電力不足…背景を見る


国際環境経済研究所主席研究員、(一財)日本原子力文化財団 理事長

印刷用ページ

 電力不足で、政府が節電を呼び掛けている。原稿を書いている今日:6月30日も、新聞は、「電力逼迫注意報」が出されると報じている。
 この問題は、一言で“電力不足”と言うには、余りにも背景が重い。

電力不足の背景

 いうまでもないが、電力不足の最大の原因は猛暑による電力需要の大きな急増である。
 6月なのに真夏並みの暑さが続いている。電力業界のこれまでの常識でいえば、6月は、真夏の電力需要期に備えて発電所の運転を止め、検査調整をしている頃だ。それが真夏にもならない6月で、この暑さだから、関係者は相当に大変に違いない。加えて、今では、太陽光発電のようなお天気次第の電源が増え、日照のない夕刻から夜間にかけての時間帯の供給力としては期待できない。それも量的には相当な大きさに及ぶ。実は、現在の電力会社は、規制緩和によって発電、(燃料)、流通、小売と部門ごとに分割されている。この規制緩和が今回の電力不足の原因に関わっていなければよいのだがと期待するところだ。
 電気の需要側を見れば、夏の電力需要が猛暑で太く先鋭化している。一家、一部屋に一台エアコンが普及し、マンションや事務所ビルで空調のないところは、今ではまず見ない。エアコンは、夏の必需品になっている。そうした数多くのエアコンが猛暑で一斉に稼働していて、電力需要を急増させ、結果的に電力不足を招いている。

都市が“大蓄熱体”に

 急増している電力消費の背景をもう少し考えてみたい。残念ながら、筆者は、都市の熱バランスについての専門知識もないうえに、数量的な情報を持ち合わせがない。したがって、本稿は、個人的推察に基づく意見にとどまらざるを得ないことをご寛容いただきたい。
 既に10年以上前になろうか、夏によく聞いた言葉に“ヒートアイランド現象”があった。この現象は、鉄筋コンクリートやアスファルトで埋め尽くされた都市の市街区が、夏の暑い日、熱を貯め込み都市部を、まさに“熱の塊の島”のようにすることから生まれた言葉だ。
 今直面している問題は、このヒートアイランドが桁外れに大きく深くなってきたことが生み出している。
 今日の都市部は、猛暑になると、“大蓄熱体”になるのだ。

低下した都市の気温調節機能

 皆さんの住む地域の街並みや都心の便利な地域の街区を見て欲しい。まだ利用できると思われるようなビルが、そこここで壊され新しくなってきている。筆者の表現でいえば、多くの都市の街区が鉄筋コンクリートとアスファルトで改めて造り直されているのだ。
 また、地中の水分を外気に蒸散し、結果的に気温を調節してくれる樹木が少なくなっていて、その機能が期待できなくなっている。
 端的に言えば、都市部では、熱の調節機能が弱くなってきているのだ。猛暑の現在、そうした結果が顕在化して、電力不足を生んでいるといえる。電力供給力が無限にあるわけではない。

都市に樹木を

 思うに、今回の電力不足を機に、今後のことを考えて、都会の街区の何がしかのところに、樹木の水分の蒸散機能を期待して樹木の植え付けを義務づけるなどの措置を講じてはどうだろうか。樹木は人間にとっても安らかさを与えてくれる。
 また、猛暑時の市街地の熱バランスなどを科学的に分析評価し、都市市街そのものに、一種の熱調節機能をビルトインさせてはどうだろうか。そうしたことに要するコストは、都市部の利便さのほんの一部のコストだと受けとってもらいたい。
 なお、言うまでもないが、大雨による都市部の排水能力問題は何回かの激雨に遭遇して、多くの人の知るところとなり、対策が講じられつつある。今遭遇している電力不足は、あたかも、電力会社の問題のように受け止められているのだが、実は、上述したような事情の結果である。
 見方にもよるが電力会社も猛暑の被害者ともいえるのではなかろうか。