国策に翻弄されてきた石炭火力発電所・そして、また!


国際環境経済研究所主席研究員、(一財)日本原子力文化財団 理事長

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39年間続いた国内石炭保護政策

 1962(昭和37)年第一次石炭政策が出された。国内の炭鉱で働く人たちと地域を保護するためだ。政策は、“石炭合理化策”という名称だった。
 それ以降、第八次政策終焉の2001(平成13)年まで、39年間の長きにわたって国内炭保護政策は続いた。この間、国内の産炭現場の厳しい状況を現す象徴的出来事もあった。第一次政策答申直後の昭和38年11月、福岡県大牟田市三川町・三井三池三川炭鉱で、炭塵による粉塵爆発が起こった。爆発と一酸化炭素中毒で458名が亡くなり、839名が一酸化炭素中毒になった。往時、この地は、組合運動も活発で、指導者:向坂逸郎は、この炭鉱を社会主義革命の拠点にしようという考えをもって、働く人たちを指導していた。その拠点での出来事だった。
 この第一次政策以降、“国内炭保護”の名の下に、国内石炭産業生き残り策が講じられ、資金がつぎ込まれ続けられた。背景には、地域の難しい事情もあった。つぎ込まれた資金は、恐らく累計数兆円を下らないだろう。

時代の流れに抗して進められた政策

 この国内炭保護政策は、“時代の流れに抗して”続けられたのだった。
 時代の流れの第一は、“流体革命”である。世界のエネルギーの流れは、石炭から石油へと移りつつあった。利便性に加えて、経済性でも石油は優れていた。1960(昭和35)年、重油ボイラー規制法が改正されたことをきっかけに、石炭火力から石油火力への転換が急ピッチで進んだ。1962(昭和37)年には、石油輸入は、ほぼ全面自由化された。
 時代の流れ・第二は、海外炭の流入である。海外からの輸入炭が安く、国内炭は、経済的に圧倒された。価格差が大きかった。この海外からの石炭利用は、後述の通り、石油ショック後に急進展するが、全国の電力会社の燃料選択においては、徐々に進んでいた。しかし、政策は、高い国産石炭を使うよう求め続けた。電力会社もこうした政策に協力した。往時の卸売電力会社・電源開発㈱に、国内炭“揚げ地石炭火力発電所”の建設を要請したのは、その好事例だ。国内炭で発電する電気を買い取ることを約したのだ。今も稼働する電源開発の竹原一号機(25万kW、1967年運転開始)は、その第一号だった。

“揚げ地石炭火力発電所”:
標準的には、大量の石炭を荷下ろしする港湾設備などと石炭をストックする貯炭場を備えた発電所。産炭地での発電所立地“産炭地火力発電所”と対比して使われる用語

石油ショックで“石炭利用再評価”

 1970年代に、二度の石油ショックを経験し、エネルギー政策は、石油利用を減らす方向へと転換した。“省エネルギー”、“原子力発電開発推進”、“石炭活用”が新しい方向性だった。(石油)“代替エネルギー開発”推進と言われ、エネルギー源多様化政策だった。将来を考えて、サンシャイン計画やムーンライト計画なども始められた。こうした石炭利用奨励政策もあって、海外からの石炭を燃料とする石炭火力発電所の建設が進んだ。それでも、安い海外炭利用を横目に、国内石炭保護政策は続けられた。石炭政策は、エネルギー政策というより、一種の社会政策だった。

北海道の場合

 代表的現実は、北海道にあった。日本の産炭地は、九州の一部地域、茨城県常磐、それに、北海道だった。北海道では、産炭量は少ないながらも、今も生産が続けられている。往時、一般電力会社の中で、北海道電力は、幾つかの産炭地火力を抱え、海外からの石炭に比べてはるかに高い北海道産の石炭を焚がざるを得なかった。当然、電気料金は高くなる。極端に言えば、国策に協力すればするほど、北海道の電気料金は上昇するのだ。これはいかにも、理不尽なことだ。そこである案が考え出された。国内炭が発電する高い電気を全国の他の電力会社が規模に応じて買い取って、均平化したのだ。一般電力会社全体で、国内炭保護の政策に協力したわけである。単価にすれば、微々たる額だが、日本の全国各地の電気料金がその分高くなった。

またまた翻弄される石炭火力

 ところで、7月の初め、経産省が“非効率石炭火力発電を削減する”という方針を発すると言う案が伝えられた。大臣からの発表もあった。国が新たに石炭火力発電についての政策を出すのだ。“石炭”からすれば、またまた翻弄するのかと言うだろう。気候変動問題が重大化している現在だけに、もっともに映るところも無くはない。

語られないエネルギー政策の王道

 しかし、本来、21世紀の現在、エネルギーについて国策として期待したいのは、別なところにある。それは、21世紀におけるエネルギー源多様化確保であり、国際的に高い電気料金水準の是正、そして、安価・安定の原子力発電の活用ではなかろうか。石炭の場合には、高効率石炭火力が多様化の基軸の一つである。何といっても石炭はまだまだ安いのだ。国が注力している太陽光や風力など再生可能エネルギーについては、既に十分に手が打たれているといえよう。これ以上の開発は、おそらく、社会全体としては限界費用が高いものになるのではなかろうか。

経済産業大臣にお願い・・・電力多消費産業の声に耳を傾けて

 今回の案を表明された梶山弘志大臣にお願いがある。
 エネルギーが重要政策の対象であることは多言を要さない。だが、エネルギー、特に、電気を原料として利用する大小様々な産業も経済産業省の重要な政策対象である。日本国内各所に工場があり、働く人も多く、すそ野が広い。こうしたエネルギー利用産業にも大臣の目を配ってほしい。
 実は、鉄鋼やソーダ業界など電力多消費の11業界は、昨年1月、共同要望書「国民負担の抑制と再エネの最大限の導入に向けて」を発している注1)。その前年2018年4月16日には、“ 電気料金抑制を実現するエネルギー・温暖化政策を求める”という提言注2)もしているのである。
 この提言に名を連ねる産業団体は、全国各地の経済団体連合会を含め、実に153を数える。
 いずれも先進国の中でもダントツに高い電気料金の低廉化を望んでのものである。
 
大臣!
まずは、この共同要望書に目を通していただきたい。基礎素材産業の痛みと切実な要望が良くわかると思う。

(お断り:本原稿で語る“石炭”は、発電用の一般炭である。)

注1)
鉄鋼やソーダ業界など電力多消費の11業界共同要望書「国民負担の抑制と再エネの最大限の導入に向けて
https://www.jisf.or.jp/documents/201901youbou.pdf)。
11業界:日本鉄鋼連盟、特殊鋼会、普通鋼電炉工業会、新金属協会、日本金属熱処理工業会、日本鉱業協会、日本産業・医療ガス協会、日本ソーダ工業会、日本チタン協会、日本鋳造協会、日本鋳鍛鋼会
注2)
153団体提言書「電気料金抑制を実現するエネルギー・温暖化政策を求める」 
https://www.jisf.or.jp/news/topics/documents/kyoudoyoubo20180514.pdf)。