第8回 電機・電子業界は〈前編〉

電機・電子温暖化対策連絡会 議長/パナソニック株式会社 品質・環境渉外総括 名倉 誠氏


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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パリ協定の評価

――パリ協定を業界としてどう評価されていますか?

名倉 誠氏(以下、敬称略):私は入社以来ほとんど事業現場である事業部におり、2012年から環境の仕事に携わっております。そのため、中長期視点での事業と一体化した環境活動を目指すことを考えのベースに持っており、本日もその考えを根幹にお答えしていきたいと思います。

名倉 誠氏

名倉 誠(なぐら・まこと)氏。

1982年 青山学院大学理工学部卒業
同年 松下電器産業株式会社入社 同ビデオ事業部企画部配属。
以降、ビデオ、ビデオムービー関連の商品企画、経営企画。
1995年~ 移動体通信関連の商品企画、経営企画(参事)。
2006年~ 固定網含めた通信事業の経営企画、グローバル新規事業開拓。
2009年~ AVCネットワークス社異動後ムービービジネスユニット ビジネスユニット長(理事)。
2012年~ 環境本部へ異動。
2016年4月 (現職)パナソニック株式会社 品質・環境本部 品質・環境渉外総括。電機・電子温暖化対策連絡会 議長拝命。

 COP21で合意されたパリ協定は、さまざまな国際課題が多い中で、全ての国と地域が一緒になって考えた歴史的な合意となりましたので、非常に良かったと考えています。特に、将来のあるべき姿を表した長期目標の2050年と、達成目標の中期目標の2030年の二つを設定したことは重要です、これはマネジメントの進化としても非常に評価されるべきだと個人的には強く思っています。事業を進めている上では、どうしても目先の目標になると達成目標が低くなってしまいますし、また、目標から進めると、そこに至らないと分かった瞬間に、現場が疲弊してしまいます。今回のパリ協定では、将来のあるべき姿はトップダウンでその大枠が示され、ボトムアップによりすべての国と地域が自主的に目標を掲げて努力していく中期目標が設定されました。中期目標を達成するために現場が努力するフィールドが明確になり、また、将来のあるべき姿として、とりわけ、イノベーションの必要性が位置づけられました。このことはR&Dに携わってきた者にとって、モチベーションが上がる合意内容だと思っています。

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――モチベーションが高まる合意内容なのですね。

名倉:はい。しかし、パリ協定が発効すれば地球は万端なのかというと、そう言うわけでもありません。さまざまな課題を含みつつも、世界の中でそれが論議されて、将来のあるべき姿と中期的に達成すべき目標が明確になったことが評価できるということです。COP21の後、パリ協定は、国・地域ごとに批准へ努力し、まさに発効直前の段階です注1)。日本でも温暖化対策の議論が活発化し、我々、電機・電子業界の自主的な取り組みである「低炭素社会実行計画」も、産業部門対策として政府の「地球温暖化対策計画」(2016年5月閣議決定)の中に組み込まれました。

 しかし、これで油断してはなりません。「プレッジアンドレビュー」注2)は非常に優れた取り組みですが、PDCA(plan-do-check-act:事業活動の「計画」「実施」「監視」「改善」サイクル)を回すことができるかというと、まだまだ課題があると言えます。2050年というと、我々の次の世代が担っていくことになりますよね。今の若者が「パリ協定って何?」という認識では困るわけです。若い世代がパリ協定の取り組みをしっかり受け継いでくれるように、バトンを渡す際に、その意識づけの活動も行う必要があります。足元では明確になっていることをしっかり取り組みつつ、先を見据えて、仕組みや基盤を整えることがこれからの課題です。

注1)
パリ協定(Paris Agreement)
本インタビューが行われた後、国連「気候変動枠組条約」事務局は、11月4日にパリ協定の発効を発表。
注2)
プレッジアンドレビュー (Pledge and Review)
各主体者(国、事業者など)がそれぞれ目標をプレッジ(誓約)し(プレッジに対してレビューを行う場合もある)、それが達成されたかどうかや目標に向けた取り組み状況をレビュー(評価)する仕組み

事業成長と環境貢献の一体化

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名倉:私が属しているパナソニックが目指す環境経営の姿は、イメージだけではなく、事業の前提となる環境活動を目指しています。我々の創業者である松下幸之助は、企業の社会的責任について、「企業は社会の公器」だと言い、その考えが社の経営理念の根底にあります。企業は世の中からの預かり物なのだから、貢献してこそ企業の価値があるという考えです。環境の課題に対しても、自らの事業活動を通してその解決に向けた取り組みを推進していくイメージは、我々の企業理念にフィットしていると言えます。世の中への貢献が、利益として我々に返ってくるわけです。しかし、一社だけで頑張るというのではなく、社外のいろいろな産業のパートナーの方々との協業により、お客様や社会にとって良い暮らしを提供することが大事であり、それが望まれる姿ではないかと思います。それがまさに「共感」を持って事業を進めていくということです。

――業界としての温暖化問題への体制は? 

名倉:我々の電機・電子業界には、日本電機工業会(JEMA)や電子情報技術産業協会(JEITA)、ビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA)、(情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)の他、多くの団体で構成されています。その中で、環境問題のさまざまな課題に取り組んでいますが、地球温暖化防止については、これら4つの団体が中心となり、それらが連携して活動する「温暖化対策連絡会」が担っています。