太陽光発電・アセットマネジメントガイドライン
中島 みき
国際環境経済研究所主席研究員
2012年7月、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(再エネ特措法)」に基づき、再エネの固定価格買取制度(FIT制度)が導入されて以来、日本の再エネの導入は、太陽光発電を中心として着実に進み、2018年7月に閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」では、再エネは長期安定的な主力電源として持続可能なものとなるよう、引き続き円滑な導入に向けた取り組みを推進することとされた。そして、2020年6月に成立した「エネルギー供給強靭化法」において、再エネ特措法は、「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法」と改正され、具体的には、FIT制度に加え、市場価格に一定のプレミアムを上乗せして交付するFIP制度の創設、再エネ拡大に必要な地域間連系線等の系統整備を賦課金方式で全国で支える制度の創設、および太陽光発電の適切な廃棄に向けた廃棄費用の外部積み立ての原則義務化などが盛り込まれた。
一方で、2012年以降急増する太陽光発電設備に対して、事業の開発段階における環境や技術基準の整備については、残念ながらFIT制度導入の後を追う形となった。まず、環境アセスメントについて、太陽光発電は、建設時の大規模な森林伐採などで、環境破壊を招くケースが見受けられるようになった。政府は、大規模太陽光を環境影響評価法の対象とするため、環境省の有識者検討会や中央環境審議会などの議論を経て、2019年7月、必要要件などを定めた政令を閣議決定した。これにより、出力40,000kW以上の太陽光は必ず環境影響評価を実施する「第一種事業」、30,000kW以上40,000kW未満は個別事業ごとに実施を判断する「第二種事業」とされた(2020年4月施行)。
次に、設計基準について、従来、太陽光発電システムは、「電気設備の技術基準の解釈」によれば、「JIS C 8955:2004太陽電池アレイ支持物設計基準」(2004年基準)に基づき構造設計されることとなっていたが、昨今の異常気象による暴風などを踏まえ、JIS C 8955は、設計荷重の適正化を目的として、2017年に「太陽電池アレイ支持物の設計用荷重算出方法」に改定された。詳細は、長期的に社会インフラとして構造安全性の高い太陽光発電システムを提供できるよう、NEDOが作成した、架台・基礎の設計基準となる「地上設置型太陽光発電システム設計・施工ガイドライン(2019年版)」注1) を参照されたい。また、再エネ事業者が再エネ特措法および同法施行規則に基づき遵守が求められる事項、および法目的に沿った適切な事業実施のために推奨される事項(努力義務)については、資源エネルギー庁の「事業計画策定ガイドライン(太陽光発電)」(2017年3月策定、2020年4月改訂)注2) で纏められている。
しかし、FIT制度開始後3年間の利潤配慮期間(IRRを1~2%程度上乗せして買取価格を決定した期間)に、(高額な開発費用を要する)森林開発・土地造成を伴う太陽光発電事業の新規開発が積極的に進められたことから、メガソーラーの開発は既に一巡しており、今後の新規開発は小規模案件にシフトしつつある。
従前の太陽光案件の開発実態を振り返ってみると、再エネ発電事業者の中には、技術基準に適合した設計を行わず、安全性の確保のための対策が十分でなく、台風などによる被害が顕在化した事例や、防災・環境上の懸念により地域住民との関係性が悪化した事例もあった。
今後は、長期安定的な電源として、FIT期間後も含めた、ライフサイクルに配慮し、企画・建設段階の視点だけでなく、設備の運転・保守・維持管理段階におけるアセットマネジメントの重要性が高まってくるだろう。
かかる視点から、一般社団法人日本アセットマネジメント協会(JAAM)太陽光発電アセットマネジメント委員会では、「調査・計画→設備設計→施工→竣工→売買→保守・維持管理→更新→廃棄」のライフサイクルに亘る一貫したアセットマネジメントに向け、「太陽光発電アセットマネジメントガイドライン(案)」注3) を公表している。このガイドラインは、各段階ごとに既に整備されてっきたガイドラインに横串を刺し、アセットマネジメントシステムの国際規格であるISO55001の考え方をもとに、大規模な太陽光発電だけでなく、中小規模の太陽光発電システムのアセットマネジメントにも参考になるものである。技術的な視点はもとより、各段階におけるリスクやステークホルダーとの関係、経済性評価など、多面的で実務的に有用なガイドラインとなっており、ぜひ、多くの再エネ事業の実務者の皆様に推奨したい内容である。
太陽光発電システムが、長期安定的な電源として重要な社会インフラとなるために、計画、開発から維持管理、更新、廃棄に至るまで、適切なアセットマネジメントが広く理解・定着することを期待したい。
「太陽光発電アセットマネジメントガイドライン(案)」
https://www.ja-am.or.jp/solar_energy/jaam_solar_energy_guideline.pdf