MENUMENU

全国1,741の自治体毎の地域エネルギー需給データの公開について


国際環境経済研究所主席研究員、元内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」サブ・プログラムディレクター


印刷用ページ

1.地域分散型エネルギーシステムの重要性

 「2050年カーボンニュートラル目標」の達成に向けて、今後、日本は、再生可能エネルギー(再エネ)や未利用エネルギーの有効利用、熱の有効利用等を進めていくことが重要となりますが、そのためにはエネルギーの需給構造を地域分散型に変えていく必要があります。これらのエネルギーは分散型のエネルギーであり、可能な限り地産地消することが必要かつ効率的だからです。加えて、エネルギー源の分散化は供給リスクの低減につながることから、日本のエネルギーシステムの強靭化にもつながります。
 こうした変化にともなって、エネルギー政策に係る中央と地方政府の間のこれまでの役割分担も大きく変わり、地域の安定的なエネルギー需給を確保し、さらにエネルギーの脱炭素化を進めていくための地方政府の役割が格段に大きくなっていくと考えられます。
 実際、地域の脱炭素化に向けた地方自治体の取り組みに対する支援の一環として行われた環境省からの呼びかけに応える形で、2021年末までに514自治体(40都道府県、306市、14特別区、130町、24村)の地方自治体が、「2050年までにCO2排出実質ゼロ」を実現する「ゼロカーボンシティ」を目指すことを表明し、そのための取り組みを開始しています。これは、全国1,741の地方自治体の約30%にあたります。

2.「地域エネルギー需給データベース」の公開

 そうした地方自治体が、数字に裏付けられた具体的な取り組みを進めるうえで重要な基礎情報となる地域のエネルギー需給の実態に係る情報が、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の「IoE(Internet of Energy)社会のエネルギーシステム」注1) の成果の一つ、「地域エネルギー需給データベース」として、以下のサイト(URL: https://energy-sustainability.jp/)で近々先行的に公開され、利用可能になります注2)
 このデータベースは、SIP「IoE社会のエネルギーシステム」の研究テーマの一つ、「地域エネルギーシステムデザインのガイドライン策定」研究(研究代表者:東北大学大学院工学研究科 技術社会システム専攻 中田俊彦教授)の一環として作成されたものです注3) 。なお、同研究では、データベースの作成に加えて、デジタル化の進展によって近年利用可能になりつつある分、秒単位のデジタル情報(気象、携帯電話位置情報、電力需要データ等)を活用して、行政区域の境界を超え(クロスボーダー)、エネルギー種別を超えた(クロスセクター)、より合理的、効率的な地域エネルギーシステムを設計、構築するための手法を示した「地域エネルギーシステムデザインのガイドライン」を作成中で、このガイドラインは研究が終了する2022年度末に公表する予定です。

3.「地域エネルギー需給データベース」の概要

 公開予定の「地域エネルギー需給データベース」は、全国1,741の自治体毎に以下のデータを収載したものです:

エネルギー最終消費部門別、エネルギー種別消費量データ
自治体内のエネルギー最終消費部門別、エネルギー種別(32部門,11エネルギー種・用途)の消費量を、「エネルギー総合統計」と同様のエネルギーバランス表の形式で収載(【図1】に北海道函館市の例を示す);
地域内に賦存する再エネ(太陽光、風力)発電ポテンシャルデータ
自治体地域内に賦存する太陽光と風力エネルギーの発電ポテンシャル量を、空間解像度:5kmメッシュの区域別平均値、時間解像度:1時間で収集したデータをもとに、1時間毎の数値情報として年間8,760時間分のデータを収載;
熱需要分布データ
自治体内の区域毎(空間解像度:250mメッシュ)の年間熱需要分布を地図上で表示。

【図1】「地域エネルギー需給データベース」の地方自治体毎のデータの収載例
(北海道函館市のエネルギー消費統計表の例)
出典:東北大学 中田俊彦研究室(2021)
 [拡大画像表示]

 データベースに収載されるこれらのデータは、地域の脱炭素化を進めようとしている地方自治体にとってきわめて重要な基礎データを提供するものとなると思います。何故なら、後述するように、日本にはこうした情報がこれまで存在していなかったからです注4)

4.日本におけるエネルギー需給に関する統計等の現状

 ここで日本のエネルギー需給に関する統計等の現状を簡単に記しておきましょう。
 全国レベルの年間のエネルギー需給の状況については、日本に輸入され、あるいは国内で生産、供給された、石炭・石油・天然ガスなどの個々のエネルギーが、どのように(電気や都市ガス等に)転換され、最終的にどのようなエネルギーの形態で、どの部門でどのような目的で消費されたかを定量的に示す情報が「総合エネルギー統計」(エネルギーバランス表)として、経済産業省資源エネルギー庁によって、毎年作成公表されています。また都道府県レベルでは、エネルギー最終消費のうち、”企業・事業所他部門注5) ”、”家庭部門注6) ”、“運輸(家庭)注7) ”における、エネルギー種別のエネルギー消費量を推計した「都道府県別エネルギー消費統計」があります。しかし、それより細かい地域区分の政令市を含む市町村毎のエネルギー需給については、こうした統計やデータは存在していません。なお、「都道府県別エネルギー消費統計」に収載されているデータは、「統計」でありながら、いずれも他のエネルギー関係の一次統計注8) からの推計値で作成されたものであることに加え、推計自体の難しさ注9) や、推計方法の粗さ注10) に起因する問題等から、その精度にはかなりの限界があります。

5.地域の脱炭素化の推進のための情報整備の状況

 地方におけるエネルギー需給状況の把握に必要となる情報が、上述のような状況にあることもあって、環境省は「ゼロカーボンシティ」の実現に係る地方自治体の取り組みを含む地球温暖化対策に係る「地方公共団体実行計画」の策定と実施を支援するため、地方自治体の温室効果ガス排出量の現状や、地域の再エネポテンシャルの把握に資する情報の整備に取り組んでいます。
 具体的には、環境省の「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」で収集した温室効果ガスの排出量情報を基礎情報として、各地方自治体におけるCO2排出の現況を推計するための複数の手法を算定マニュアルの形で示す注11) とともに、それらの手法のうち「標準的手法」(日本全体のCO2排出量を地方自治体の活動量が全国に占める割合で按分する手法注12) )を用いて推計した地方自治体別、エネルギー消費部門別のCO2排出量を環境省のHPで公表注13) しています(公表内容の概要を【表1】の右欄に示す)。


【表1】「地域需給エネルギーデータベース」の特長
出典:東北大学 中田俊彦研究室(2021)作成資料から抜粋(2021)
 [拡大画像表示]

 ただ、このようなCO2排出量を基本データとするアプローチには、限界があることも事実です。CO2排出量の数値を施策の必要性や効果を量る指標として用いるアプローチは、CO2排出量の現況や他との比較を示しつつ、排出者の行動変容を促すような排出削減対策には有用なものとなり得ますが、再エネの導入やエネルギー種の転換、省エネ対策の推進等の具体的なエネルギー対策にまで踏み込んだ対策につなげるためには、地域で消費されているエネルギーの種別、量に関する情報を別途推計する必要があります。この推計を行うことは、都道府県レベルでの消費エネルギーの種別構成とエネルギー種別のCO2排出係数を仮定することによって不可能ではありませんが、推計に推計を重ねることになり、そうした情報をもとに的確なCO2排出削減対策を特定することは困難と考えられます。
 環境省がこうしたアプローチをとった背景には、郊外の住宅地域や農漁村や山間地域等、民生部門(家庭、業務)のエネルギー消費が域内のエネルギー消費の相当部分を占める自治体が、かなりの数存在すること;そうした地域では、再エネの導入の増加にともなって民生部門の電力消費がエネルギー消費の中心となっていくと考えられること;加えて、そうした民生部門のエネルギー消費が中心の自治体では、脱炭素化を推進するための直接的な排出削減対策がとりにくいため、消費者の行動変容を促す以外に効果的な対策がないこと等から、環境省の施策の重点が、他の省庁の地球温暖化対策が十分にカバーしきれない民生部門の脱炭素化対策に置かれているからではないかと想像されます。
 しかしながら、現時点では日本の最終エネルギー消費量に占める民生部門のエネルギー消費割合は35%、民生部門のエネルギー消費量に占める電力エネルギー消費量の割合は52%注14) です。また、地方自治体におけるエネルギー消費形態は多様であり、例えば「地域エネルギー需給データベース」のデータをもとに、全国1,741の地方自治体のエネルギー消費構造の特徴を【図2】のような形で整理してみると注15) 、民生部門(家庭、業務)以外の部門でのエネルギー消費量の大きな自治体が多数存在します。こうしたことから、地域の脱炭素化を進める政策の基礎情報として、CO2排出量を用いるアプローチだけでは十分なものとは言えないでしょう。


【図2】全国1,741の地方自治体の部門別エネルギー消費構造の特長
(【表1】に示した各地方自治体毎のエネルギー消費統計表から作成したもの)
◆ 図中の各点は一つ一つの市町村の部門別エネルギー消費量の割合と大きさを示す。
出典:小野寺 弘晃, 根本 和宜, 中田 俊彦, 市区町村のエネルギー需給特性を考慮した広域圏エネルギーシステムの設計,
エネルギー・資源学会論文誌, 2021, 42 巻, 5 号, p. 337-350」
 [拡大画像表示]

6.「地域エネルギー需給データベース」の有用性

 他方、近々公開される「地域エネルギー需給データベース」では、前述のように、自治体内のエネルギー最終消費部門別、エネルギー種別の消費量がエネルギーバランス表の形式で提供されるので、エネルギー政策の効果の評価や定量的な脱炭素化目標の設定が可能となります。また、このエネルギーバランス表を用いて自治体内のエネルギー種別のエネルギーフローを可視化し、【図3】のような図を描くことも出来ます。これによって、脱炭素化のための政策の優先順位や施策の効果のスケールについて、より直感的に把握することも可能となるでしょう。例えば、脱炭素化対策として、地域内のメガソーラーやバイオマス発電所を建設することが、地域の脱炭素化においてどれほどの意義や効果があるのか等についても一目瞭然となります。


【図3】地方自治体ごとのエネルギー消費統計表から作成した地方自治体内のエネルギーフロー図
(例)岩手県宮古市の例
出典:東北大学 中田俊彦研究室(2021)
 [拡大画像表示]

 また、②の「賦存する再エネ(太陽光、風力)発電ポテンシャルデータ」のデータは、これまでの年間の平均値といった1点のデータではなく、時間粒度の細かなデータなので、発電ポテンシャルの季節変化、月変化、時間変化等を、より的確に反映した再エネの導入計画につなげることができるようになるでしょう。
 ③の地図情報で示される「熱需要分布データ」は、これまで日本では一部地域を除いて手を付けられてこなかった、地域内での未利用熱や排熱の有効利用を進めるうえで重要な基礎データとなることが期待されます。例えば、廃棄物を焼却処理する清掃工場やエネルギー多消費型産業の工場は、量的にも質的にも、優れた熱の供給源になり得る施設です。これまでこうした施設は、「迷惑施設」として一般の産業や人口の集積地から隔離された地域に立地、建設されてきましたが、脱炭素社会の構築の観点からは、その考え方を見直す必要があるかもしれません。
 またこのデータベースでは、全地方自治体のデータが同じ手法で按分、推計されてるので、複数の地方自治体による広域圏の取り組みに利用可能ということが、もう一つの特長として上げられるかもしれません。
 しかし、この「地域エネルギー需給データベース」に収載されているデータの多くは、推計値であり、個々のデータには、先に「4」で記したようなさまざまな問題を内包していることには留意が必要です。ただこの問題は、日本のエネルギーに関するデータの収集、蓄積、そして利用のあり方を抜本的に見直すことによって解決されるべき問題で、これはこれで今後の日本のエネルギー政策の企画立案に必要となるデータ整備面のとても大きな課題だと思います。

注1)
SIP「IoE社会のエネルギーシステム」は、“Society 5.0時代のエネルギーシステムであるIoE社会の実現のため、再エネが主力電源となる社会の次世代エネルギー変換・マネジメントシステムの設計について検討し、エネルギー利用最適化に資するスマートシステムの構築と、その要素技術であるエネルギー高速変換・伝送システムのイノベーションの達成に向けた研究開発を実施し、社会実装を図る”ことを目的としたプロジェクトで、(A)IoE社会のエネルギーシステムのデザイン、(B)IoE共通基盤技術開発、(C)IoE応用・実用化研究開発の3つのサブテーマからなる。プログラムディレクタ(PD)は、柏木孝夫東京工業大学特命教授、プロジェクト期間は、2018~22年度。
注2)
2022年2月1日現在、工事中。
注3)
「地域エネルギーシステムデザインのガイドラインの策定」研究は、SIP「IoE社会のエネルギーシステム」のサブテーマ(A)「IoE社会のエネルギーシステムのデザイン」(サブPD:浅野浩志岐阜大学特命教授)の一つとして実施されているもので、中田俊彦教授を研究責任者として、文字どおり、地域エネルギーシステムデザインのためのガイドラインの策定を目的としている。なお、筆者は、このSIP「IoE社会のエネルギーシステム」のイノベーション戦略コーディネータを務めている。
注4)
一部の政令指定都市では、域内のエネルギー需給構造の把握に必要となるデータを収集するために、新たに条例を制定するなどにより、必要な情報収集している例がある。
注5)
「企業、事業所他」部門には、農林水産鉱建設業、製造業、業務他(第三次産業)が含まれる。
注6)
「家庭」部門には、家庭でのエネルギー消費が含まれる。
注7)
「運輸」部門には、旅客用の乗用車でのエネルギー消費が含まれる。他方、事業用の貨物輸送等のエネルギー消費量に関するデータはない。そこで、ここでは「運輸(家庭)」と記述している。
注8)
資源エネルギー統計、石油等消費動態統計、電力調査統計、ガス事業統計等。
注9)
例えば、自治体の境界区分を超えて供給、消費されているエネルギー消費量の自治体間の配分に係る推計等。
注10)
例えば、「家庭部門」のエネルギー種別のエネルギー消費量を推計するためのサンプリング調査の対象や数等。
注11)
「地方公共団体実行計画策定、実施マニュアル(区域施策編)Ver.1.1」、2021年3月、
(本編) https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/data/manual_main_202103.pdf;  
(算定手法編)https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/data/manual_santei_202103.pdf
注12)
例えば、産業部門(製造業)の場合は製造品出荷額、運輸部門の場合は自動車保有台数、業務部門の場合は従業者数、家庭部門の場合は世帯数)等が全国に占める割合で按分。詳しくは「2018年度の運室効果ガス排出量推計の前提条件」(https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/tools/siryou/suikei-1.pdf)を参照。
注13)
「全市区町村の部門別CO2排出量の現況推計値」https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/tools/suikei.html
注14)
2019年度エネルギー総合統計による。
注15)
【図2】中の各点は、それぞれの自治体を表す。図中の点の位置は、1,741それぞれの自治体のエネルギー需要の需要部門別(産業、業務・家庭、運輸)の割合を表している。図中の仙台市の例を参照。