温暖化「懐疑論」の標準教科書

書評: スティーブン・E・クーニン 著 、三木 俊哉 訳『気候変動の真実-科学は何を語り、何を語っていないか?』


キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

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電気新聞より転載:2022年5月6日付)

 「気候危機説」にいったい科学的根拠はあるのか? この疑いを公言すると「懐疑派」とレッテルを貼られ、異端扱いされる。

 しかし、気候危機説に反ばくする大物の科学者は後を絶たない。クーニンもその一人で、このたび、待望の邦訳が出た。

 本書の著者紹介を見るとわかるように、クーニンは輝かしい経歴の持ち主で、間違いなく米国を代表する科学者の一人である。世界最高峰のカリフォルニア工科大学で筆頭副学長まで務めた。モデルによる物理計算の権威でもある。

 温暖化対策に熱心な米国民主党のオバマ政権では、エネルギー省の科学次官に任命されていた。

 クーニンに対して、非専門家だとか、政治的な動機による温暖化懐疑派だとかする批判はできようがない。

 そのクーニンが「気候危機説は捏造だ」と喝破した。

 原文のタイトルは「Unsettled」であり、温暖化の科学は「決着していない」、という意味だ。
 この本の見解は

  • 気候は自然変動が大きい。
  • 災害の激甚化は起きていない。
  • 数値モデルによる温暖化の将来予測は不確かだ。
  • 大規模なCO2削減は現実的ではなく、適応が効果的だ。

といったものだ。

 本書は、国連や米国の報告書の気候変動に関する「ザ・科学」がいかにねじ曲げられているか、綿密な検証を元に論じている。

 可能な限り平易に書いてあるけれども、問題の複雑さから逃れようとはしない。従って読むのはかなり大変だが、その価値はある。

 災害に関する統計や報道は歪められて、気候危機があると説得するための材料にされている。

 温暖化予測に用いる数値モデルは、雲に関するパラメーター等の設定に任意性があり、観測で決めることができない。このパラメーターをいじって地球の気温上昇の大きさを操作する「チューニング(調整)」という慣行がある。クーニンはこれを解説した上で「捏造である」と喝破している。

 クーニンの執筆動機ははっきりしている。科学が歪められ、政治利用されていることに我慢がならないのだ。温暖化の科学は決着しており唯一の「ザ・科学」が存在するという見解は間違っている。「気候危機だ」とあおり立てるのは政治が科学を用いる方法として間違っている。


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『気候変動の真実-科学は何を語り、何を語っていないか?』
スティーブン・E・クーニン 著、三木 俊哉 訳(出版社:日経BP)
ISBN-13:978-4296000623