放射線治療を契機に「グレイ」を学ぶ
佐桑 徹
環太平洋大学客員教授
「グレイ」とは何者か
小中学校向けの放射線出前授業を企画し、アレンジしている。授業のメニューは、「自然界にも放射線は存在している」「原子力発電所で放射線漏れ、と聞くと放射線は怖いと思うけど、レントゲンなど生活に役立つ放射線もある」「放射線を遮る方法」「放射線を測る」「放射能と放射線の違い」「被爆と被曝は違う」「放射線のメリット、デメリット」などだ。
そして、この出前授業で出てくる放射線の単位は、ベクレル、シーベルトである。「もうひとつ、グレイというのがある。これは、この講座では扱いません。とりあえず忘れてください」。ある講師が、一度だけだが、そう話したのを何となく覚えている。
ところが、その忘れていていいはずのグレイが、病院の医師の説明でいきなり出てきた。「放射線治療ですが、一回当たり、〇〇グレイの線量のものを〇〇回行います」。
病院を出ると、すぐに検索した。忙しそうな主治医に、シーベルトとグレイの違いは、などとなかなか質問する雰囲気にないからだ。もっとも、この説明を聞いてわかる患者は何人いるのだろうか。
「シーベルト」と「グレイ」の関係は
言うまでもないが、ベクレルは、放射性物質が放射線を出す能力。これに対して、シーベルトは、放射線を受けた時の人体への影響のこと。このふたつならば違いはわかりやすい。そこにグレイが割り込んでくる。このグレイは、放射線のエネルギーがどれだけ吸収されたかを表しているという。人体への影響で、シーベルトは体全体、グレイは放射線治療で放射線を当てた部位への影響というようにも思える。
となると、次に関心を持つのは、シーベルトとグレイの関係。日本理科教育支援センターの小森栄治代表は「私も治療を受ける際、グレイで説明を受けたので、シーベルトに換算すると、どれくらいですか」と医師に質問したという。すると「エックス線の場合、グレイとシーベルトは同じ数値になる」とのこと。なので、小森氏は、セミナー等ではグレイをそのままシーベルトに置き換えて説明しているという。グレイ(吸収線量)からシーベルト(実効線量)への換算については、文系の私は十分理解できているとは言い難いので、本稿では割愛するしかない。
放射線教育の位置づけ
放射線教育というと、「エネルギー教育」の枠組みの中で扱われることが多いのではないだろうか。「エネルギー教育」という枠組みの中に「原子力教育」があり、その中に「放射線教育」がある。なので、放射線の授業というと、反原発の人たちからすると、好ましく思われない。しかし、「がん教育」に反対する人はいるだろうか。「がん教育」から入っていくアプローチならば、放射線の授業も受け入れられやすいのではないか。そして、日本人の二人に一人が、がんになる時代。その時になって、私のように「グレイってなんだ」と驚かなくて済むのではないか。