン燃料の増産、供給途絶に備えて国産ウラン燃料の製造、転換、濃縮役務などの保証、新型炉のためのHALEU燃料の実証プロジェクトの内容を盛り込ませている。

 こうした議会の動きに先立ち、実際のHALEU燃料の濃縮はようやく昨年10月セントラスエナジーが年間900キログラムの濃縮役務を可能にする遠心分離機をオハイオ州パイクトンで操業を始めている。今後、遠心分離機を追加して年間6000キログラムまで製造できるようにする見通しだ。国防総省、エネルギー省のもと開発が進む種々新型炉の需要に対応させようとしている。当面はエネルギー省が支援するX-エナジー社とテラパワーの新型原子炉への燃料供給を満たしていく考えだ。

 新型炉は米国の輸出材としても期待もかかる一方で、その燃料をロシアに依存しているのでは今後ますます新型炉開発の足かせになるという認識が広がっていた。昨年3月に開催された米国原子力規制庁主催の会議においてもOECD原子力機関(NEA)マグウッド事務局長は、新型炉による原子力発電を成功裡に開始するためには燃料へのアクセスが重要であるとして、サプライチェーンの安全保障上の措置を最重要課題として掲げ、信頼できるパートナーを政府においても産業においても確保することが重要であることを強調していた。米国は天然ガスなどの化石燃料についてはロシアへのウクライナ侵攻に対する制裁を課してきているのに、ウラン燃料についてはロシアへ年間10憶ドルも支払い、制裁リストに入っていなかった。ウラン燃料のロシア依存を軽減するには最低5年はかかるという専門家もおり、問題視されていた。1993年にソ連が崩壊してロシアの核兵器解体後の高濃縮ウランを買い取るという合意がなされた。以後米国はこれを買い続けて低濃縮に希釈したあと米国原子力発電所で利用してきたためロシアの世界における濃縮能力シェアは拡大、かつては世界を独占していた米国の濃縮事業は市場競争力を失い、縮小してきていた。今回の動きはこうした歴史的経緯を見直し、新たな輸出材を得たなかでロシアへの制裁に加え、アメリカの原子力サプライチェーン構造を変えようとする試みとして今後注目する必要があろう。

出典:
国際技術貿易アソシエイツ
ニューヨークタイムズ 2023年6月14日
bne Intellinews 2023年9月1日付