まず技術開発を先行させよ:米国クリーンパワープランに学ぶべき本当の教訓とは


キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

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図3 米国における石油価格および天然ガス価格の推移。 IMF Primary Commodity Pricesに基づき筆者作成。

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図4 日米欧の天然ガス価格比較。 IMF Primary Commodity Pricesに基づき筆者作成。

 日本も、もし仮に天然ガスが米国並みに安く安定して手に入るなら、誰もがそれを使うことに賛成するであろう。しかし現状では、温暖化対策のために天然ガス火力を増やして石炭火力を減らすと、コスト負担が発生する。

3.日本が学ぶべき重要な教訓: まず温暖化対策のコストを下げよ

 CPPについては、米国政府もメディアも、「規制の導入によってCO2が減る」という図式で説明することが多いが、実態はむしろ逆である。以上に見たように、技術開発に成功して天然ガスがとても安くなったので、CO2はいずれにせよ減る見通しになった。これを後追いする形で、規制を導入できるようになったのだ。

 シェールガス採掘という革新的技術は、CO2への規制・税等とは無関係に、活力ある民間企業の取り組みの中から生まれた注6)。そして、このような革新的技術が出来たため、温暖化対策のコストは低くなり、更には、その技術普及を促進する制度の導入も可能になった。この流れをよく理解することが重要だ注7)

 さて日本はどうすればよいか。徒にCO2規制強化を急いでも、コスト増加を招くことになるだろう。これは、エネルギーミックスを策定するにあたって確認された「電力コストを現状以下に抑制する」という原則にも反してしまう。そこで、米国に見習って、まずは温暖化対策のコストを下げる取り組みをすることで、CO2を削減しやすくすることがより重要であろう。

 昨年に経産省で開催された、産業界の自主的取り組みに関する会議で、米国のモンゴメリー氏は、いみじくも「シェールガス革命は、米国式の自主的取組みだ」と述べて、筆者は成程と思った。日本の「低炭素社会実行計画」においては、どうしても衆目はCO2削減目標にばかり向く傾向がある。だが、技術開発も重要な柱であることを、このシェールガス革命の事例は、改めて示している。

 温暖化対策のコストを下げるためには、もちろん第一に、米国のように技術開発に取り組むことが挙げられる。これには、化石燃料の採掘技術だけではなく、多様な技術がある。LED照明、ハイブリッド自動車、給湯ヒートポンプ(エコキュート)等は、日本の良い成功例といえる。また、第二に、技術開発ではなく、既存の技術を安く使う方法もある。たとえば米国の技術開発の恩恵で安くなった天然ガス資源を安定して調達できるようにするといった、資源開発という工夫もある。原子力発電について安全性を前提に推進することも、温暖化対策のコストを大幅に下げることになる。こういった努力が実を結ぶならば、CO2は自ずと減り、更に政策的にCO2を減らすにしても、大きなコスト負担を伴わずに実施できるようになるだろう。

注6)
この経緯については前掲が分りやすい。
注7)
なお米国のSOX排出権取引制度も同様な構図になっている。米国のSOX排出権取引制度は、日本・ドイツなどで既に排煙脱硫技術などの技術開発・実証・普及が一巡し、コストの上限が明確な状態になってから導入された。つまり技術開発が進んだ結果を受けて後追い的に導入された制度である。これらの先行する技術開発がなければ、同制度の導入は難しかったであろう。(詳しくは杉山大志「これが正しい温暖化対策」7章 エネルギーフォーラム社、または 若林雅代、排出権取引制度の実効性に関する事例研究レビュー、電力中央研究書報告 Y06010)。

※ 本連載・報文は(一財)電力中央研究所の研究活動の知見に基づくものです。なお意見に亘る箇所は著者個人の文責によります。

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