オバマ政権の環境・エネルギー政策(その20)

低炭素電源への取り組みが進む


環境政策アナリスト

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 For everywhere we look, there is work to be done. The state of our economy calls for action, bold and swift. And we will act, not only to create new jobs, but to lay a new foundation for growth. We will build the roads and bridges, the electric grids and digital lines that feed our commerce and bind us together.

 なすべき仕事は至るところにあります。経済状況は大胆で迅速な行動を必要としています。私たちは、新規雇用を創出するためだけでなく、新たな成長の基礎をつくるためにも行動します。経済に力を与え、私たちをひとつに結び付ける道路や橋、送電網・・・
、デジタル回線を整備します。

※2009年1月20日 オバマ大統領就任演説より(傍点筆者)

 オバマ大統領は、大統領就任演説で送電線のことに触れた数少ない、あるいは初めての大統領ではないだろうか。
 就任演説直後にも3000マイルの送電線建設をうたい、また実際に、景気対策法でもスマートグリッド投資に110億ドル、スマートグリッド投資ファンドに45億ドル、エネルギー省傘下の電力公社プロジェクト2件に33億ドルずつを計上した。予算教書でもスマートグリッド技術、送電線拡張、増容量などに加え、エネルギー効率と信頼性を向上するため、電力貯蔵、サイバーセキュリティーなどの送電設備の近代化に資する技術への投資をすると言っている。
 スマートグリッドに対する米国の取り組みは、就任演説、景気対策法、予算教書でのこうしたオバマ大統領の声明を受けて盛んになった。電気事業者の議論は、需要抑制の観点であったり、分散電源導入のためであったり、電力貯蔵管理のためであったりと様々で、米国でもまだ定義が確立されていない。多くの課題も取り上げられて議論を呼んでおり、百花斉放の感がある。
 しかし、このように先にアドバルーンのような政策を掲げてそれから中身を詰めていくというのもアメリカらしいやり方だ。スマートグリッドを巡る議論がいつのまにか求心力を得て標準化が進むかもしれない。気が付いたら米国主導の標準化が進んでいたということも考えられるので、私たちは米国の動向をよく見ておく必要がある。
 いずれにしてもオバマ大統領が送電線に注目するというのは、米国の電力需給のもっとも脆弱な部分を熟知している証拠であろう。ガスパイプラインも含め、インフラの性不足が米国のエネルギー面での弱点である。そのため個別の地域、そしてある特別な季節に需要増により供給の支障が発生し、価格も高騰する可能性は今も秘めている。エネルギー輸出を進めようとしても、パイプラインの連邦エネルギー規制委員会による認可がそれほど簡単ではない。また脆弱なインフラに起因するとはいうものの価格が不安定になれば最終消費者を納得させるのはそう簡単ではない。そのことを考えると米国各地の動きにも注目しておく必要がある。脆弱なインフラは各地のエネルギー供給構造に課題を与えている。ワシントンの政治だけで全米を理解してはいけない。
 もうひとつのオバマ政権のエネルギー・電力・環境面の課題としてあげたいのは、供給力の低炭素化の要請と規制の論点である。石炭火力の多くがキャンセルされ、環境保護庁による温室効果ガス排出規制の行方が見えにくい中でいかに電源の低炭素化、環境面の取組みをするかが課題とされた。しかし、シェールガスによる天然ガスコンバインドサイクルが進む電力ではすでに二酸化炭素は2005年比で15%減少している。これがオバマ大統領政府の規制によって行われたのではなく市場ベースで進められてきた。しかし、政府と議会はここに規制を差し挟もうとする動きがなくもない。特に与党民主党は環境規制を強化させようとし、エネルギー市場にも介入する傾向にある。シェールガスへの規制はエネルギー輸出にも関連してくる。

オバマ大統領のlegacy(「政治的遺産」)づくり

 エネルギー情報局は2013年6月ワシントンにおいて年次コンフェランスを開き、モニーツ新エネルギー庁長官が講演をし、LNG輸出に関するエネルギー省認可プロセスについてしかりとレビューを終了させると述べた。
 このときマコウスキー上院議員が登場し、LNG輸出を促進する側として基調講演をし、日本・韓国への輸出を拡大する必要があると述べている。その時マコウスキー議員は同時に原油および石油製品の輸出について言及した。「つい一年前まで石油の輸出について話しをすることさえなかった。われわれは多くの心理的なハードルを超えて前に進まなければならない。ことしは議会では石油の輸出は議題にならない。というのはまずはLNG輸出を議論しなければならないからだが、しかし、私たちは多くの人がこれまで思った以上に早く石油輸出の議論をすることになるであろう。」米国の法律では原油の輸出は商業省からの認可を申請する必要がある。一方、石油製品については輸出に先立って認可を求める必要はない。産業界の中には原油の輸出に関心をもつ企業が多い。理由は第一に軽質原油の国内と国際価格の価格差が大きいこと、第二に軽質原油がさらに増産する見込みであること、第三に米国の製油所は軽質原油よりも重質原油を処理するように設定されているからだ。とは言うものの、米国は依然ネットでは石油輸入国であり続けるであろこと、国内のガソリン高止まりを考えると原油輸出には大きな政治的に議論を呼びそうだ。マコウスキー議員は言う。「物理的に天然ガスを輸出することは簡単だ。すでにパイプラインで輸出していたものを補うためにLNGで輸出できよう。しかし、LNG輸出を上手にやらないと原油輸出のような国民感情にさわるような問題にうまく対応できなくなる。この潮目の変わり時にひとつ分かることはこの問題がどういう結果になるかを分かっていないということである。」米国は近いうちに原油輸出問題を国民的に議論をすることになる。シェールガスの輸出は単に天然ガスの問題にとどまらず原油輸出の議論につながるということである。
 米国はこれまでエネルギー政策の基本を安全保障においてきた。はるか離れて次のプライオリティーが国際競争力である。原子力、低炭素化、再生可能エネルギー、省エネなどは安全保障のための施策でもある。シェールガスの増産はそういうものを市場で解決してしまいかねないわけであるが、マコウスキー議員が指摘するようにこの問題はほどなく原油輸出問題に逢着する。LNG輸出でも顔を覗かせた安全保障へのマイナス面の影響という議論が一層高まるという点は一応懸念しておく必要がある。プラスに影響するとすれば米国は外交的に一層力を得、世界のエネルギー問題は米国のエネルギー政策が核となって進む可能性もある。
 オバマ大統領および議会関係者はこの流れの中でエネルギー政策をどう構築するかは日本も含めどのように影響を受けるか、おおいに分析をしておく必要がある。われわれは米国のエネルギー・環境政策がどのように特に議会において形成されていくかをよく見ておく必要がある。

LNG輸出問題で積極発言をするマコウスキー上院議員(共和党)

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