原子力発電の建設コストは案外と安くなるだろう

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監訳 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山大志 訳 木村史子

本稿はロジャー・ピールキー・ジュニア(2023.12.7)「How Much Does it Cost to Build a Nuclear Power Plant? – Probably a lot less than you think」を許可を得て邦訳したものである。

 ブリテン・リメイド(Britain Remade)がこのほど発表した新しいデータベースでは、49基の原子力発電所(うち39基は2000年以降に完成)の投資額が示されている注1) 。下のグラフは、設置容量1メガワット(MW)あたりの投資額を示している。それぞれ個々の発電所を表していて、完成年が記されている。

 コストは、1MWあたり203万ドルから1,361万ドルまでと、非常に大きな幅がある。ブリテン・リメイドでは、2000年以降に完成した発電所の国別発電所単価のコスト平均も出している。下記を参照されたい。尚、単位は英国ポンドである(米ドルに換算する場合は1.25倍)。最もコストが低いのは韓国、インド、中国、そして日本である。イギリスとアメリカは下位に位置している。

 ジョナサン・フォードは昨日ブルームバーグ紙に寄稿し、原子力発電が再び注目されるようになった中で、米国のウェスティングハウス社が原子力発電所の建設について直面している課題について、長文を書いている。

 フォード氏は、ウェスティングハウス社は原子力へのとりくみ方を再考する必要があるとして、次のように書いている:

 …それは夢のようなビジョンである。再活性化した原子力産業の中で、地獄から蘇り、原子力サプライヤーとして第一線に返り咲くのである。原子炉の認可を取得し、すでに稼働している原子炉の実績があり、販売する準備ができていること、そして大規模な燃料製造事業があることなど、すべての条件が整っている数少ない西側企業のひとつである同社は、西側諸国が原子力インフラを再構築するだけでなく、ロシアから重要な影響力と収入源を奪い、北大西洋同盟を強化するためにも不可欠な存在である。
 しかし、ウェスティングハウス社は、この夢を現実にするには程遠い。その回復は偏っており、主にサービス事業に限られている。原子力再生という活気と楽観主義は、根深い理由により、まだ原子炉の新設には反映されていない。長年の停滞が、同社から資本も技術も有望な顧客も奪ってしまったのだ。 政府は美辞麗句を並べ立て、新規原子力発電所の建設に全力を挙げているが、ワシントンの政策立案者たちは、国内で原子炉建設を進めることの難しさをまだ理解していない。それは国と産業界―原子力産業複合体と呼んでもよい―の間の協定を全面的に見直す必要があるからだ。それがなければ、ウェスティングハウス社は片肺飛行を続けることになり、アメリカは、そして西側諸国は気候変動目標を達成できない可能性が高くなるだろう。

 また、フォード氏は、原子力発電所を単発で建設すると、コストがかなり高くなるとして次のように説明している:

 . . . 『初めての』原子力発電所が何の障害もなく稼働することはめったにない。結局のところ、原子炉は複雑な生き物であり、請負業者はその建設方法を苦労して学ばなければならないのだ。見返りがあるとすれば、その知識豊富な労働者たちが同じようなユニットを何基も建設し、一貫した納入とより効率的な技術を可能にするサプライチェーンを完成させたときだけだ(最近の論文で、米エネルギー省は、それ以前に建設された原子炉よりも確実に下回るコストで続けて建設するという最適な段階に達するには「10~20基」の原子炉が必要とみている)。(ジョージア州の)ボーグル原発のキロワット当たり1万ドル近いコストに対し、1980年代から計画的に原子炉を建設してきた韓国が、2,000~4,000ドルで原子炉を建設できるのはそのためだ。

 フォードが参照した最近のDOEリポートは、原子力発電所の建設に実際にいくらかかるかを正確に知るには、20基以上の同一の原子力発電所を建設する必要があることを示唆しており、そのコストは、1MWあたり360万ドル程度になるだろうと予測して以下のように述べている:

 大規模な導入を可能にするためには、N番目(NOAK, Nth-of-a-kind)の先進原子力の金利を考慮しない投資額を、kWあたり~3,600ドルに近づける必要があるかもしれない。十分に検討された原子力建設プロジェクトの初号機(FOAK, First of a kind)のコストはkW当たり6,200ドル程度と見込まれるが、米国の最近の原子力建設プロジェクトでは、金利を考慮しない投資額がkW当たり10,000ドルを超えている。コスト超過なしでFOAKプロジェクトを実現するにあたっては、最近の原子力プロジェクトの予算超過から学んだ教訓を確実に取り入れ、事前の計画に大規模に投資する必要がある。後続の原子力プロジェクトは、その経験を活かせるかにもよるが、10~20基の導入を経て、1kWあたり3,600ドル程度までコストカーブを下降させることが予想され、このコスト削減は、主に労働力の習熟と産業基盤のスケールアップによって推進される。

 このことはときに反核団体が逆手に取るような、興味深いパラドックスを生み出している。実際に原発を建設してみなければ、原発建設のコストはわからないのだが、反核団体は、原発1基の建設にかかるコストだけで、原発は高すぎると主張するのである注2)

 ウェスティングハウス社のCEP、パトリック・フラグマンがこう説明する

 往々にして何事も実行することでうまくいくものである。GMやBMWに20年ごとに車を作れと頼んだら、間違いなく高くつくし、予想以上に時間がかかるだろう。

 太陽光発電もかつては非常に高価なものであったが、近年は驚くほどコストが下がっている。しかし、コスト削減は魔法で実現したわけではなく、以下に示すように導入と習熟を重ねて実現したのである注3)。)

 COP28では、22カ国が2050年までに原子力発電容量を3倍にすることを表明した。これは、2050年までに世界全体で合計約800GWの増加、言い換えれば年間約30GWの設備容量の増加を意味する。

 サンダー・セッド・エナジー社によると

 年間3,000万kWの新規原子力発電容量を追加することは、過去10年間に世界で年間600万kW程度しか新規発電容量を追加していないことから、大規模な増設となる。
 しかし前例はある。世界はピーク時で年間2,500~3,000万kWの原子炉を新設した。これは1980年代半ばであり、1973~74年と1979~80年の大きなエネルギー危機の後、プロジェクト認可の波が押し寄せた時期だ。

 原子力エネルギーを3倍にすることは可能である。以前にも同様の割合で原子力発電を導入したことがあるからだ。

 では、原子力発電所建設のコストはどれくらいなのだろうか?

 世界が原子力発電に再び真剣に取り組んでいる今、私たちはそれを見極めようとしている。太陽光発電や風力発電と同様、私はコストが大方の予想よりも下がると思う。

注1)
データベースに載っている他の10基はイギリスの原子力発電所である。
注2)
人々が原子力を恐れるのは至極当然である。人々はあらゆるエネルギー技術に対してそれぞれの価値観を持っているのだから。しかし、二酸化炭素を実質ゼロにしようという要求と反原発の立場を両立させるのは難しい。私は技術的なマジックが起こることも望んでいるが、それは現実の政策の根拠にはならない。
注3)
導入とそれに伴うコスト削減が好循環を生む。これこそがイノベーションの仕組みなのだ。