環境と経済が両立に向かう『土壌汚染対策』とは(その8)
土壌汚染対策法の改正に向けた提言(1)
光成 美紀
株式会社FINEV(ファインブ)代表取締役
しかし、基準を超える土壌の搬出については、自治体の「残土条例」によって、管理することが可能です。したがって、基準を超過する土壌の移動や利用を制限する仕組みを取り入れながら、自然的原因によって基準を超過する土壌の拡散を防止することができると考えます。
海外等では、周辺に存在する一定の濃度の土壌汚染について、自然由来として取り扱う実務が定着しています。また自然由来の土壌汚染マップが作成されている地域もあります。したがって、自然由来の土壌汚染については、改正前の土壌汚染対策法と同様に法の対象から除外することを提言したいと思います。
なお、自然由来の土壌汚染と人的由来の土壌汚染の判別には、土壌汚染対策法施行の際に作成された、「自然的原因であるかどうかの判定方法」を用いることが可能です。将来的には、わが国でも自然由来の有害物質の分布に関するマップが整備されることにより、このような土地に居住する市民の不安や不動産取引への影響が解消されることが期待されると考えます。
≪形質変更時要届出区域内での工事方法等≫
過度な規制としては、土壌汚染対策法改正により導入された、形質変更時要届出区域内での工事に対する規制もあります。
具体的には、形質変更を行う際に、帯水層への影響が無いように施工することを求めた規則(土壌汚染対策法施行規則第53条第二項)が定められました。また、形質変更時要届出区域内から土壌を搬出する際、土壌が非汚染土と「認定」されるためには、区域指定に係らない有害物質についても分析測定が求められます。
これらの規制は、法律の考え方から見ても過剰な規制ではないかとの指摘も多いだけでなく、区域内の土地開発を行う際の工費の大幅増加につながっています。
形質変更時要届出区域となった土地におけるこれらの工事等の規制を緩和すべきと考えます。
≪グリーンなオリンピック施設開発と相互補完できる仕組みに≫
2012年のロンドン・オリンピック会場となった地域は、かつて廃水処理場に使用されていましたが、土壌・地下水浄化対策を実施して、地域全体を再生することに成功しました。2010年にカナダのバンクーバーで開催された冬季オリンピック会場も、複数の産業跡地の土壌汚染を浄化し、オリンピックの施設や設備の準備を進め、地域再生と環境保全を実現しました。2016年のブラジル・リオデジャネイロで予定されているオリンピック会場でも、過去の汚染浄化を進める予算が計上され、土壌や水質浄化が進められる予定となっています。
いずれのオリンピックも環境配慮を掲げていますが、これらの地域はすべて土地利用に応じた土壌汚染の基準を運用しており、日本のように一律の基準を適用している国はありません。
またイギリスでは、2012年に土壌汚染規制の改訂が行われるまで、20-40%の土壌汚染対策は健康被害防止という観点から不要であったとして、深刻な土壌汚染のみを浄化する方針に変更しました。イギリスでは、表層45-60センチメートルの土壌を汚染のない土壌で覆土すればよいという規制となっていますが、築地市場の移転先である豊洲地域では、表層から2メートルの土壌を掘削し、さらに50センチメートルの盛土をしています。これらの対策費には600億円以上の費用がかかっており、同様の対策費がオリンピック施設のサイトや新駅再開発、石油精製施設の跡地等に課されることは現実的ではありません。
土地利用や表層の覆土等の有無、地下水の飲用利用と地下水汚染の状況を踏まえたうえで、現在多用されている掘削除去よりも安価な対策費で健康被害を防止し、土壌汚染を管理していくことは技術的には可能になっています。したがって、これらの仕組みを早急に導入することが、限られた資金を適切に活用するうえでもきわめて重要になっていると考えます。