核のゴミ処理の可能性(その1)

-『30万年』を『1000年』へ-


エネルギーシンクタンク株式会社 代表

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1.概要
 
 エネルギー問題はわが国にとって国運を左右する課題であり、現実に原発停止に伴い追加輸入化石燃料の輸入代金は毎日100億円、年間約4兆円の国富が海外に流失し、貿易収支は従来の黒字から構造的赤字体質に変化している。加えてシリアなど中東・北アフリカの政情不安から原油・LNG輸入の潜在リスクもかなり40年前のオイルショックの再来も危惧される。
 このような状況を考慮すると、「即時脱原発」の小泉発言は「夢よ再び!」という小泉劇場の再開を意図したとしか考えられない。中長期視点からのわが国のエネルギー政策をよく考えることが肝要である。最近政府もようやく高レベル廃棄物(High Level Waste、以下HLWと略す)処分問題に本腰を入れ政府主導でサイト探しを開始すると言明した。元々中途半端な立候補地によるサイト探しに加えてNUMO(原子力発電環境整備機構)注1)と言うあいまいな組織が担当するという方式に無理があった。また今後地元との信頼確立方式として、フランスでは、法的論拠を持ち原子力施設立地で事業者、住民代表や様々な関係主体が参加し県会議長が責任者を務める地域情報委員会(Commission Locale d’Information 以下CLIと略)方式を参考に検討するということであり大いに期待したい。「脱原発」はある意味からは当然とも言える。問題は何時か? 「即時」、「30年後」、「100年後」・・・・・
 何時にせよ脱原発をしたからと言ってHLWが無くなるわけではない。今すぐに「脱原発」政策をとっても既にたまっているHLWは残り、『30万年』後でないと天然ウラン並の放射能には低下しない。しかし「ごみは分別すれば資源になる」という金言があり、HLWでも同じで、提案する『分別処理方式』により技術的には『1000年』に短縮する可能性はある。核のゴミは100万KWを30~50基稼働させても年間30~50トン程度であり、CO2の億トンオーダーに比較して極めて少ない。今後、国主導で『分別処理方式』と核燃料サイクルの実用化を目指すとともに国民の理解を得ることは日本のみならず、アジア、世界へのエネルギー安全保障、温暖化対策として貢献が期待される。

2.火力発電と原子力発電の違い(図-1参照)

 原子力発電と火力発電は電気を作るという点では同じ機能である。違いは熱源として化石燃料を燃やすか、核反応により熱を得るかの違いである。原子力発電は東電福島第一事故を反省し安全性の向上に努める必要があるが、基本的には火力発電システムと同一で、熱源-タービン-発電機の体系である。
 双方ともに発熱に依りゴミが発生する点は同じであるが、量は100万倍違う。
 化石燃料ではCO2が約100~200万トン注2)と大量に出来、大気中に放出し温暖化の原因となっている。CO2を大気中に放出せず回収しシャーベット状にして地中に埋設する方式(CCS:Carbon Capture &Storage)が考えられるが、CCSに必要とされるエネルギーは発電電力の約25%が必要である。即ち新鋭の天然ガス複合発電所60%発電効率の発電所でも45%の従来の発電所程度に低下してしまう。
 CO2と同様に核反応でも核分裂生成物(FP:Fission Products)がゴミとして約1トン注3)出来る。加えて原子力の特徴である新たな燃料であるプルトニウム(Pu)が出来る。原子力の火力との一番異なる点はこの新燃料生産と核のゴミであるFPを含めた核燃料サイクルにある。核燃料サイクルにあり燃料製造-炉心-再処理-廃棄物の体系であり工学的には放射能を有する化学プラントである。特にバックエンドと呼ばれる再処理工程、HLW工程は核物質・大量放射性物質を取り扱うため、純粋民間企業での開発及び事業展開はリスクが大きく現実的でなくフランス、米国では公社若しくは国が担当している。なおHLW量はわが国では現在までの累積量は約1000トン、世界中では約1万トン(FPベース)程度に過ぎない。

 従来の原子力利用の考え方は一般的に核にゴミと言われている廃棄物中に新たに生産されるPuがあり、この利用によりウラン資源の制約がほぼ無くなる点に主眼が置かれてきた。特に化石燃料の乏しいフランスやわが国では研究も進められて来た。今後は資源制約と共に温暖化問題とエネルギー安定供給の視点から見直されよう。加えて『30万年』を『1000年』へ短縮の視点は人々の不安感の低減に重要な役割が期待される。

図-1

3.高レベル廃棄物(HLW:High Level Waste)の処分問題とは

 原子力利用は不幸なことに原爆と言う大量破壊兵器から始まり世界の多くの人々がその利用について、危惧の念を科学者のみならず、知識人も表明している。トインビーは原子力の平和利用は文明の発展に寄与するとしたが、廃棄物問題は世界的視野で取り組むべしと指摘している。一方で化石燃料の使用が人類に多大な損害・被害をもたらすことに気が付いたのはつい最近である。CO2による温暖化のみならず、PM2.5の濃度が高い場合の発がん率は放射能の比ではないとWHOは報告で警鐘を鳴らしている。最初に強烈な恐怖心を抱かせる事象と、初めはほとんど気が付かずじわじわ害を及ぼす事象に対する人間の認識の差異であろう。
 化石燃料利用に伴い温暖化の原因となるCO2が排出されると同様に、原子力の平和利用に伴い核のゴミである放射能レベルの非常に高い廃棄物が出来る。この高いレベルの放射能が人間に害を及ぼさないレベルまでの低下には30万年程度が掛かり、隔離する必要がある。元総理が訪問したフィンランドは岩盤が非常に安定しており10~30万年は隔離可能であると政府も国民も判断した。この点わが国は安定した岩盤・地盤は無いわけでないが限定されており、恵まれた国土ではない。ではどうするか?

注1)
関連組織
NUMO:原子力発電環境整備機構(HLW及びTRU廃棄物の処分を実行する組織「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に基づき、2000年10月に経済産業大臣の認可法人)
注2)
100万KWの火力発電所を1年間運転した時の排出CO2量(石炭、原油、天然ガスの差異有)
注3)
100万KWの原子力発電を1年間運転した時の出来るFP量(火力発電所の100万分の1)

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