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「そのうち停電」は困ります


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授


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 新年早々停電しますとは穏やかではないが、日本の発電状況がこのままで、再生可能エネルギー(再エネ)主力電源化を進めるのであれば、本当に停電の心配をしなければいけなくなる。
 年明け、インドネシア政府が石炭の輸出を最長1月末まで禁止するとのニュースが流れた。インドネシア国内には4000万kW弱の石炭火力発電設備があるが、その内1000万kWを超える発電所の貯炭量が減少しているため、国内向け供給を優先する必要があるとの理由だ。禁輸期間は短縮され、輸出にそれほど大きな影響は出ないとの報道もでているが、どうなるのかまだ不透明だ。コロナ禍前の19年、中国は1億4900万トン、インドは1億2000万トンのインドネシア炭を輸入していた。昨年の輸入量はさらに伸びているようだ。輸出禁止が長引くと両国は大変だ。
 まあ、日本の燃料用一般炭のインドネシア依存度は高くない(図-1)から大丈夫との見方もあるかもしれないが、何があるか分からないのがエネルギーの世界だ。仮に日本が一般炭の4分の3を依存する豪州の鉄道、港湾で長期のトラブルが発生すれば、日本の電力会社の貯炭も数か月で底を尽くことになるのではないだろうか。豪州では長期の社会的なトラブルは考え難いが、かつては炭鉱の労働争議が頻発する国だった。豪州に限らず、90年ごろまで世界多くの国で石炭労働者は過激だった。


図-1 日本への一般炭輸出国シェア
注:2021年4月から11月の実績 出典:通関統計

 日本でも石炭生産がほぼピークに達した59年から60年にかけ三井三池争議が発生したが、坑内掘りの炭鉱労働者は閉じ込められた空間で危険を伴う共同作業を行うためか、仲間意識が強く先鋭化しがちだ。米国東部の多くの炭鉱は坑内掘りで、かつては組合所属の炭鉱労働者が多かった。組合との労働協約改定時には、90年代まで死傷者がでることがあった。ストライキに突入した組合員はライフルで武装し、経営者が石炭の運び出しのため雇用したトラックの運転手などを狙撃するのだ。私の知人の鉱山長は、スト中の炭鉱の様子を見に行った間に駐車していた車をダイナマイトで爆破された。炭鉱だからダイナマイトはある。
 豪州の炭鉱労働者は米国ほど過激ではなかったが、職域で組合が分かれ多くの組合に属す労働者が同じ炭鉱で働いているため、職域論争がかつては頻発した。例えば、ベルトコンベヤーに木材が挟まり石炭があふれ出ていることに気が付いた電気技師が木材を取り除いたところ、ベルトコンベヤー担当の組合員が俺の職場を奪ったと騒ぎ、その組合員全員がストライキに入り操業が止まるというようなことだ。
 いまは、どの国でもかつてのような労働争議はみられなくなったが、洪水などの頻度が高くなり、港湾、鉄道を含めトラブルが発生する可能性は高くなっているだろう。石炭産出国の多くは信頼度が高いとは言え、仮に、豪州の主要港湾で長期間に亙るトラブルが発生すれば、石炭火力に3割を依存している日本も安閑とはしておられない。
 欧州委員会の副委員長は、「化石燃料に依存せず、太陽光と風力発電設備導入を進めておけば、停電しない」と主張するかもしれないが、これは眉唾だ。昨年春から夏にかけ、欧州では風が吹かず、天然ガス火力の発電量を増やすことで対応したが、天然ガスの価格が上昇したので、石炭火力からの発電増でも対応することになった(ドイツにも差し上げたい“名誉ある化石賞”)。不安定な再エネ電源が増えれば、火力発電設備がなければ停電するということだ。電力市場が自由化された日本では、設備を作っても将来の発電量と価格を見通すことが難しい。要は、発電設備への投資に対するリターンが分からないから、リスクを取ることが困難になっている。


図-2 日本の火力発電設備量推移
注:各年5月15日時点の稼働設備 出典:発電情報公表システムから作成

 ということで、日本では自由化以降火力発電設備量は減少を続けている(図-2)。いつも発電できない再エネ電源が増えれば停電のリスクが高まる。火力発電設備も燃料供給のリスクを抱えている。安定供給のために必要なのは、電源の多様化の徹底だ。脱炭素政策の下、脱石炭火力を進めた欧州のように一つの電源、ここでは天然ガス火力だが、への依存度が高まると(図-3)、一つのエネルギーの影響を大きく受け、場合によってはエネルギー危機を招くことになる。


図-3 EU化石燃料・再エネ電源別発電量推移
出典:EMBER

 脱炭素を進める日本が安定供給を確保する手段は限られている。欧州諸国が電力供給量の25%を依存し、米国が20%を依存している原子力発電を使うしか方法はない。再エネ電源が増加し停電の可能性が高まらないうちに原子力発電を整備しなければ、停電にびくびくしながら暮らすことになる。



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