再エネ拡大で注目される火力発電の柔軟性
Advanced Power Plant Flexibility Campaignについて(1)
クリーンエネルギー大臣会合とAPPF
中山 寿美枝
J-POWER 執行役員、京都大学経営管理大学院 特命教授
再エネ拡大にとって、火力発電、とりわけ石炭火力は障壁であり、敵対するものと誤解されているようであるが、実際にはそうではない。太陽光、風力といった天気や時間により出力が変動する再生可能エネルギー発電(変動性再エネ)が大量に電力系統に連系される場合、その変動性、間歇性を調整するための「柔軟性」が必要不可欠である。
柔軟性を提供するのは、系統、火力発電、貯蔵、需要であり、電力系統に占める変動性再エネの割合が大きくなると、これら柔軟性のフル活用が必要になってくる。再エネとの組み合わせで最初に挙げられるのは貯蔵(蓄電池、揚水発電所)であるが、最近はコネクト&マネージ、デマンドレスポンスなど、系統と需要の柔軟性も注目されるようになってきた。しかし、火力発電の柔軟性については、欧州以外ではまだ認知度が低いことから、変動性再エネの導入促進には火力発電の柔軟性が重要であることを世界に普及させ、設備改造や運用改善による火力発電所の柔軟性向上を推進するための活動が開始された。それが、クリーンエネルギー大臣会合の下の「再エネ拡大のための火力発電所の柔軟性活用推進」を目的とした“Advanced Power Plant Flexibility Campaign”(以下APPF)である。筆者は、企業パートナーとして、これまで開催されたAPPFの会合に出席し、日本国内にこの活動の趣旨を広めるべく、火力原子力発電技術協会誌3月号にその解説記事を寄稿した。ここでは、そのエッセンスについて述べることとしたい。
クリーンエネルギー大臣会合(Clean Energy Ministerial、以下CEM)注1)は2010年、米国オバマ政権主導により開始されたもので、24の国と欧州委員会が参加し、現在は国際エネルギー機関(IEA)がその事務局を務めている。CEMは、①エネルギー効率の改善、②クリーンエネルギー供給の促進、③クリーンエネルギーアクセスの拡大を目的として、官民協働のイニシアチブ、キャンペーン注2)を数多く実施しており、APPFは昨年6月に北京で開催されたCEM8において新たなキャンペーンとして実施が決定された。APPFキャンペーンは中国、デンマーク、ドイツが共同リーダーを務め、日本を含む12の国と欧州委員会、10社の企業パートナー、2つの機関パートナーが参加している。日本政府のリクエストを受けて、J-POWER、九州電力、MHPS が企業パートナーとして参加している。(図1)
APPF活動の最終目標は、2018年5月にデンマークで開催されるCEM9に成果として報告書を提出することであり、それに向けてメンバーによる会合が2017年9月にパリ、11月にベルリン、2018年3月に中国で既に開催されている。現在、報告書をレビュー中であり、今年デンマークで開催されるクリーンエネルギー大臣会合(CEM9)開催期間中にAPPFワークショップを開催し、最終日の大臣会合に報告を行う計画になっている。なお、現在、CEM9以降のAPPF継続が計画されており、対象を発電サイドの柔軟性に加えて他の柔軟性に拡大する可能性がある、とのことである。
- 注2)
- イニシアチブは長期(複数年)、キャンペーンは短期(通常1年)の活動という区分
- 注3)
- ドイツの再エネ推進シンクタンク
- 注4)
- 欧州の電力・重電メーカーの技術協会。発電設備に係る規格審査、研究機関の機能も有する。
- 注5)
- デンマークのゼネコン的企業
- 注6)
- 旧Dong Energy、デンマークの国有電力会社