IPCC 第5次評価報告書批判
-「科学的根拠を疑う」(その1)

地球上に住む人類にとっての脅威は、温暖化ではなく、化石燃料の枯渇である


東京工業大学名誉教授

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世界の累積CO2排出量は地球資源量により制約される

 図 1-1に見られるように、シナリオ④ ( RCP 8.5 ) は、CO2排出削減対策を一切採らなかった場合と推定される。ところで、この排出CO2の大部分は、化石燃料の燃焼によると考えられるが、地球上の化石燃料の存在量は有限であるから、人類がその利用可能量の全てを燃焼したとしたときのCO2 (二酸化炭素) 排出の総量がどれくらいになるかを試算してみる。エネルギー経済研究所の統計データ(以下、エネ研データ、文献1-2 )を基にした試算結果を表1-2 に示した。

表 1-2 化石燃料の確認可採埋蔵量(2011年末)の値から計算した
世界のCO2(二酸化炭素)排出総量の試算値
(エネ研データ(文献1-2 )を基に作成)

注 :
 
*1 :
確認可採埋蔵量Rを同年の生産量Pで割った値
*2 :
IEA(国際エネルギー機関)による値、エネ研データ(文献1-2)から
*3 :
(CO2排出量)=(確認可採埋蔵量)×(CO2排出原単位)として計算、
ただし、( トン-炭 ) / ( トン-石油換算 ) = 0.605、 (石油換算トン)/ ( 石油ℓ)= 0.9 とした。
*4 :
石炭、天然ガス、石油 それぞれのCO2排出量のカッコ内数値は、合計量に対する比率 %

 この表1-2に見られるように、その排出総量は3.31 兆トン-CO2となる。最近、シェールガスやシェールオイルの経済的な採掘が可能となり、化石燃料の確認可採埋蔵量は、石炭を除いて年次増加する傾向にあるが、それが何時までも続くはずがない。また、その消費により価格が高くなれば、そうむやみに使う訳にはいかなくなる。表1-2に参考として示した可採年数R/P率(年)(確認可採埋蔵量の値を年間生産量で割って求められる値)からも判るように、人類がいままでの経済成長を継続して化石燃料消費の節減努力をしなければ、今世紀末までに、全ての化石燃料の確認可採埋蔵量は消失してしまうことも考えられる。したがって、人類が今世紀中に使用できる化石燃料の燃焼に伴うCO2(二酸化炭素)排出総量の値は、この2011年末のデータを基に試算された表1-2 の値 3.31 兆トン-CO2に、セメント製造で発生するCO2と二酸化炭素以外の温室効果ガスの排出量を含めても、せいぜい4 兆トン-CO2程度が限度と考えることにした。すなわち、IPCCの第5次報告書のシナリオRCP 8.5 での2100年までの累積CO2排出量の平均値 6.18 兆トン-CO2は、地球資源量の制約を考えると、実際上はあり得ない想定と考えるべきだとした。一方、シナリオ ①(RCP 2.6 ) もCO2排出削減のためのコストを考えると実現性は少ないと考えてよいから、温暖化対策としてのCO2排出量削減が要求される場合の現実的な対応は、表1-2 に示した化石燃料の地球資源量の制約から考えても、シナリオ ② (RPC 4.5) あるいは ③ ( RCP 6.0 ) 程度になると考えるべきであろう。

地球上に住む人類にとっての脅威は、温暖化ではなく、化石燃料の枯渇である

 今回のIPCCの第5次報告書が発表されてから、メデイアの一部では、表1-1に示した予測計算結果の最大値を取り上げて、地上気温が4.8℃、海面水位が82 cm上昇するから、今すぐ、CO2の排出削減を実施しないと地球が大変なことになると囃し立てている。しかし、現状の経済性を考慮した地球上の採掘可能な化石燃料資源をほぼ全量使いきったとした時のCO2排出総量が上記の4 兆トン程度に止まるとすると、もし、温暖化がCO2のせいだと仮定しても、本稿で後述(本稿「その2」および「その3」参照)するように、地上気温上昇幅は、2 ℃ 程度、海面水位上昇幅は30 cm程度に止まると推定される。この地上気温上昇幅2 ℃ は、いま、温暖化の脅威を唱える人々が、その脅威を避けるためには、何とかこの値に止めたいとしている目標温度である。いや、第5次報告書にあるように、1998年以降、現在までの15年間、地球の平均地上気温が上昇していないことから、いま地球の寒冷化が始まるとの説が信憑性を増してきている。もしそうなれば、いま、慌てて、お金のかかる方法でCO2の排出削減を図ってみても全くのお金の無駄遣いになってしまうかもしれない。
 ただし、ここで、温暖化の脅威がたいしたことにならないから、化石燃料をいくら使ってもよいと言っているのではない。と言うよりも、使いたくとも、今までのようにふんだんに使える化石燃料が存在しなくなる。すなわち、地球上に住む人類にとっての今世紀末の脅威は、温暖化ではなく、化石燃料の枯渇である。これに対して、いま、盛んにもてはやされているシェールガスやシェールオイルが、今後の採掘技術の進歩で、表1-2に示した化石燃料の確認可採埋蔵量を大幅に増加させるとの反論もあるだろう。既に、米国では、エネルギーの自給率を高める目的で盛んにそれらの採掘が行われている。しかし、地中深くに存在するシェールガス・オイルの採掘コストは、在来の天然ガス・石油のそれとは大幅に異なるから、地球全体としてみれば、在来の天然ガスや石油が枯渇に近づいてきたときに初めて採掘の対象となる(文献1-3 参照)。その上、採掘可能となるのは、主としてシェールガスだが、表1-2にCO2(天然ガス)排出量の合計の中の天然ガスからのCO2(二酸化炭素)比率(カッコ内数値)として示したように、この天然ガスからのCO2排出量は、その合計量に対する値が13.4 % と小さいので、その寄与は余り大きくないと考えられる。したがって、ここでは、このシェールガス・オイルの今世紀中に使える量も含めた化石燃料から排出されるCO2排出総量を、上記したように表1-2の3.31 兆トンにプラスαを想定して4 兆トンに止まるとした。この値は、また、上記したようにIPCCが主張している地球温暖化のCO2原因説が正しかったとしたときでも、その脅威が最小に止まるとされる地上気温上昇幅を2 ℃以下に抑えるための累積CO2排出量の目標値でもある。