希望を灯すエネルギーを求めて


@omfyメンバー代表

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日本の電気エネルギー

 資源の乏しい日本。
 子供たちのために何ができるのだろう?
 そう考えた時に、まっさきに頭に浮かんだのがエネルギー資源だった。
 特に、電気エネルギーは21世紀社会を駆動する上で重要な資源だ。
 日本は水に恵まれている。食糧問題もいざとなればやり繰りして凌いで暮らせるだろう。かなり乱暴な見解と思いつつも、あえてこう述べたい。さらに自然災害、超高齢化、人口減少と日本の課題を挙げれば切りがない。だが、環境破壊を極力抑えつつ安定に電気エネルギーを得るにはどうすれば良いのだろう?
 この問いに対して誰もが納得する回答は見つかっていない。誰もが納得する答えなどそもそもどのような問題に対しても得ることはできない。電気エネルギーに対する上記の問いに答えるためには折り合いをつけて一歩を踏み出さなければならないと思う。
 再生可能エネルギーは日本の電力事情にどこまで答えることができるだろうか?
 あまねく日本全体に安定に電気を供給することができるのであれば、その実現に向けて突き進めば良い。この議論に国民的な合意形成がなされていないのが現状ではないだろうか。
 まずは再生可能エネルギーの貢献は限定的であること、再生可能エネルギーがあれば何でも解決できるという風説を取り除くこと、解決策に取り組む必要があることについて国民レベルで認識合わせをしておく必要があると考える。
 再生可能エネルギーの必要性と貢献期待度については資源エネルギー庁が実施した「2030年・2050年の脱炭素化に向けたモデル試算」において示されているが、同時に、原子力を含む複数のエネルギーソースを適切に組み合わせることも指摘されている1)
 筆者はエネルギーの専門家ではないが再生可能エネルギーだけで日本の電気需要すべてを賄うことは無理だと考えている。主役となる太陽光発電と風力発電を合わせて日本全体の要求に見合う太陽光や風力の適地が足りないからだ。加えて供給安定性の問題がある。このようなことから再生可能エネルギーを支援する、あるいは補うための解決策が必要と理解している。
 どんな手があるのか?
 抜本的に生活様式を変えることができるなら再生可能エネルギーだけでも解決できるかもしれない。ただし国家戦略レベルの変革が必要であり、実施にあたり仮定も多くなり過ぎるため本稿ではいったん議論の外枠に置きたい。
 以下、複数のエネルギーソースから再生可能エネルギーに加えて何を主力とするかについて考察する。
 主力エネルギーソースとして、発電を大規模集中型とするのか小規模分散型とするのかの観点がある。元21世紀政策研究所研究主幹の故・澤昭裕氏は、日本の電気事業は大規模化を目指すべきであり、発電から始まる電力システムを共通インフラと位置付けるモデルを提唱した2) 。なぜならば、日本の電力システムには、①安定かつ冗長性を持つ供給力、②エネルギー市場で国際的に伍していける購買力、③電源多様化によるリスク分散 という3つの条件を満たす必要があるからである。澤氏のモデルに不整合があるならば代案を議論すべきだが、これに変わる整合性のあるモデルは見当たらない。よって、本稿では澤氏のモデルを前提に考察する。
 日本の電気事業が大規模化を目指すならば、原子力発電システムの利用は避けて通れない課題である。資源エネルギー庁の試算でも原子力発電システムは主力システムとして織り込まれている。もちろん、大分県九重町のように地の利を活かした地熱発電によりエネルギー自給率がずば抜けて高い地域はある。問題は地の利が乏しい地域や人口が集中している都市部の電力供給をどうするのかということだ。

日本の電力システム

日本の電力システムに必要な3つの条件について考察する。

安定かつ冗長性を持つ供給力
現在、既にDX社会が実装されつつあるが、その根幹となるのはデータを獲得するためのセンシング技術である。トリリオンセンサー時代という言葉がそれを象徴している。モビリティの自動運転が本格普及すると自動運転に必要なセンサー、センサーを駆動する半導体デバイス、ソフトウエア、通信システムといった自動運転に関わるほぼ全てのシステムは電気エネルギーで駆動されることになる3) 。これはモビリティの例だが、DX社会における氷山の一角であり、DX社会を支えるのは安定かつ冗長性を持つ電力を供給できる社会システムに他ならない。
エネルギー市場で国際的に伍していける購買力
日本の再生可能エネルギーの今後の中心となる洋上風力設備は、欧米諸国に対して価格競争力がない。価格競争力のあるエネルギーを持たない限り、国際的なエネルギー市場では買い負けてしまうことは自明だ。水素エネルギーは将来期待されているエネルギー源のひとつだが、日本において価格競争力のあるクリーン水素を製造するには競争力のある非炭素電源が必要である。クリーン水素を輸入する手段も有力であるが、液体水素を封じ込めて輸送する、あるいは、輸送しやすい水素キャリアー(アンモニア、メチルシクロヘキサン)を国内で水素に戻すためのコストを考慮すると輸入水素が価格競争力を持っているとは言えず、クリーン水素で国際的に伍していける購買力を持つことはできない。
電源多様化によるリスク分散
太陽光発電と風力発電を代表格とする再生可能エネルギーの実装だけでなく、安定電源の確保の観点から不足するベース電源が複数種必要だ。つまり火力(ただし、二酸化炭素を捕捉、貯留設備付き)、水力、原子力を適切に組み合わせることが日本の重要なエネルギー施策になる。資源エネルギー庁の試算でも原子力発電は必須要素として盛り込まれている。東日本大震災を経て原発反対の声が強くなったものの、ウクライナ侵攻から、原子力反対の意見は世界的に減少傾向である。日本でも減少しているとされているが、依然として原子力に反対する声もある。

@omfyを始動する

 筆者は、化学を生業とする企業に勤めている。
 日本の機能性化学が競争力を持つと言われて以来久しいが、その競争力を支える基礎化学品は日本のエネルギー施策に依存しており、エネルギー施策で国際競争力を維持できない限り、日本の機能性化学は環境影響のない化学品を創出していく上で、将来、じり貧になってしまうことを危惧する。
 CCUS(Carbon Capture Utilization Storage)において、現在はCCSが先行しているが、二酸化炭素を原料とした化学品の合成はCCUSのUに相当する有望技術である。二酸化炭素はこれ以上酸化されない性質があり安定なため化学品原料に用いることは難しい。つまり還元工程が必要であり、二酸化炭素の還元には水素ガスが用いられる。還元工程を経ずに、ウレタンやポリカーボネートなどの化学品に変換することはできるが、それらの用途および合成に使われる二酸化炭素量は限定的だ。
 つまり、化学メーカーはユーザーとして価格競争力のあるクリーン水素が欲しい。そのためにはユーザーとして安定でグリーンなベース電源が必要ということだ。
 このような考察に基づき、エネルギーユーザーの立場で、事実に基づきバイアスを排除してあるべきエネルギー施策について検討したいと考えるようになった。
 そこで、筆者を含む有志4名で活動チームをキックオフした。
 活動目的は、特に、原子力を用いた発電システムの位置づけを明確にすることにある。科学的な知識と研鑽をベースに産業界で化学と工学を生業にしてきた有志が集い、この活動を始める。
 チーム名は造語で@omfy。
 @omfy = Atomfyであり、原子力化することの是非を問うという意味を込めている、
 ただし、誤解なきよう願いたい。
 原子力化することが目的ではない。
 エネルギーユーザーの立場で、原子力を用いた発電システムの是非を問うこと、そのシステムが必要ならば実装して成功させるためにどうすれば良いかを徹底的に考えつくすことが目的である。原子力発電に対して代案なき反対だけを並べることではなく、日本全体に染み込むエネルギー施策としてどうあるべきか、その姿を実現するにはどうすれば良いかを検討していく所存であり、原子力を用いた発電システムに対する国内のオピニオン形成の一助たらんことを目指していきたい。
 なお、活動メンバーは、民間企業に勤務しており、立場上、現時点では所属する組織の経営方針や事業戦略に対する影響を考慮して、氏名、所属企業名の公表は控えることとする。ただし、無責任な活動にならないように国際環境経済研究所の公式サイトにて記事を掲載する機会を頂き、こうして世に問う次第である。
 読者からの忌憚なきご意見を頂ければ幸甚である。

参考文献

1)
2030年・2050年の脱炭素化に向けたモデル試算, エネルギー庁, 令和4年9月28日 第50回基本政策分科会
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2022/050/050_005.pdf
2)
電力崩壊 戦略なき国家のエネルギー敗戦, 竹内純子著, ‎日経BP日本経済新聞出版 (2022/12/23)
3)
なぜデジタル社会は『持続不可能』なのか, ギヨーム・ピトロン著, 児玉しおり訳, 原書房, (2022/6/21)