安全対策工事進む、日本原電・東海第二発電所を訪ねる


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 日本原子力発電の東海第二発電所(茨城県東海村、東海第二)を訪問した。安全性向上のための工事を行っている。さまざまな工夫と社員の努力で、発電所が生まれ変わっていた。原子力の再活用に日本政府の政策が転換している。現在停止している東海第二の再稼働は、日本の電力・原子力産業、そして経済全体に、大きな利益と変化をもたらすだろう。


日本原電東海第二発電所の外観(同社提供)

先駆的な原子力の事業者、日本原電

 東海第二では、構内をぐるりと囲む防潮堤、電源装置を常置する頑強な建物、地下貯水タンクなど、巨大な建造物が作られつつあった。この工事は、原子力規制委員会が2013年に作った新規制基準に対応したものだ。東日本大震災の教訓を活かして、安全性を高める取り組みを求めている。日本原電は東海第二の工事で、2024年9月の完工を目指す。工事費用は2350億円の巨額だ。

 東海第二は1978年11月に運転を開始した。米国のGEと日立製作所が建設を担い、当時の世界ではまれな大きさだった出力110万キロワット(kW)の発電能力を持つ沸騰水型原子炉(BWR)だ。原子力規制委員会は原子炉の運転期間を原則40年としていたが、この原発は安全対策の計画を出して60年までの運転を認められている。

 日本原電は電力会社とメーカーが出資して1957年に設立された原子力発電の専業企業だ。東海第二の隣には、日本で最初の商用原子力発電を行った同社の東海第一発電所がある。日本の原子力産業は新技術を先駆的に同社が実行し、その知見を他の原発に活かす取り組みを重ねて発展してきた。同社はパイオニア(先駆者)の事業者だ。そして東海第二は関東で唯一の原子力発電所だ。東京、東北の二つの電力会社に売電している。

 2011年3月の東京電力の福島第一原発事故直後から東海第二は停止した。ここは関東に唯一ある原子力発電所だ。首都東京に最も近く、社会の注目度も高い。再稼働をすれば、日本の原子力産業、原子力発電事業が福島事故から復活して再び前進を始めたことを、日本と世界に印象づけられる。さらに関東と東北では夏冬の需要期の電力不足、さらに価格上昇に直面している。東海第二の再稼働と大量の電力供給は、その電力問題を改善する。

城塞のような巨大防潮堤

 福島原発事故では、次のことが起きた。地震で運転中の原子炉は緊急停止したが、その後に原子力発電所を襲った津波で機材が壊れて必要な電源をすべて失い、原子炉を冷やす機能を失った。そして原子炉が加熱し破損した。それを教訓に東海第二では、「自然災害から発電所を守り、電源を絶やさない」「原子炉を冷やし続ける」「放射性物質を外部に漏らさずに地域環境を守る」との3分野の対策が行われていた。

 第一の対策として、発電所を自然災害から守る取り組みが強化されていた。東海第二は鹿島灘に隣接する。そこからの津波対策のために原子炉を「コの字」に囲む防潮堤が建設されていた。海側の防潮堤は海面からの高さが20メートルに達する。高さ14メートルの津波が押し寄せても大丈夫なように、この壁を建設した。直径2.5メートルの鋼管杭(こうかんぐい)を約600本並べて岩盤に届くまで打ち込み、鉄筋コンクリートで固めて厚さ3.5メートルの壁にし、大変堅牢だ。壁の全長は約1.7キロ。まるで城塞のようだ。


巨大な東海第二の防潮堤(同社提供)

 また電源確保の取り組みも行っている。外部からの電力が喪失した場合に備え、非常用電源を複数、自然災害から守られるように堅固な構造物の中に置いて設置した。また移動式の電源車を頑丈なコンクリート構造物内や高台に置いていた。

 さらに自然災害での重要施設の破損に備えていた。主要設備には竜巻、突風による破損を避けるために、鋼鉄の覆いがつけられていた。敷地内の施設は地震、火事などの災害に備え補強や難燃性のケーブルへの取り替えなど、さまざまな取り組みを行っていた。

 第二の対策として、原子炉を冷やし続ける設備が建設されていた。原子炉の冷却機能を多様化した。これまでの既存の設備に加えて、さらに新たな冷却設備を作った。5000立方メートルの淡水をためる地下タンクが原子炉の隣に設けられた。さらにそれが機能しない場合に備えて、海水を原子炉に取り入れ冷やす緊急用ピット(貯留槽)の設備を作っていた。

安全性が工事で高まる

 第三の対策として、仮に万が一重大事故が発生しても放射能を漏らさず、地域の環境を守る取り組みが強化されていた。原子炉の格納容器内にたまった放射能を帯びたガスを放出しなければならない事態になった際に、そのガスから放射性物質を取り除く「フィルター付きベント装置」が建設中だった。これがなかったために、福島第一原発では、事故で外部に放射性物質が出てしまった。

 さらに事故対策で司令塔になる緊急時対策所も敷地内の標高21メートルの高台につくり、そこにがれき撤去などに使うホイールローダーなど、災害対応車両を配備していた。テロ行為などがあった場合に、所員がそこに集まり原子炉を操作できる特定重大事故等対処施設(特重)の建設にも着手していた。

 東海第二の敷地は約20万平方メートル、東京ドーム8個分という。その敷地内に、隙間なく物が置かれ、工事が進んでいた。東海第二の松下勇副所長は「既存の建物の隙間に新規構造物を作るために、敷地の余裕が少なく、難しい工事だが、工夫と努力で課題を乗り越えてきた。地元の皆様に安心いただける安全なプラントを作り、運営したい」と抱負を話した。

 東海第二では、ここまでの安全対策工事で当然、重大な事故の可能性は一段と減ると、私は思った。2350億円の巨額の費用がかかる工事も、東海第二が安全が確保されて適切に運営されることに役立てば、株主にとっても、私たち電気の利用者にとっても、意味がある、役立つものになるだろう。

避難計画が課題、行政に期待

 東海第二の再稼働で問題になっているのは避難計画だ。福島事故の後で災害対策基本法が改正され、原子力発電所から30キロ圏では住民の避難計画の策定が必要になった。しかし東海第二ではその範囲にある14市町村のうち9つの自治体で広域避難計画がまだできていない。避難計画の不備を主な理由に水戸地裁は2021年3月に東海第二の運転差し止めを命じ、今東京高裁で控訴審が続いている。30キロ圏内の住民、約94万人が対象になる。

 岸田文雄首相は原発再稼働に「国が前面にたってあらゆる対応をとる」(GX実行会議、22年8月)と決意を述べた。計画の作成は政府、茨城県、各自治体という行政側に対応が委ねられた形になっているが、その言葉通りのその早急な実行を期待したい。日本原電は、2020年から地元の人々の個別訪問、説明会や車座スタイルの対話集会を開いて理解を広げようとしている。

 私は、東海第二でのここまでの安全対策を見て、周辺に住む人々の人体に影響があるほど、放射性物質が拡散するほどの事故が起こる可能性は少ないと思った。92万人全員の避難が必要になると非現実的な想定をするのではなく、起こりそうな状況に基づいて現実的な計画を早急に立てた方が良い。

活用の利害特質を真剣に考えるべき

 福島事故の経験から、原子力発電の運用に不安の残る人はいるだろう。茨城県でも、いろいろな意見がある。ある水戸市民は「1986年のウクライナのチェルノブイリ事故前までは、原子力施設があることは茨城県民にとって自慢だった。私の周りには原子力を闇雲に反対する人はいない。安全対策をしっかり行い、地元に利益があれば、稼働を容認する人が多いのではないか」と話していた。地元と原電の信頼関係はもともとある。この徹底した安全対策を知れば、県民の不安は減るのではないか。

 東海第二をはじめ、原子力発電の活用は国際情勢の混乱を背景に乱高下するエネルギー価格を抑制し、日本経済や経済安全保障にプラスになる。安く豊富な電力は、経済活動、個人の生活を豊かにする前提となる。原子力のパイオニアとして、日本原電に再稼働を目指し頑張って欲しい。そして問題に関わる人は、不安を煽るのではなく現実を見て、東海第二を動かす利害特質を見極めてほしい。