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脱炭素政策がもたらした電力危機、解決策は原子力だ(その2)


Breakthrough Institute / キヤノングローバル戦略研究所 International Research Fellow


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翻訳:キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 杉山大志 

原文は Foreign Policy 掲載記事で、許可を得て翻訳掲載する。
https://foreignpolicy.com/2021/10/08/energy-crisis-nuclear-natural-gas-renewable-climate/

前回:脱炭素政策がもたらした電力危機、解決策は原子力だ(その1)

 近年、多くのエネルギーアナリストや一部の環境保護団体は、世界が必要とするエネルギーを100%再生可能エネルギー技術でまかなうという途方もない考えからは脱却しつつあります。しかし、安価な風力や太陽光を中心とした再生可能エネルギーの割合を80%にまで高める道筋は、実行可能であり、十分に理解されており、その可能性は高い、といったコンセンサスがいまなおあるようです。これはある意味の自惚れで、詳しくはほとんど語られていませんが、「世界が80%まで到達すれば、残りの部分はどうにかなる」という思い込みに過ぎない。残りは、多少の原子力エネルギーなのか、二酸化炭素を回収する化石燃料なのか、新しい地熱技術なのか、あるいは古き良き時代の天然ガスを植林やその他の「ネット・ゼロ」の解決策で相殺する、といった見解です。結局のところ、未来はずっと先のことなので、このようなことを言って済ませている。

 このような新しいシナリオを提唱する人たちの間では、昼夜を問わず発電を行う大規模な集中型発電所を意味する「ベースロード電力」は過去のものとなっています。その代わりに、広大な土地に配置され、長距離の巨大な送電線ネットワークで結ばれ、必要になるまで何日も、何週間も、あるいは何か月も膨大な量の余剰電力を蓄えることができる、まだ発明されていない技術を備えた風力や太陽エネルギーが、ほとんどの時間、ほとんどの電力を生産することになります。

 しかし、近年、専門家やモデラーがこの問題に取り組んだ結果、「クリーンで確実な発電」と呼ばれる技術で補完しなければ、変動する再生可能エネルギーを用いて送電網をコスト効率よく運営することは極めて困難であることがわかりました。クリーンで確実な発電の有力な候補は、素人目には、現在ベースロード電力を供給している石炭、天然ガス、原子力などとよく似ています。違うのは、これらのベースロード発電所は、従来のように常時稼働しているわけではなく、ほとんどが使用されていない状態であり、風や太陽の気まぐれに応じて稼働率を上げたり下げたりしているという点です。また、石炭やガスの発電所では、炭素をすべて回収することになります。

 理論的には、原子力も石炭もガスもこの役割を果たすことができます。しかし、実際には、原子力や石炭はこの役割を果たすのにあまり適していません。どちらも莫大な初期資本コストと、燃料を燃やしていてもいなくても維持しなければならない多額の運転維持費がかかります。少なくとも現在の技術では、ほとんどの時間に稼働してこそ、経済的に成り立つものです。

 しかし、ガスの場合は違います。ガスプラントは建設費が安く、可変性の高い運転がしやすい。天然ガスが最初に電力システムに採用されたのは、まさにこの特性のためでした。つまり、ピーク時のベースロード発電に加えて、主に間欠運転を行うことを目的とした発電源だったのです。そのため、先進国の電力システムにおける風力や太陽光の大幅な普及に伴い、石炭に比べて相対的に高価であるにも関わらず、ガスの普及が進んだのも不思議ではありませんでした。ガスは、再生可能エネルギーを拡大するためのキラーアプリであることがわかります。問題は、ガスはクリーンではなく、世界のほとんどの地域では安価でもないということです。

 再生可能エネルギーの未来への道を誠実に議論するためには、天然ガスが果たしている重要な役割、そして今後何十年にもわたって果たし続けるであろう役割を認識する必要があります。天然ガスは世界的に不足しておらず、今後数十年の間に新たに天然ガス田を開発する機会も十分にあります。そのためには、環境保護主義者や自然エネルギー推進派は、短期的には水圧破砕によるシェールガス採掘や、パイプラインの敷設、長期的には二酸化炭素回収技術を受け入れる必要があります。しかしながら、いずれもほとんど反対しています。

 また、グリーン・ムーブメントが長年抱えてきた “NIMBY(ニンビー)”という考え方も見直さなければなりません。現在の電力危機から学ぶべきことがあるとすれば、大量のガスがあったとしても、多くの人々が近くにあることを好まないもの(巨大な高圧送電線や、土地利用に多大な影響を与える産業規模の風力・太陽光発電施設など)を建設しない限り、自然エネルギーを中心とした安価で安定な電力供給は実現できない、ということです。

 あるいは、環境保護活動家や政策立案者は、再生可能エネルギーへの一点集中から脱却し、より低コストで信頼性が高く、排出量削減に効果的な他の可能性を切り開くことができるかもしれません。

 そのためには、まず原子力発電所の閉鎖をやめることです。2011年の福島第一原子力発電所の事故をきっかけに、日本やヨーロッパ、アメリカで原子力発電所の閉鎖が相次ぐ前は、アメリカでは電力の20%、EUや日本では25%以上を原子力が占めていました。原子力はクリーンであるだけでなく、最も安価な電力源でもありました。そのクリーンな電力を、可変式の再生可能エネルギーで代替することは不可能であることがわかりました。原子力発電所を閉鎖したほぼすべての国で、クリーンな電力はダーティーな電力に取って代わられています。これは、二酸化炭素を排出せずにいつでも大量の電力を生産できるという原子力技術のユニークな能力を証明するものなのです。

 米国では、主要な環境団体の多くが、既存の原子力発電所を維持するというアイデアに、少なくともリップサービスをしています。しかし現実には、ニューヨーク州、ニュージャージー州、オハイオ州、イリノイ州などで原子力発電所は閉鎖の危機に直面しました。環境団体が実際にしたことは、再生可能エネルギーへの補助金をさらに増やす要求であり、原子力発電所の運転の維持はその人質とされました。

 一方、欧州の環境保護団体やドイツなどの政府は、この問題には完全に無関係です。原子力発電所の閉鎖を進めるとともに、欧州委員会が「持続可能なエネルギー」のリストに原子力を含めることを阻止するキャンペーンを展開しています。

 既存の原子力技術以外にも、いくつかの企業が米国原子力規制委員会(NRC)で新しい先進的な原子力技術の認可を目指しています。これらの原子力発電所は、さまざまな種類の燃料や冷却剤を使用し、従来の原子力発電所よりも一般的に小型で、工場で製造することができます。従来の原子力発電所が基本的に大規模な建設事業であるのとは対照的です。また、出力の増減にも適しているため、風力や太陽光発電との連携も容易です。

 しかし、米国議会の下院民主党が最近発表した予算案では、先進的な原子力技術への支援は、風力や太陽光、さらには二酸化炭素回収技術よりも大幅に少なくなっています。これは適切ではありません。なぜなら、先進的な原子力技術はまだ初期段階にあり、公的な支援を必要としているからです。のみならず、再生可能エネルギーを補完する能力があるため、低炭素電力システムにとって、はるかに価値もあります。

 一方、米国の主要な環境保護団体は、新型の原子力発電所が1基も建設されないうちに、NRCの許認可プロセスを通じて、先進的な原子力発電所を事実上禁止する規制を導入する準備をすでに整えています。開発中の原子力発電所は、安全な従来型原子力発電所よりも数桁安全であり、人類が発明したエネルギー技術の中で最も安全なものとなるにもかかわらず、環境保護団体は、現在の従来型原子力発電所に求められている規制よりも、はるかに厳しい規制措置を要求しているのです。

 他方で、新世代のさらに安全な原子炉と、明白な原子力の排出削減効果を前にして、反対派は「原子力は単にコストがかかりすぎる」と主張するようになりました。これは、気候変動対策を支持する人たちにとっては奇妙な主張です。というのは、他のすべての技術については、市場は排出削減の利益を正しく評価しないと主張するが、原子力に関してだけは市場が正しいと主張しているからです。反対派は、コストが上がるような規制を導入しておいて、原子力は高コストだと主張しています。現在、原子力発電所の建設費用は、その国の環境保護運動の影響力にほぼ比例しています。中国、韓国、アラブ首長国連邦、ロシアは、反原発の主張を無視すれば、安価で信頼性が高く、安全な原子力発電所を建設することが可能であることを、近年、実証しています。

 欧米では原子力発電所は建設が困難でコストが高いのは、反対派がそうさせたからです。反対派は、放射線医学などの他の分野では類例のない、厳しい規制にこだわっています。反対派は数十年前に原子力開発を中止させる運動に成功しました。このことは、原子力開発を再開し、効率的なサプライチェーンと熟練した労働力を再構築し、何度も製造・建設することでしか得られない技術的な学習をする上で、大きな障壁となっています。風力発電機やソーラーパネルの製造コストが下がったのは、技術的な学習の効果によるものです。世界が十分な数の原子力発電所を建設するならば、新しい原子力技術についても学習効果が働き、コストも下がるはずです。

 また、欧米の環境保護団体は、原子力が気候変動に対する明白で実証済みの解決策のように見えたとしても、原子力は一般市民には独特の不人気さがあり、追求する価値はないと長い間主張してきました。しかし、仮に原子力エネルギーのリスクが人々の心の中で非常に大きな位置を占めているとしても、再生可能エネルギーの本格的な構築も、風景やその近くに住む人々に与える大きな影響は、それに劣らず大変なものとなります。

 原子力発電は、間違いなく複雑な技術です。そして悲劇的なまでに誤解されてきました。しかし、一度電源を入れてしまえば、現代社会のエネルギー需要のほとんどを満たす電力を、比較的簡単なインフラで作り出すことができます。一方、風車やソーラーパネルは、シンプルで親しみやすい技術です。しかし、社会が必要とするエネルギーを満たすためにそれらを利用することは、たとえ一時的であっても広大な面積にわたる複雑な作業が必要となります。

 究極的には、多くの原子力エネルギー(特に次世代技術)がある未来は、多くの風力や太陽光を受け入れることができる未来でもあるのです。ゼロカーボンの原子力エネルギーという選択肢がない未来は、いずれにしても、多くのガスや石炭を必要とする可能性があります。エネルギー危機に直面している英国は、2035年までに十数基の原子力発電所を新設する計画を発表しました。欧米の政策立案者や環境保護活動家は、同様の選択を迫られるか、あるいは間もなく迫られることになるでしょう。すなわち、より多くの原子力発電所を建設するか、あるいは化石燃料の重要な役割を何十年にもわたって継続することを受け入れるか、という選択です。現在、世界各地で起きている電力危機は、この選択をする必要がないと偽ったために起きているのです。