「適応(Adaptation)」への取組みも重要!


国際環境経済研究所主席研究員、一般社団法人 環境政策対話研究所 理事

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「気候変動の影響への適応計画」(閣議決定)について

 COP21に先駆けて2015年11月に「気候変動の影響への適応計画」が閣議決定されました。
 当適応計画は、今後の温室効果ガスの排出削減によっても回避できない気候変動の影響による被害を最小化あるいは回避し、迅速に回復できる、安全・安心で持続可能な社会の構築を目指したものです。
 適応計画において、目指すべき将来の姿を、気候変動の影響への適応策の推進により、その影響による国民の生命、 財産及び生活、経済、自然環境等への被害を最小化あるいは回避し、迅速に回復できる、安全・安心で持続可能な社会の構築としています。

気候変動の影響への適応計画について出典:環境省 「気候変動の影響への適応計画概要[拡大画像表示]

 また、その基本戦略は、以下のように示されています。

政府施策への適応の組み込み:強靱性の構築、不確実性の考慮、相乗効果の発揮及び技術の開発・普及を通じて政府の関係施策に適応を組込み、現在及び将来の気候変動の影響に対処。
科学的知見の充実:観測・監視及び予測・評価の継続的実施、並びに調査・研究の推進によって、 継続的に科学的知見の充実。
気候リスク情報等の共有と提供を通じた理解と協力の促進:気候リスク情報等の体系化と共有等を通じた各主体の理解と協力の促進。
地域での適応の推進:地方公共団体における気候変動影響評価や適応計画策定、普及啓発等への協力等を通じ、地域における適応の取組の促進。
国際協力・貢献の推進:開発途上国に対する適応計画策定・対策実施支援、防災支援、人材育成、及び 我が国の科学技術の活用を通じ、適応分野の国際協力・貢献を一層推進。

 なお、分野別には、農業、森林・林業、水産業、水環境・水資源、自然生態系、自然災害・沿岸域、健康、産業・経済活動、国民生活・都市生活など多岐にわたる施策に言及されています。

適応に関する日本政府の動き

 適応に関する国際的な議論が高まり、各国は自国の適応計画を策定することとなっています。
適応計画でも示されたとおり、開発途上国に対する適応計画策定・対策実施支援、防災支援、人材育成、及び我が国の科学技術の活用を通じ、適応分野の国際協力・貢献の推進が求められています。
 気候変動の脆弱性が特に高い国を対象に、日本の企業等による優れた技術等をもとにした気候変動の影響に対応する適応分野での貢献の実現可能性に関する調査が、経済産業省の委託事情として実施されています。
 効果的な適応プロジェクトの取捨選択のため、適応策の効果の可視化が求められており、高い効果が見込まれる複数の適応プロジェクトを組成し、その効果を検討、可視化し、途上国の適応行動の強化に貢献するとともに、適切な評価を得ることで、日本の優れた技術の途上国への普及を目指しています。平成28年度も、プロジェクトの公募が実施されました。(平成28年度途上国における適応対策への我が国企業の貢献可視化に向けた実現可能性調査事業公募
 また、2016年5月に閣議決定された「科学技術イノベーション総合戦略2016」においても、第2章 経済・社会的課題への対応 (3)地球規模課題への対応と世界の発展への貢献の項で、気候変動への適応策の推進の重要性が示されています。

「持続可能な開発目標(SDGs)」における適応の取扱い

 さかのぼって、2015年9月の歴史的な国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲げられた17の「持続可能な開発目標(SDGs)」においても、「適応」について言及されています。
 SDGsは、2016年1月1日に正式に発効しました。今後15年間、すべての人に普遍的に適用され17の目標に基づき、各国はその力を結集し、あらゆる形態の貧困に終止符を打ち、不平等と闘い、気候変動に対処しながら、誰も置き去りにしないことを確保するための取り組みを進めるというものです。
 SDGsは、貧しい国も、豊かな国も、中所得国も、すべての国々に対して、豊かさを追求しながら、地球を守ることを呼びかけている点が特色です。貧困に終止符を打つため、経済成長を促し、教育、健康、社会的保護、雇用機会を含む幅広い社会的ニーズを充足しながら、気候変動と環境保護に取り組む戦略が必要とされています。

我々の世界を変革する出典:国際連合広報局 「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ[拡大画像表示]

 具体的には、SDGsの目標13で、気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取ることが掲げられています。
 気候変動はあらゆる大陸のあらゆる国に影響を及ぼし、国民経済、生活に支障を来たすことで、現在だけでなく将来的にもさらに大きな負担がかかります。気候変動の深刻な影響には天候パターンの変化、海面の上昇、異常気象の増加が含まれ、特に、最貧層と最弱者層が大きな影響を受けるからです。
 よりクリーンで強靭な経済を一気に達成できるような解決策により、適応への本格的な取組みに加速が求められ、支援のための国際協力が重要と指摘されています。

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