先進エネルギー自治体(7)
福岡県北九州市〜地域変電所が防災性強化のカギ、水素の実証も
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会主催「先進エネルギー自治体サミット2016」で、先進エネルギー自治体大賞の「大賞(グランプリ)」を受賞した北九州市は、「先進エネルギー自治体(6)〜神奈川県横浜市」と並ぶ、全国有数のレジリエンス都市です。2010年4月、政府の「次世代エネルギー・社会システム実証実験」を行う4地域(横浜市、豊田市、けいはんな学研都市、北九州市)に選定され、5年間にわたって38事業が行われました。(図1)
図1 出典:経済産業省資源エネルギー庁
新日鐵住金の特定供給エリアである八幡東区東田地区での「北九州スマートコミュニティ創造事業」では、北九州市、新日鐵住金、日本IBM、富士電機などで構成される「北九州スマートコミュニティ創造協議会」により、コージェネレーション(熱電併給)、環境共生マンション、カーシェアリング等のプロジェクトが行われてきました。(図2)エネルギーのみならず、交通システム、緑化、地域コミュニティまで含めたまちづくりとしての取り組みを推進し、東田地区のCO2削減量は、市内標準街区と比較して、2014年度末までに、2005年比51.5%減を達成しています。
図2 北九州スマートコミュニティ創造事業の概要 出典:北九州市
北九州市内では小倉北区城野の「ゼロ・カーボン先進街区」の建設などさまざまなプロジェクトが進められていますが、今回は、防災性強化の側面から、東田地区での地域変電所(CEMS)注1)を核としたエネルギーシステムと燃料電池自動車を活用した水素の実証を取り上げたいと思います。
地域変電所(CEMS)を核に防災性強化
1901年、日本初の製鐵所が操業を開始した八幡東区東田地区。この日本近代産業発祥の地で、120ヘクタールの工場跡地を約650億円かけて再開発しました。東田地区の基幹電力は、八幡製鐵所内にある天然ガスを利用した「東田コジェネ」(発電能力:約3万3000kW)です。
コージェネレーションは、天然ガスや石油、LPガスなどを燃料として発電し、発電の際に生じる廃熱も同時に回収して利用できます。東田コジェネで発電された電力は東田地区で消費され、その際の廃熱はすべて工場内で再利用されています。コジェネを導入し、電源を多重化することで、万一の停電時にも電力供給を継続することができます。また、マンションやビル、駐車場の屋上には、合計819kWの太陽光発電設備が設置され、基本的に地産地消で、その施設で消費されています。(図3)
図3 東田地区におけるまちづくり 出典:北九州市
東田地区の地域のエネルギーを制御しているのが、「地域変電所」と呼ばれるコミュニティマネジメントシステム(CEMS)です。地域変電所は、太陽光発電や風力発電の発電量や、電気自動車のバッテリーにためた電気、住宅や事業所、工場などの使用電力量を監視しながら、エリア全体の電力を制御しています。スマートメーターが設置された住宅は約230世帯、事業所は約45カ所。住宅や事業所の電力使用量の情報はスマートメーターによりリアルタイムに地域変電所で入手でき、需要予測を立てて、それに合わせてコジェネの発電量を調整し、電力を供給する仕組みです。(図4:全体の取り組みのイメージ)
多くの市民や事業者がプロジェクトに参加する形で、実証が進められているのも大きな特徴です。これは、かつて市民が中心となって企業と行政と連携して、公害を克服した経験があるから。実証では最先端の技術が導入されていますが、まちづくりの構想から設計、運用の土台となっているのは市民や企業との緊密な連携です。
図4 北九州スマートコミュニティの取り組みのイメージ 出典:北九州スマートコミュニティ創造協議会
分散型エネルギーネットワークの形成により、災害時の電源確保ができ、重要な情報通信ネットワークの維持が可能になりました。これにより、「災害時の被害の最小化」と「復旧の迅速化」を図ることができます。東田地区で開発された新しい技術や仕組みは国内外で展開されており、今後も他地域への波及が期待されます。
- 注1)
- CEMSとは:地域における電力の需要・供給を統合的に管理するシステム