第4回 GVCにおいてタイヤの使用時が8割。対策のカギは低燃費タイヤ[後編]

日本自動車タイヤ協会(JATMA)環境部部長兼技術部部長 緒方 務氏、同協会 環境部課長兼技術部課長 時田 晴樹氏


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 前編では、自動車タイヤ業界のグローバル・バリュー・チェーン(GVC)は、転がり抵抗の性能の小さい低燃費タイヤであることをお聞きした。CO2排出量をタイヤのライフサイクル全体(原材料調達、生産、流通、使用、リサイクル・廃棄)で見るとタイヤの使用時が8割以上になっている。後編では、GVCの評価とともに、自動車タイヤの将来像や環境問題全般への取り組みについてもお話を伺った。前編はこちらをご覧ください。

日本自動車タイヤ協会 環境部部長 緒方務氏

日本自動車タイヤ協会 環境部部長 緒方務氏

同協会 環境部課長 時田晴樹氏

同協会 環境部課長 時田晴樹氏

―――タイヤの使用時の過去と現在と比べての、CO2の排出量の変化はどうなっていますか。

緒方氏:2010年に開始したラベリング制度によって、転がり抵抗の小さいタイヤが年々普及してきました。その効果を把握するため、タイヤ1本あたりのタイヤ使用時のCO2排出量を算出しています。2006年から2012年の間のCO2排出量削減効果は18.5㎏(7.5%)/本、2006年から2016年の間のCO2排出量削減効果は34.1㎏(13.9%)/本でした。

(図1)タイヤ使用時のCO2排出量(タイヤ1本あたり) 出典:JATMA

(図1)タイヤ使用時のCO2排出量(タイヤ1本あたり) 出典:JATMA

 また、当該1年間に販売したタイヤが廃棄されるまでの間に排出するCO2の総量を比較すると、2006年と2012年では167.4万トン、2006年と2016年では297.2万トンの削減効果がありました。(図2

(図2)タイヤ使用時のCO2排出量削減効果 出典:JATMA

(図2)タイヤ使用時のCO2排出量削減効果 出典:JATMA

―――タイヤの転がり抵抗の低減が温暖化対策として効果を発揮していますね。また天然ゴムの調達もサステナビリティを目指している。製造段階のCO2排出はどうですか。

緒方氏:当会の正会員4社は日本ゴム工業会の会員企業として経団連の低炭素社会実行計画に参画していて、低燃費タイヤを含めた製品の製造段階のCO2排出削減を着実に進めています。
 低燃費タイヤの製造は、汎用タイヤに比べて工数が多い傾向があると思われますが、どれほどの違いがあるかは現在確認中です。

―――自動運転への技術開発が、この数年、注目も高まっていますが、タイヤ業界としては自動運転対応など、どんな将来像を描いてらっしゃるのでしょうか。

緒方氏:まず一番課題なのは、完全に自動運転になると、運転手なしに走ったりするようになる。タイヤがパンクしてしまって動けなくなったとなると、どうするのか。1つはタイヤの内圧を感知して、もし内圧が減ったら、自動的に空気を追加する技術が一部開発されていますが、コストや重量増などなかなか難しい面もあります。
 それ以外には、これもまだ一部ですが、エアレスタイヤがあります。従来の空気入りのタイヤと同等のクッション性を持ち、実際に路面に接するところのゴムだけをホイールに貼り付けたものです。
 従来のタイヤは空気入りですので、空気で衝撃を吸収します。一方、エアレスタイヤは、従来のタイヤで使用している金属製のホイールを樹脂製にして、そこで衝撃を吸収するようにできるようにしています。海外メーカーが開発したものが一部の軍用車両や産業用車両で、実際に使われ始めています。日本のメーカー各社も研究開発を進めており、コンセプトとして展示会などで展示していますが、実用化までは至っていない状況です。

―――将来の完全自動運転を見据えると、パンクのリスク対策は不可欠ですね。

緒方氏:ランフラットタイヤは、20年ほど前からあります。このタイヤは空気入りですが、例えば釘が刺さったりして空気が抜けてしまっても、ある程度の距離は走れる。つまりタイヤを交換しなくても、規定では時速80キロで、距離も80キロを走れる性能を持ったタイヤです。ただ、どちらかというと重くなったり、乗り心地が悪いといったデメリットもあります。欧州では積極的に採用している自動車メーカーもあります。

―――タイヤの話は奥深いですね。さて、バリュー・チェーンにおいては廃棄まで考えなくてはなりません。リサイクルについてどのような取り組みを進めていますか。

緒方氏:廃タイヤの適正処理を推進するため、タイヤ販売会社・販売店の廃タイヤ管理担当者を対象に研修会を実施したり、全国の処理状況を調査しています。ほか、不法投棄対策として自治体が行う廃タイヤ撤去事業の支援をしています。廃タイヤのリサイクル率は直近の調査(2018年)では97%となっています。

―――すごい、97%ですか!

緒方氏:かなり高いとは思います。リサイクルにもいろんなやり方がありますが、その中で一番多いのは、燃料として燃やすサーマルリサイクルです。主に製紙会社やセメントの工場で使っていただいています。石炭や石油を燃やす代わりに廃タイヤを燃やします。燃やすことでCO2は出ますが、新しく化石燃料を使わなくてもすみます。このサーマルリサイクルが約6割を占め、ほかマテリアルリサイクル(再生ゴム、ゴム粉等)、リユース(リトレッドタイヤ)、熱分解で得られた材料の再利用もされています。

―――廃タイヤのマーケットはあるのでしょうか。

時田氏:今はカットされた廃タイヤは燃料として価値が認められていますので、あると言えます。

―――トン当たりの価格は明確になっているのでしょうか。

時田氏:価格は廃タイヤを取り扱っている業者と購入者(製紙会社等)の間で決められます。

緒方氏:ただ最近の廃プラスチック問題が、廃タイヤの価格に影響を与えているようです。中国が廃プラの輸入禁止を打ち出し、日本国内でも廃プラの置き場所に困るようになっています。タイヤに比べると効率は悪いですが、廃プラも燃料として使えるため、かなり安い値段で売買されており、最近の動きとして廃タイヤの買取価格が下がったところもあります。

―――その他、環境問題への取り組みについて

緒方氏:欧州では海洋廃プラスチック問題が社会問題として注目されていますが、タイヤの粉じんや塗料、繊維くずとマイクロプラスチックの関連性が討議されています。実態はよく分かっていませんが、特に欧州の動向を把握して、対応に努めています。
 それから、PM2.5問題への対応があります。以前はディーゼルエンジンの排気ガスが主要因でしたが、種々の対策が功を奏して浄化が進んだ結果、相対的に排気ガス以外の、ブレーキ粉じんとタイヤ粉じんのPMがクローズアップされています。UN/ECE WP29(自動車基準調和世界フォーラム)のPMP(Particle Measurement Program=微粒子測定プログラム)で2014年から排気ガス以外のPMに関する討議がされています。
 WBCSD(World Business Council for Sustainable Development:持続可能な開発のための世界経済人会議)のもとTIP(Tire Industry Project:タイヤ産業プロジェクト)においても、日米欧で、大気中のPM2.5、PM10を採取、分析、調査をしています。今のところタイヤ粉じんの含有量は非常に限られ、健康に影響を与えるレベルではないことを確認しています。
 われわれタイヤ業界としては、GVC、リサイクル、大気汚染対策など、地球環境問題へ配慮しながら、品質の優れたタイヤ製品を提供していきたいと考えています。

【インタビュー後記】

 タイヤのライフサイクル(原材料調達、生産、流通、使用、廃棄・リサイクル)で最もCO2排出量が大きいのは「消費者による使用段階」で全体の8割を占めています。CO2削減のカギは、転がり抵抗の小さい低燃費タイヤ。タイヤ使用時のCO2排出量は、2006年と比較すると2016年は約14%の削減を実現しています。しかし、空気圧の管理ができていないと燃費が悪化し、タイヤの寿命低下にもつながることも伺いました。私たち消費者が意識して、月に1回はタイヤ販売店で点検することが大事であること確認しました。
 今回初めてタイヤ業界のGVCや環境問題への取り組みについてお話を伺いましたが、サステナビリティに貢献すべく、タイヤ業界が国際連携のもと自主的な取り組みを進めていることも印象的でした。