IPCC 第5 次評価報告書批判
-「科学的根拠を疑う」(その4)

IPCCの呪詛からの脱却が資源を持たない日本が生き残る途である


東京工業大学名誉教授

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初めに温暖化ありきのIPCCの呪詛からの脱却が資源を持たない日本を救う道である

 いま、日本では、官民の多くだけでなく、マスメデイアまでもが、IPCCが主張する「温暖化のCO2原因説」を殆ど無批判に信じて、温暖化による地球被害を防ぐためには、いますぐ多額のお金をかけてでもCO2の排出を防ぐための温暖化対策を実施しなければ、日本が国際的な信用を失うことになると訴えている。しかし、本稿で示したように、今回のIPCCによる第5次報告書でも、気温上昇幅の予測値の信頼性には一切の科学的根拠を見出すことはできないだけでなく、却って、IPCCの主張の信頼性を失わせるような内容になっていると言ってよい。少なくとも現状では、いま、日本だけが慌てて、お金のかかる上に実効の疑われるCO2排出量削減を目的とした地球温暖化対策を行う必要はどこにもない。そんなお金があったら、必ずやってくる国の内外の地震、津波、台風などの自然の災害を防止するために使うべきである。
 国連機関としてのIPCCの主張を「現状の世界のエネルギー浪費の継続では持続可能な人類社会を創ることはできないから、現在、世界のエネルギー源の主役を担っている化石燃料をできるだけ長持ちさせるべきことを訴えている」と善意に解釈して、「全世界が協力して実行できるエネルギー消費削減対策としての省エネの徹底とともに、市場経済原理に基づいた将来的な「創エネ」としての再生可能エネルギー利用の拡大に世界の協力を促すべきこと、すなわち、お金のかかる「低炭素社会へ」から、お金をかけないで済む「脱化石燃料社会へ」の変換(結果としてのCO2の削減)を強く訴えて行くべきである(詳細は文献4-4 参照)。これが、人類が生き残る方策として、地球環境問題を解決するための日本の国際貢献の途である。
 最後に、IPCCの主張に反論する人々が、しばしば口にする「地球温暖化の陰謀説」の問題にも触れておきたい。これは、地球温暖化のCO2原因説を利用して、CO2の排出権取引で金儲けを企んでいる人々による陰謀であるとの説である。その真偽はともかく、いま、国内エネルギー供給の大半を担う化石燃料の殆ど全てを輸入している日本において、地球温暖化対策としてのCO2の排出削減に無駄なお金を使う余裕は何処にもない。いま、IPCCの呪詛から脱却して、国内のエネルギー消費を最小にするための省エネに励みながら、必要なエネルギー資源の輸入金額を最小に保つことで、貿易赤字に苦しむ現状の日本経済を救うとともに、化石燃料の枯渇に備える新しい低エネルギー社会への困難な道を創りだすことこそが、日本経済の将来のための、生き残りの途として強く求められている。

<引用文献>

4-1.
文部科学省、経済産業省、気象庁、環境省:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書、第1作業部会報告書(自然科学的根拠)の公表について、報道発表資料、平成25 年9 月27 日
気象庁暫定訳:IPCC第5次評価報告書 気候変動2013、自然科学的根拠、政策決定者向け要約(2013年10月17日版)
4-2.
気候変動2007 :IPCC第4次評価報告書総合報告書政策決定者向け要約(文部科学省、気象庁、環境省、経済産業省 翻訳)
4-3.
杉山大志:環境史から学ぶ地球温酸化、エネルギーフォーラム新書、2012年
4-4.
久保田 宏:脱化石燃料社会、「低炭素社会へ」からの変換が日本を救い、地球を救う、化学工業日報社、2012 年

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