最近の異常気象とその影響
―“化石エネルギー利用時代の終わりの始まり”―
桝本 晃章
国際環境経済研究所主席研究員、(一財)日本原子力文化財団 理事長
気象庁が“異常気象”と公認した今夏の暑さ!
気象庁は8月28日、「異常気象分析検討会」を開催した。
この検討会開催後、気象庁は検討会の結論を報道資料として公表した。
7月下旬以降の高い気温について、「太平洋高気圧の本州付近への張り出しが記録的に強まったことが要因で、歴代と比較しても圧倒的な高温で“異常気象”だといえる。
世界各地で“暑さの新記録”続出
ユーラシア大陸の西端・日本列島の対極にある英国でも大変な暑さになっている。
英国公共放送:BBCは英国周辺の北大西洋の状況について、次の通りに伝えている。
“英国ブリストル大学の地球学者:ダニエラ・シュミット教授が「北大西洋でのこうした異常な気温は前例がない」と言っている”と。
化石燃料の利用がもたらした地球温暖化
日本列島や英国を始めとして世界各地が猛暑になっているのは、言うまでもなく“地球温暖化”の影響だ。
大気の温室効果のおかげで地球は宇宙で稀な星
地球をとりかこむ大気のほとんどは窒素で大気の78.1%を占める(容積比)。今問題とされる二酸化炭素CO2は大気の僅か0.03%を構成するに過ぎない。ちなみに酸素は21.0%である。
大気は“温室効果ガス(Green House Gas)”として地球を取り囲み、温暖化をもたらし、地球を生物が住むのに適する環境にしている。地球が大気の無い火星や土星などとは違うのは温室効果ガスによる。
地球の全表面温度が年間平均14℃になっているのは温室効果ガスのおかげだ。
問題をもたらした“温室効果ガスによる過剰な温暖化”
地球温暖化が問題になったのは、言うまでもないが、人間が産業革命以降、石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料を大量に利用してきたことによる。よく知られているとろだが、化石燃料の大量消費により大気中のCO2濃度が高まり温室効果が大きくなったのだ。
産業革命以前に比べ五割増しの現在の大気中CO2濃度
大気中のCO2濃度は、産業革命以前は270から280ppmだったが、現在では415.7 ppm(米マウナロア観測所2022年平均値)とおよそ5割増になっている。
大気中のCO2濃度が高まったことにより、温室効果が過剰に強まって、現在色々な影響を地球各地に及ぼし問題になっている。
温暖化の影響を地球全体に広げている“海流”…英国BBC解説
英国公共放送のBBCが地球温暖化の影響の広まりを分かり易く解説している。以下その解説の要点を紹介する(2023年7月18日、ジャスティン・ロウラット気候担当編集長、BBCニュース)。
温暖化を世界各地に広げているのは、“海流”だ。
地球表面が温暖化によって受ける熱の約半分は海水温度を上昇させている。そして、温められた海水は海流として地球各地を巡り、各地を暑くしている。
そう言えば、日本列島の周辺海域にもこれまでにない異変が起こっている。身近な事例を挙げてみよう。
青森に見る温暖化の症状=影響
列島の北の地:青森の八戸や津軽海峡に面するイカの町:大畑で“イカ”がとれない。ナマコ漁で知られる下北半島の新横浜町では“ナマコ”漁が不漁で中止されてしまった。青森県の西:津軽地方ではリンゴ栽培への影響が懸念されている。
身の回りにも異変が
私たちの身の回りでも異変が起こっている。
例年に比べて“やぶ蚊”が極めて少ない。蝶やトンボもほとんど見ない。“雀”も見ない。多くの皆さんが体験しているところだ。
”化石エネルギー利用時代の終わりの始まり”
最近の暑さに接して、国際エネルギー機関(IEA)のファテイ・ビロル事務局長は9月12日・英国有力経済紙FTに寄稿して、
化石エネルギー利用時代の終わりの始まり
と言っている。的確な見解だ。
しかし、課題は残る。
IEA加盟国はOECD加盟の38ヵ国の内31ヵ国でしかない。
OECD加盟国の排出するエネルギー起源CO2排出量は地球全体の総排出量の33.7%でしかない。残る66.3%の排出はOECD非加盟国からの排出だ。
地球全体の状況を考えるのには、OECD非加盟国の排出量の如何が決定的に重要だ。ちなみに、中印からの排出量だけでも世界の総排出量の38.6%もの比率がある。日本は3.1%。
このように現状を見てくると、残念ながら、今後もこの暑さはまだ長く続く可能性が高いと考えざるを得ない。
なお、ビロール事務局長は問題の指摘はしているが、対応策については触れていない。
幸い地球温暖化対策を主張している人がいる。マイクロソフト創設者のビル・ゲイツだ。
温暖化対策として原子力発電を挙げるビル・ゲイツ
二年前だが、ビル・ゲイツはこの問題について、次の通りの見解を明かにしている。ビル・ゲイツは温暖化対策として原子力発電の活用を挙げている。
ビル・ゲイツの言葉を紹介して、本稿を終わりたい。
エネルギー貧困と気候変動問題という二大脅威への対応策は先進的原子力発電に他ならない。原子力発電は昼も夜も季節を問わず、地球のどこででも発電できる唯一のカーボン・フリー電源である。大型施設がすでに稼働している。原子力発電無くして、電力ネットワークで供給できる脱炭素電力は考えられない。
(2021年6月のアメリカNEI:原子力エネルギー会議年次総会における挨拶の中での言葉)