IPCC 第5次評価報告書批判
-「科学的根拠を疑う」(その1)

地球上に住む人類にとっての脅威は、温暖化ではなく、化石燃料の枯渇である


東京工業大学名誉教授

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 いま、CO2排出量削減ための方法として、すなわち、温暖化を防止するために化石燃料の代替としての再生可能エネルギー(以下、再エネと略記)の利用が盛んに言われる。しかし、この再エネの大半は電力にしか変換できない。この電力は、現在、資源量として表わされる一次エネルギー消費量の約半分以下である。と言うことは、電力以外の一次エネルギー消費は、今後も、化石燃料に依存する以外にない。その上、通常10 ~ 20 年と寿命のある再エネ電力の生産設備の再生には、現状の産業社会構造に大幅な改変を加えない限り化石燃料の消費は避けられない。すなわち、現状の再エネ電力は、実際は再生不可能であり、有限の化石燃料をできるだけ長持ちさせる働きしか持たない。
 さらに、より重要な問題は、現状では、太陽光や風力などの再エネ電力の生産には、世界的に広く用いられている石炭火力に較べて非常に大きなコストがかかることである。いま、このコスト高をカバーするために、電力料金の値上げの形で国民に大きな経済的負担を強いることになる「再生可能エネルギー固定価格買取制度(以下、FIT制度)」が、EUや日本など一部の国で利用されている。しかし、この再エネ電力の利用・普及を図るためのFIT制度は、現在、経済発展を必要としている途上国を含む世界では通用しないから、世界中がエネルギー消費を必要とする経済成長を継続し、やがて化石燃料が枯渇に近づけば、当然、電力価格が上昇する。したがって、この高い電力料金で初めて、化石燃料電力に替わって再エネ電力がFIT制度を使用しないでも利用可能となる。すなわち、世界が経済成長を続けようとして、エネルギー消費の増加を継続すれば、その足を引っ張るのは、化石燃料の利用可能量なのである。言い換えれば、今世紀末までに化石燃料の利用可能量が底をつけば、現在の文明社会を継続するとはできなくなる。世界が、少ないエネルギー消費で真の豊かさを追求する今までと違った価値観を基にした新しい社会の創造を求めざるを得なくなる(文献1-3 参照)。
 以上から判っていただけるように、地球上に住む人類にとっての今世紀末の地球の脅威は、温暖化の脅威ではなく、化石燃料の枯渇である。エネルギー資源を持たないために、化石燃料の輸入金額の増加により貿易収支の赤字を増大させている日本経済にとっては、化石燃料の枯渇によるその価格の上昇の影響が特に厳しくなることは間違いない。すなわち、少ない輸入化石燃料エネルギーの消費で、真の豊かさを創ることのできる社会への移行こそが求められなければならない。その社会は、経済成長を目指すとともに、内需拡大を図る目的で、地球温暖化を防止するとしてCO2削減の国際貢献を果たすために、無駄なお金を使っている現在の日本のエネルギー政策の延長上には存在し得ない。上記した、一部の事業者の利益にのみ貢献して、地球温暖化対策としてのCO2の削減にも何の貢献もない上に、電力料金の値上げで国民のお金を使う再エネ電力の利用促進のためのFIT制度が、先ず、廃止の対象にされなければならないことを強く訴える。

 以下、次回は、この第5次報告書におけるIPCCの主張について次のように問題点を指摘する。
(その2)地球温暖化のCO2原因説に科学的根拠を見出すことはできない

<引用文献>
1.1 文部科学省、経済産業省、気象庁、環境省:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書、第1作業部会報告書(自然科学的根拠)の公表について、報道発表資料、平成25 年9 月27 日
気象庁暫定訳:IPCC第5次評価報告書 気候変動2013、自然科学的根拠、政策決定者向け要約(2013年10月17日版)
1.2 日本エネルギー経済研究所編:「EDMC/エネルギー・経済統計要覧2013年版」、省エネルギーセンター、2013 年
1.3 田村八洲夫:現代文明の次の文明はどんな文明化か=一次エネルギーが決める文明のかたち、近刊

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