先進エネルギー自治体(6)

神奈川県横浜市~自立分散型エネルギーで防災性強化、治水対策も


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

印刷用ページ

 一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会主催「先進エネルギー自治体サミット2016」で、先進エネルギー自治体大賞の「最優秀賞」を受賞した横浜市は、「横浜スマートコミュニティプロジェクト(YSCP)」の取り組みでも知られる全国有数のレジリエンス都市です。現在、横浜市と民間企業34社とで15のスマートシティプロジェクトが連携して進められています。

special201310_01_024_1

出典:横浜市

 一連のスマートコミュニティプロジェクトでは、太陽光発電を37MW、HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)注1)4200件、電気自動車(EV)を2300台導入し、実証を通じたCO2削減量は3万9000トンを達成しています。防災性・環境性・経済性に優れた地域エネルギーマネジメントの実現を目指し、最近では、培ってきた実証成果や技術をさらに活かすため、「横浜スマートビジネス協議会(参画企業、国や有識者らの連携)」を発足し、「実証から実装」への取り組みを加速させています。今回は、その中でも自立分散型エネルギーと治水対策による防災性強化の側面にクローズアップしたいと思います。

災害時の停電への備え

 東日本大震災や熊本地震の経験からも、自然災害はいつ、どこで起きるかわからないため、電力の供給が途絶えた場合に備えることが重要です。横浜市は、災害時の電源確保に役立つ自立分散型エネルギーの積極導入を全国に先駆けて取り組んできました。

 みなとみらい21地区では、南区総合庁舎の移転再整備事業に合わせ、環境・防災性能を高めるため、近隣にある公立大学法人横浜市立大学附属市民総合医療センター(市大センター)にコージェネレーションシステム(350kW級×2台)を設置し、自立分散型エネルギーインフラの整備を進めています。南区役所と市大センター病院は自営線注2)でつながれ、区役所と病院の特定供給注3)での電力連携は自治体初の取り組みとなります。

 病院に設置したコージェネで発電した電気は、南区役所へ送電し、発電の課程で生じた廃熱は病院で有効に利用します。これらの電気や熱を最適に制御するため、ビルディングマネジメントシステム(BEMS)注4)を導入し、実用化しています。人の命を預かる病院において、いかなる時でも安定的に電気と熱を確保できることは、患者や家族にとって何より安心につながります。また、コストの削減効果は年間4000万円、CO2の削減量は年間1000トン(CO2換算)と試算され、病院、区役所ともに個別でエネルギーを確保することに比べて、大幅なコストの削減とCO2削減になるとみられています。

special201310_01_024_2

出典:横浜市

特別避難所約40か所に太陽光と蓄電池設置

 東日本大震災後、多くの高齢者や災害弱者の人たちが、震災関連死として避難などの過程で亡くなっています。熊本地震では、県内で今も2万人超の人たちが避難生活を送っていることからも、避難生活の中で少しでもストレスを軽減させる取り組みが必要です。その一つが必要最小限の電源の確保でしょう。

 横浜市は、環境省の「再生可能エネルギー等導入推進基金事業」(グリーンニューディール基金制度)の補助金を活用して、特別避難場所注5)をはじめとした施設約40カ所に太陽光発電設備(5~10kW)と蓄電池(10~15kWh 程度)を設置し、機能強化を図っています。平常時にはこれらの分散型電源を利用し、省エネの推進を図ります。

special201310_01_024_3

出典:横浜市

下水道処理施設の屋根貸しによる太陽光発電

 市内の下水道処理施設も上部空間もうまく利用しています。施設上部980m2に太陽光発電設備を設置し、市と民間事業者との共同事業を行っています。2013年度から神奈川水再生センター、2014年度からは西部水再生センターで、固定価格買取制度を活用して事業を開始しています。馬淵・協同特定事業共同企業体により発電設備の設置と管理が行われ、横浜市は占用料と売電収益の一部を得る他、災害時には非常用電源として活用することができます。公民連携のこの取組は、今後、固定価格買取制度の行方を見ながら、他の公共施設にも水平展開していく予定です。

special201310_01_024_4
注1)
HEMSとは:家庭のエネルギー管理システム。家庭における電力の消費と発電・蓄電設備をリアルタイムで統合的に管理する設備
注2)
自営線とは:特定規模電気事業者が電力供給のために自ら 敷設した電線
注3)
特別供給とは:発電した電気を密接な関係を有する特定の相手に供給できる制度
注4)
BEMSとは:BEMSは、ビルの電力負荷や熱源負荷を総合的に管理するシステム
注5)
特別避難場所とは:小中学校など地域防災拠点での避難生活に適応できない在宅要援護者のための二次的避難場所
次のページ:港のスマート化

港のスマート化

 東日本大震災の経験から、横浜港は重要な物流拠点として、大地震などの災害が発生した際でも物流機能を継続する必要性が高まりました。市は、港の耐震強化岸壁の整備を進めるとともに、コンテナターミナルや倉庫などの稼働に必要なエネルギーを確保する取り組みを進めています。

 具体的には、横浜港でのエネルギー利用の効率化、災害時における事業継続性の確保を目指し、「港のスマート化」を行う計画です。ふ頭における一括受電の導入や、災害発生時の物流機能を維持させるため、太陽光発電などの再生可能エネルギーや蓄電池の導入等、情報通信技術(ICT)等を活用した、エネルギーマネジメントの導入検討を進めています。 防災対策強化とともに、CO2 削減や省エネを推進するため、ハイブリッド型トランスファークレーン注6)、エコ船舶、LED 照明の導入など、設備の高効率化・省エネ化も進める予定です。

special201310_01_024_5

出典:横浜市

全国に先駆けた総合治水対策

 最後に、横浜市の洪水対策に目を向けてみましょう。鶴見川流域では、1960年頃から急激に市街化が進んだ結果、森林などの緑豊かな自然環境が著しく減少しました。地表がアスファルトに覆われるようになり、降った雨が地中にしみこまずに、一気に川や水路に流れ込んで水害が頻発しました。

 市は、河川管理者や下水道管理者らと連携し、鶴見川流域一体となった総合治水対策注7)に取り組みました。その一つが「鶴見川多目的遊水地」の整備です。2014年10月6日には台風18号が上陸し、流域平均で322mmの大雨が降りました。鶴見川多目的遊水地では、過去最大となる約154万m3 の洪水調節を実施し、一部で氾濫危険水位を超過しましたが、鶴見川本川からは洪水氾濫せず、流域全体でも浸水家屋は数件に留めることができました。

 この時、鶴見川多目的遊水地の水位では、湛水深が最大3.4m、日産スタジアムの下で1.9mに達しました。鶴見川多目的遊水地の下流の亀の子橋地点では、約0.9mの水位の低減効果があったと推定されています。ここでもエネルギーマネジメントシステムが用いられ、太陽光発電等の電力供給により災害時の遊水地機能を守り、水防活動を推進しています。

special201310_01_024_6

2014年10月6日台風18号で洪水調整した鶴見川多目的遊水地  出典:横浜市

 近年、日本でも異常気象が頻発し、各地で台風や大雨による水害が多発しています。また地震による津波被害が心配される地域は非常に多く、防災・減災の取り組みが急務の課題です。住民が安心して暮らせるまちづくりにおいて、平常時のまちの姿が非常時にどうなるかを想定し、リスクをできるだけ減らしていくための設備の設置やインフラ整備等を行う必要性が高まっています。横浜市の取り組みは、そうしたリスク想定における創造力を持ち、最先端技術を有する企業と連携しながら、防災性強化に取り組んでいる好事例と言えます。

注6)
トランスファークレーンとは:大規模なコンテナヤードにおいてコンテナの保管、払出、荷繰り等の作業に使用されるクレーンのこと
注7)
総合治水対策とは:都市化の進展と流域の開発に伴い、治水安全度の低下が著しい都市部の河川について、治水施設の整備を積極的に進め、その流域の持つ保水・遊水機能を適正に確保するなど総合的な治水対策