天然ガスを燃料とする重量トラック


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 この10月、米国DOE(エネルギー省)の自動車技術担当部局が、中・重量物輸送用トラックのエンジンの燃料に天然ガスを使用し、高効率で駆動する技術開発に400万ドルまで投入するという発表をしている。開発リスクが高いものに研究資金を出すとし、その目指すところは、ディーゼルエンジン並の高い効率を出すことができ、かつ大気汚染物質の排出を大きく下げることのできるトラック用天然ガスエンジンの商品化である。基礎技術について国の研究所が担当し、その成果を業界に提供することとしている。国内に天然ガス資源を豊富に持つ米国としては、高効率天然ガスエンジンを商品化、普及させることによる環境対応に加えて、重油、軽油の消費を抑制することによって、OPEC加盟国からの原油輸入依存度を下げる目的もあるはずで、この方向性は日本にも参考になるものだろう。だが米国は、原油消費量の約25%を輸入しているだけで、しかも、現在カナダからの原油輸入が一番多く、日本とはかなり状況が異なってはいる。

 NGV Globalが今年8月にまとめた世界の天然ガス自動車(NGV)の現状を眺めて見ると、総数として、24,452,517台が示されている。そして、米国も日本も導入台数ベースで世界のトップ10には入っていない。台数がもっとも多いのは中国(500万台)で、それに続いてイラン(400万台)、インド(305万台)、パキスタン(300万台)であり、米国は16万台に過ぎない。日本はといえば、日本ガス協会の調べによると、2016年3月末で約45,000台という少なさだ。さらに、パキスタン国内の総自動車数に占めるNGVの比率を見ると33%にもなっている。さらに、下のグラフで分かるように、アジア・太平洋地域での導入が拡大している。

 中国、インド、パキスタンでは、微小粒子状物質(PM2.5)による大気汚染対策として、都市部を中心にディーゼル車のNGVへの切り替えが政策として強力に推進されており、天然ガス産出国であることも相俟ってNGVの数が急速に増えているようだ。

 日本の天然ガス自動車導入数はまだ微々たるものではあるが、それを大きく増やすことができれば、地球環境対応に加えてエネルギー安全保障にも貢献できるはずだ。天然ガスは殆どがLNG(液化天然ガス)として輸入されているが、その輸入価格は従来の原油価格リンクという制約も次第になくなる方向にあり、米国からも輸入されるようになって、輸入価格の安定と低廉化が予想されている。乗用車などは電気自動車や燃料電池自動車の普及に力点を置くとしても、中・重量トラック用燃料の天然ガスへの転換を拡大することができれば、二酸化炭素と環境汚染物質の排出削減に加えて、エネルギーの中東依存リスクを日本も減らすことができる。天然ガスを燃料として供給するためには、現在320カ所しかない天然ガス充填スタンドの設置数を増やさなければならない。充填する天然ガスは、都市ガス導管からとなるが、都市ガスが供給されていない地域についても、既に日本各地に設置されているような小規模LNGタンク、あるいはLNGローリーからの充填も可能である。

 天然ガスの主成分はメタンであるが、太陽光発電や風力発電などを利用して水を電気分解して水素を製造し、その水素と、いろいろなソースから得られる炭素を化合させてメタン(CH4)にする実証試験も行われている。また、下水汚泥や畜産廃棄物、食品廃棄物をメタン発酵させる技術は確立している。このようなメタンを自動車用燃料に使用することに支障となるものはない。使用量が増えれば、多少なりともエネルギー自給率を上げる効果も生まれることになる。

 日本も米国に倣った技術開発の推進と、天然ガス自動車の普及に向けた施策を強化することを期待したい。