エネルギー・ライフラインを守るエッセンシャルワーカー
中島 みき
国際環境経済研究所主席研究員
日を追うごとに、コロナ感染者数が増え、4月7日に東京、大阪、兵庫など7都府県に緊急事態宣言、16日には、国の緊急事態宣言が全国に拡大された。在宅勤務や施設・店舗の休業要請も行われるなど、国全体、世界全体で緊張感が高まっている。ゴールデンウイークが終わり、ピークは過ぎたようにも思われるが、なお収束への道筋は明らかではない。このような中、私たちの暮らしに欠かせないエネルギーの供給は、どうなっているのだろうか。今回、関西電力姫路第二発電所について、最前線での取組みをお伝えしたい。
1.姫路第二発電所の概要
姫路第二発電所は、姫路市南部の播磨臨海工業地帯の中心に位置し、関西電力の火力発電所で最大規模を誇る代表的な火力発電所であり、約75万m2(甲子園球場の約19個分に相当)の構内に姫路LNG基地を有しており、関西電力で唯一、燃料である液化天然ガス(LNG)の受入、貯蔵、気化から発電までを一貫して行っている。具体的には、近隣の姫路第一発電所に天然ガスを供給するとともに、ローリー車によるLNG販売やガス託送(都市ガス製造供給)のガス事業も行っている。
2010年から2015年にかけて、1600℃級ガスタービンを用いたコンバインドサイクル発電方式(ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた発電方式)へ設備更新(6基)を行い、熱効率は約42%から世界最高水準の約60%に高まり、CO2の排出量の大幅な削減を図っている。
2.ライフラインの維持
姫路第二発電所では、2020年度末に廃止予定の既設機は、需給状況に応じて出力を調整するミドル運用を行う一方、熱効率が高く、キロワット時あたり燃料費が安価となる新設機は、ベース電源に近い運転を行っている。2018年度の既設機の年間稼働率は約30%、年間発電量は約27億kWhで、新設機は約80%、約205億kWh、合計すると関西電力全体の販売電力量の約2割を占めており、安定供給を果たす上で重要な存在となっている。
安全を大前提として、低炭素化に貢献する高効率火力発電を用いて、安価で安定した電気の供給を行う(即ち、S+3Eを実現する)ことが、最大の使命である。
3.新型コロナに感染しない、拡散させない
まずは、①新型コロナに感染しないための防止対策をしっかりと講じることとしている。その上で、②万一、感染発生した場合の、拡散させない対応について、状況変化に応じて段階的に強化している最中であり、感染者を出さないよう、常に緊張感を持っている。
<① 防止対策・具体的な取組み>
在宅勤務の拡大(日勤者を対象として「班交代制」の勤務形態を導入、要員を2分割して在宅と出社を交互に実施)で、1日当たりの出勤者を通常の3割程度に抑制して対応している。
通勤混雑回避に向けた時差出勤(社有バスは、日勤者と当直者が道場する場合、一定の距離を確保するなど着席位置を配慮)を行い、出勤する場合は毎回自身の体調確認・体温測定を実施し、少しでも体調に変化があれば在宅勤務(もしくは自宅待機)としている。
勤務時間中は、
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- 常時マスク着用、アルコール消毒の徹底
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- 中央制御室への入室制限(管理簿による入退室管理)
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- 共用PC、マウス、電話機、工具、ドアノブ等の定期的な消毒実施
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- 空き会議室を活用し、他課との接触を回避。出入口の開閉により、定期的に換気を実施
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- 現場作業は一定の距離を確保。関係会社への連絡は電話やメールを活用
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- 食事時間のシフト、対面での着席を禁止
などのルールを順守することはもちろんのこと、私生活においても、緊急事態宣言で要請されている3密対策や「行動変容」順守を徹底している。
<② 感染時の対応>
特に、中央制御室のオペレーターは24時間365日継続が求められるため、万一感染者が発生した場合、直ちに当直員の手当が必要となる。当直班単位で濃厚接触者となるリスクを見越し、オペレータ経験のある日勤者で構成する代替班を直ちに編成出来るよう準備している。もちろん、感染疑いの時点で接触者を自宅待機とし、感染拡大を早期に防止することも重要である。
<定期点検について>
火力発電所は、電気事業法施行規則により、定期点検が義務付けられており、安定供給のためには、定期点検および工事を行うことが不可欠である。今回の新型コロナウィルスの影響はあるのだろうか。
姫路第二発電所では、新設4号機が4/29から定検工事が始まっており、300人規模の作業員が出入りするため、感染予防の一層の徹底が必要となる。
一部工事は秋以降に繰り延べしたものもあるが、感染防止の徹底を大前提として、夏場の安定供給確保に向け、現状、上記のような対策を取りながら、工事や点検を進めているとのことである。
<ポストコロナに向けた変化について>
これまで現場作業必須としていた業務で、テレワークやデジタル対応に切り替えたといった成功事例はあるのだろうか。
発電所の業務は、オペレーションやメンテナンスそのものは現場の設備を相手にするため、テレワークでの対応は難しいが、例えば性能管理や工事の計画立案、各種改善活動の検討などは机上業務としてテレワークでできないか、まさに試行しているに等しい状況ということである。
テレワーク実施にあたっては、業務遂行に必要となる情報のすり合わせや調整、あるいは職能間、上司部下の意思疎通が希薄にならないか、そしてそのために業務品質が落ちないか、といったことが懸念される。
これらの課題は企業の本社等の管理業務でも同じであり、Web会議や電話、メールといったコミュニケーションツールを如何に上手く活用しつつ、たとえ遠隔であっても「組織での業務遂行のためにはそうしたコミュニケーションが必要である」という価値観をしっかりと共有することが求められると考える。
今回、従来からの非常対策マニュアルだけでなく、実際に直面する感染リスクの情報を整理しながら、日々対策や感染時の対応について議論を重ねていく中で培われたノウハウは、今後のパンデミック対策として大変有用なものになると確信しているということであった。
これまでも、発電プラントはデジタルデータにて監視・制御する仕組みであったし、人間系が処理する情報についてもデジタルデータにて把握、管理しているが、更にそれを進めていくことで、物理的なプラントの遠隔監視や机上業務のテレワーク化の拡大といった可能性が出てくるかもしれないと期待される。
終わりに
医療従事者や福祉関係者、物流、スーパー等のエッセンシャルワーカーを陰で下支えする、エネルギーインフラ。発電所の現場で働くメンバーもまた、エッセンシャルワーカーと言える。発電所では、電力会社の社員ばかりでなく、関係会社・協力会社の多くの人々で、安定供給の維持が成り立っている。
緊張感を維持しつつ、ストレスやプレッシャーに心身ともに負けず、安全・健康を一番に考えることが重要だと感じた。