エネルギー効率の国際比較:「省エネ大国 日本」もはや幻想?中国より下位?


公益財団法人 地球環境産業技術研究機構システム研究グループリーダー(IPCC WG3 第5次、第6次評価報告書代表執筆者)

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ACEEE「国際的なエネルギー効率得点表 2014」について

 ACEEE報告に対する詳細かつ包括的なレビュー(批判的検証を含む)は、RITE (2014a)に掲載しているので、そちらをご覧頂きたい。本稿ではACEEE報告の問題点のうち、いくつかについてのみ指摘する。
 ACEEE報告の注意すべきポイントは大きく2つある。1つ目のポイントは、ACEEE報告のタイトルは「国際的なエネルギー効率得点表 2014」となっているが、その内実は「政策の有無を点数付けた」項目が半数を占めることである。31項目中17が政策関連の項目であり、計47点が配分されている。これは政策の効果を評価している訳ではなく、政策の有無を得点化している点に注意が必要である。各国が多様な政策ポートフォリオを組んでいるため、特定の政策を評価項目として選択し、その政策の有無によって当該国のエネルギー効率を測ることは客観的な評価にはならない。
 2つ目のポイントは、ACEEE報告の文面上、31項目中の10項目(計40点の配分)があたかも「エネルギー効率水準」を参照したかのような書きぶりであるが、いずれも産業構造、貿易構造、所得水準、国土地理条件などに大きく左右される数値であり、しかも、いくつかの項目については誤った数値などから構成されている点である。
 いくつか具体例を挙げて、上記2つ目のポイントを明らかにする。建物部門では「Energy intensity in residential buildings」(最大4点)、「Energy intensity in commercial buildings」(最大4点)を最初の項目として提示している。この項目は床面積当たりのエネルギー消費量であり、エネルギー効率水準を国間で適切に比較評価できるようなものではない。ACEEE報告によると日中間に10倍以上の差があるとしている。しかし、これはエネルギーサービス(空調レベルを含む快適レベル)に大きな差異があるためである。この指標の場合、所得水準に強く依存する。

床面積当たりのエネルギー原単位と得点

 産業部門では「Energy intensity of the industrial sector」(最大8点)を最初の項目として提示している。この項目は産業部門のGDP(付加価値)でエネルギー消費を除して算定としている一方で、別の個所では、製造業および非製造業(鉱業)について、それぞれ出荷額当たりのエネルギー消費の値を参照したとしている。付加価値と出荷額を混乱した記述がなされているため、実際にどういった計算を行ったのか明確ではない。
 仮に鉱工業GDPで除した場合を算定してみると、日豪間で為替レートの取り方にかかわらず日本の方が小さな(優れた)エネルギー原単位となる。一方ACEEE報告は豪州のエネルギー原単位を日本の半分以下としているため、GDPで除しているのではなく、出荷額で除したものと推察される。出荷額でエネルギー消費量を除して指標化すると、鉱業部門では出荷額は大きいものの(多くは輸出される)、出荷額に比して産出段階で必要となるエネルギー消費量は小さいため、鉱業部門のシェアが高い豪州は、この指標では良く評価される。このような特徴が顕著に出やすい指標を採用して評価しても、エネルギー効率の水準を国際比較できているとは到底言えない。なお、仮にGDPで除しても、既述の通り産業構造に依存するといった議論は必要である。