三倍増の原子力発電開発構想を打ち出したインド
桝本 晃章
国際環境経済研究所主席研究員、(一財)日本原子力文化財団 理事長
2023年、世界一の人口大国になるインド
2022 年 11 月 15 日、世界の総人口は80 億人を超えた。
世界の人口大国が中国とインドであることは言うまでもない。
国連によれば、インドの人口は来年2023年7月には、14.28億人になり中国を追い抜く。これは、世界全体で見ると100人に17、18人がインドの人になるということだ。インドではこれからも人口増加が続くだろう。
今は貧しいインド
一方、インドは、世界各国の中ではまだまだ貧しい。
豊かさの度合いを“国民一人当たりの年間国内総生産額:GDP(平価調整済、2021年、世銀)”で見ると7,333ドル/年で、190か国を超す世界の国々の中で127番目の低位にある。
ちなみに、中・米・日の人口一人当たりGDPは次の通り。
中国:19,338ドル/年、米国:69,278ドル/年、日本:42,940ドル/年。
経済成長し、エネルギー需要も二酸化炭素排出も増えるインド
このように見ると、インドはまだまだ経済成長を続けるに違いない。当然、エネルギー消費も増え、エネルギー起源の二酸化炭素(CO2)の排出も増える。
インドの現在のエネルギー起源CO2の年間総排出量は25.3億トンで、世界全体の総排出量の7%を占める。しかし、国民一人当たりとなると、インドの年間CO2排出量は1.8トンと小さい(2019年実績、世銀)。同じ人口一人当たりの排出量を、人口が大きい三か国について見ると、中国:7.6トン、米国:14.7トン、日本:8.5トンである。
打ち出された原子力発電開発三倍増構想
インドは11月14日、エジプトで開催中の国連の気候変動に関する会議:COP27で、現在の原子力発電容量を2032年までに三倍にするという原子力発電開発構想を公表した。インドが現在保有する原子力発電所は、稼働中・22基合計容量679.5万KW、建設中・8基600万KWだから、更に2,500~2,600万KWを建設するということになる。
この構想は、パリ協定で全ての協定締結国に提出が求められているLT-LED(The Long-term low-emission development strategy)としてインドが打ち出したものだ。(なお、LT-LEDは、これまでのところ、194か国の内提出したのは57か国だけだという)。
いうまでもなく、経済成長をするには電力が必要である。インドは増加する電力需要に応えると同時に“脱炭素”をも実現しようとしているのだ。
2070年までにカーボン・ニュートラル実現を目指すインド
インドは、昨年英国で開催されたCOP26で、モデイ首相がカーボン・ニュートラルの達成目標年次を2070年にすると述べている。
同国は、増加を続ける電力需要を満たす一方、2070年・脱炭素を実現するため、削減策の中核に原子力発電開発を据えたといえる。
今回公にされた構想には、短期的対策には、再生エネルギー活用もあるようだが、基軸に原子力発電開発を据え、目標年次2070年をにらみながら、10年後の2032年という途中年次までの方策を公にしたといえる。
インドの有言実行に敬意を表しつつ、これからを注目してゆきたい。