大統領候補デサンティスが率いる反ESG運動が米国で大きなうねりに 


キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

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 フロリダ州知事デサンティスは、トランプと1,2を争う、最も有力な共和党大統領候補だ。

 そのデサンティスが、共和党勢力を結集して、強力な反ESG運動を率いている。


デサンティスフロリダ州知事
”フロリダではESG投資は初めから死んでいる(dead on arrival)。”

 ESGとは、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)ということで、要は「良い事」に投資しましょうということなのだが、実態としては環境、それも脱炭素が最も重視されている。

 バイデン大統領が率いる民主党政権下において米証券取引委員会(SEC)は、投資アドバイザー、投資ファンド、年金基金、金融機関などに対し、投資に際しESGの視点を織り込むルールを整えてきている。また、労働省も退職者の年金投資に際しESGを考慮するように求めている。

 ESG投資によって、石炭、石油、天然ガスを採掘したり、それを用いて発電したり工場を操業する企業は、投資や融資を受けられなくなったり、事業の売却を余儀なくされてきた。CO2を出すことはケシカラン、という訳だ。

 これで怒ったのが共和党の州知事たちだ。州民のお金を預かっている州の年金基金などが、自分の州の産業に投資しないとは何事か? という訳だ。

 そこで仕返しに、ESG投資を標榜する機関から、フロリダ州は年金基金などの州の資金の引き揚げを発表した。また今後、州の資金の運用においてESG投資を禁止する州政府も続々と増えている(例 フロリダ州、ネブラスカ州、インディアナ州)。

 更に、州レベルに留まらず、米国連邦議会においても、上下両院とも、「労働省の年金基金の運用者はESGを考慮し投資を行うべきとの規則」を認めない決議を通してしまった。

 上院の決議では、共和党のみならず、2人の民主党議員まで造反し、超党派での可決になった。これはバイデン大統領が拒否権で覆したが、米国議会の本気度が分かるというものだ。

 共和党議員が怒る根本的な理由は、選挙された訳でもないお金持ちや高級官僚たちが、金融機関を利用して自分達エリート好みの特定の価値観を強制する、という構図が国民主権や自由に反するからだ。

 さらにデサンティスは、3月16日に、「環境・社会・ガバナンス(ESG)に反対する同盟」を発表した。これは、共和党議員19人の知事の連名によるものだ(共同宣言原文)。

 この発表では、米国におけるESG投資を(前進ではなく)後退させるために、それぞれの州の年金基金を活用することを特に求めている(Forbes記事)。

 米国ではここ数年、民主党によってLGBTや人種・移民問題等、様々な問題について左翼リベラル的な価値が広められてきた。そして伝統的な価値を重んじる共和党とあちこちで軋轢と分断を生んでいる。

 共和党支持者は左翼リベラル的な価値観を強制する「覚醒した資本主義」(Woke Capitalism、ウオーク・キャピタリズム)に我慢がならない。

デサンティスは述べている:

 私たちは自由を愛する州として、州の年金基金を活用し、資産運用会社が勤勉なアメリカ人の資金をどう投資するかを変えさせ、企業が「覚醒した思想」の拡散ではなく、株主価値の最大化に集中するようにすることができる。・・

 フロリダ州は、ESGを拒否した。そして代わりに、フロリダ州の納税者と退職者のために最高の投資収益を得ることに集中するよう、州年金基金の運用会社に指示し、ESG制度の悪影響に対抗する方法を先導してきた。・・

 フロリダはアメリカの経済エンジンとして台頭し、失業率は常に全米を下回り、企業の設立率は他のどの州よりも高い。私たちは、顧客の財務よりも政治的意図を優先させる「覚醒した経営者」たちによって、わが国経済の安定が脅かされるのを黙って見ているわけにはいかない。・・

 それでは気候変動はどうなるのか、と読者は思われるかもしれない。だが米国共和党は、気候危機説は誇張が過ぎると認識している。トランプだけがそうなのではない。

 米国議会公聴会で毎年何度も証言をしているマイケル・シャレンバーガー(記事)は、「国連が率先して気候危機を誇張した偽情報を広めている」と批判している。

 また共和党支持者が最も信頼するテレビチャンネルである「フォックスニュース」の名物アナウンサーであるタッカー・カールソンは、気候変動は「全く不条理だ」と語っている(番組動画)。

 同番組では、誇張された予言が外れた例を紹介している。ある環境運動家が2018年に「最も著名な気候科学者が化石燃料使用を5年以内に止めないと人類は破局すると述べた」とツイートした、5年後の今になると削除されていた、といった例を報じている(なおタッカー・カールソンについてはこちらに鎌田氏記事もある)。

 デサンティスはどうかといえば、著書「自由になる勇気(The courage to be free)」では気候変動についてはほとんど触れておらず、単にalarmismだとして一度言及しているだけである。やはり気候危機説を信じてはいないようだ。

 デサンティスかトランプのいずれかが大統領になれば、米国政府のESG投資の方針は大きく変わると予想される。

 もしそうなると、日本も米国から影響を受けることは必至だ。

 いま日本では、ESG投資は今後「世界の潮流」になると吹聴されている。しかし米国の状況を見ると、じつはその帰趨はまったく予断できない。