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エネルギー政策の混迷をもたらしている地球温暖化対策


東京工業大学名誉教授


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地球温暖化防止に全く機能しない京都議定書方式

 20 世紀末の地球大気中の温度上昇が、文明活動の排出する膨大な量のCO2 などの温暖化効果ガス(以下CO2 と略記する)の大気中濃度の増加に起因すると主張するIPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)による科学の仮説、いわゆる「地球温暖化のCO2原因説」に基づいて、世界各国のCO2排出削減量を割当てた京都議定書の約束期間が終わって、いま、温暖化対策の新しい枠組みを決めるポスト京都議定書のための国際間交渉が難航している。
 では、各国がその約束量を守れなかった時の罰則まで設けた京都議定書の成果はどうであったのか?エネルギー経済統計データ(以下、エネ研データ、文献 1)から、基準年の1990 年と2010 年の世界および各国のCO2 排出量(2010年の値で排出量の多い順に)を比較して図1に示した。世界では2010 年の対1990 年比で1.43 倍に増加している。これには、CO2 の排出大国の中国での3.15 倍、米国の1.35 倍などの寄与が大きいが、この2 大国では、中国は途上国として削減義務を課されず、米国は京都議定書から離脱してしまった。一方、6.8 % の削減義務を持つ日本でも8.3 %の増加になっている。石油危機以降の省エネ努力で、CO2排出削減余地が少ないという事情にある一方、森林のCO2 吸収効果として3.8 % の削減率が交渉上認められているので、それを考慮したとしても、このデータでみる限り、国内の措置だけでは約束の目標値を守ることは難しいとみられる。

図1 世界および各国のCO2 排出量、1990年および2010年
(エネ研データ(文献1 )からIEAデータを基に作成)

 京都議定書の削減義務を課されている国のなかには、これまで世界のCO2排出量への寄与の小さかった途上国は含まれていなかった。しかし、図1に見られるように、すでに世界一の排出大国になった中国や、人口の大きいインドなどの新興途上国が応分の削減義務を負わなければ、到底、世界のCO2 排出削減は難しいとされて、ポスト京都議定書の協議では、地球上の全ての国が、削減に協力するとの合意は得られている。しかし、先進諸国と途上国との間の経済的な利害関係が絡んでくる具体的な削減割り当て数値(そもそも数値目標が決められるかどうか不明だが)は未だ決められないでいる。それは、この割り当て数値を決める際の国際的な公平性の指標となる各国の一人当たりの CO2排出量の値が図2に示すように、各国間、特に先進国と途上国の間で余りにも大きな違いがあるからである。例えば、各国が1990年の世界平均値を目標とした場合には、中国でも多少の削減義務が生じるが、フランスを除いて、米国をはじめ先進諸国では、とても実現可能とは考えられない大きな削減が必要になる。

図2 世界および各国の一人当たりのCO2排出量、2010 年
(エネ研データ(文献1 )からIEAデータを基に作成)

 いま、ポスト京都議定書での国際間協議の場では、CO2 排出量が、途上国にとっての経済発展のために必要なお金を引き出すための取引の道具にされているように見える。しかし、このような方法で、世界のCO2 排出量を大幅に低下させることはどだい無理な話で、途上国の省エネでのCO2排出量の削減が、せいぜい経済発展に伴うCO2排出量の増加をキャンセルできるぐらいではなかろうか。CO2排出量の大幅削減には、どうしても、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の利用による創エネ(自然エネルギーから化石燃料代替のエネルギーを生産すること)が必要となるが、現状では、これには大変お金がかかる。先進国が、このお金を途上国の創エネ事業に支出するのであれば、先進国が自国でやる方が効率がよいであろう。このように考えると、これからのポスト京都議定書の国際協議の場では、澤(文献 2 )が主張するように、これまでとは全く違った新しい考えで対応をしなければならないと考えるべきである。

現状でCO2 排出削減に最も有効なのは原発なのだが

 図2 に示した各国の一人当たりのCO2 排出量の値に見られるように、先進国のなかで、フランスの値が際立って小さいのが目立つ。これは、図3 に示した各国の発電量のなかの原子力の比率の値に見られるように、フランスでの値が76.1%と際立って大きいことに起因している。すなわち、原発電力の生産ではCO2 の排出が無いとされてその排出量が計算されているからである。実際には、原発電力の生産でも化石燃料が消費されるから、原発電力利用での CO2排出削減の有効比率は93 % と推定される(原発設備の製造での化石エネルギー消費量を考慮して求めた。文献3 )。
 それはともかく、現状において、国民の生活と産業の振興に欠かせないエネルギー(ただし、電力)の安定な供給を確保しながら、最も効率よくCO2の排出を削減する方法は原発の利用である。これが、地球環境問題でメデイアに洗脳された国民から政権交代のための選挙の票を稼ぐことに成功した民主党が、無謀にも打ち出した鳩山25 %のCO2排出削減目標を達成するための2010 年のエネルギー基本計画の改訂で、発電量基準での原発の利用比率を当時の値、約 25 % から50 %まで引き上げようとした理由である。
 では、この原発の倍増計画で、どれだけCO2 排出を削減できるのであろうか?エネルギー資源量としての一次エネルギー国内供給のなかの一次エネルギー消費(電力)の比率が1/2で、その電力のなかの原発比率が 25 %であった(2010年、文献1)から、原発の比率を50 % に増加した場合の概算(水力発電の存在を無視した)であるが、 CO2 の排出量は、原発増設前の値の 0.875 ( = 1 -0.5×0,25 ) 倍、すなわち、CO2排出削減比率は約 12.5 %と鳩山25 % の半分程度に止まる。しかし、このような計算数値とは無関係に、その翌年に起こった福島原発事故により、このもくろみは露と消えたと言ってよい。

図3 各国の発電量に占める原子力の比率、2010年
(エネ研データ(文献1 )からIEAのデータを基に作成)

 ところで、世界の原発の利用拡大で、地球のCO2 の大幅な排出削減が図れるかと言うと、実は、そう簡単ではない。それは、1970 年代の比較的早い時期からその利用を開始した先進諸国における原発の発電量が2000年代に入り、その伸びを停止しているからである。理由は、需要の負荷変動に弱いベース電力としての原発電力の電力合計に対する比率が、経済的な利用効率の面から、図3 に示したように、ほぼ20 % 程度に止まっていると見られるからである。フランスでの特別に大きい値には、EU圏内で電力が融通できる特殊事情がある。
 今後、現状で原発比率の小さい新興途上国での原発比率の増加も期待されるが、福島原発事故の影響も予想され、これらの国での原発発電量に多くを期待することは難しくなることも考えられる。世界の現状(2010年)の一次エネルギー消費(原子力)の世界の一次エネルギー消費合計に対する比率は6.1 % である。将来の、世界の一次エネルギー供給のなかの電力の比率を約1/2(2010年では39.2 % )、その中の原子力の比率を上記の20 % にできたとして、CO2を排出しないとした原発の利用による世界のCO2 排出削減比率は、せいぜい10 % 程度に止まるとみてよい。

原発代替の石炭火力での省エネとCO2 排出削減

 福島原発の事故により、事故直前(2010年度)に、国内電力供給の25 % を占めていた原発電力の殆どが一時的に供給を停止している。現在、安全性の確認後の原発がどの程度、再稼動を許可されるかは不明であるが、現状の日本経済の窮状を考えるとき、いままで、国民の生活と産業を支えてきた原発電力の代替として輸入される化石燃料は、できるだけ安価なものが選ばれなければならない。それが、現在、最も安価で安定な供給が保証される石炭である。これは、実は、原発問題とは無関係に、世界で共通のことである。この経済性優先で、世界で広く使用されている安価な石炭火力発電の発電量基準での比率が、2010年の世界の40.5 % に対し、日本では 26.8 % に止まっていたのは、地球温暖化防止のためのCO2排出削減の目的に反するとして、石油危機以降、高価になった石油火力から安価な石炭火力への変換にブレーキをかけることなり、結果として、現在でも、高価な石油やLNG 火力が高い比率で用いられているからである(文献4 )。
 ところで、国内の原発電力の代替として、経済性を最優先して石炭火力発電を用いる場合には、本来の原発の開発・実用化が目的としていたはずの枯渇する化石燃料の代替の問題、すなわち、原発の利用による地球上の化石燃料(石炭)資源の保全に対する日本の貢献についても一定の配慮がなされる必要がある。この問題への具体的な対応策としては、世界の石炭火力発電における日本の省エネ(節電)技術の移転が考えられる。図4 に示すように、日本の石炭火力発電のエネルギー効率は世界一高い値を持っている。したがって、いま、この日本の省エネ技術を用いて、世界平均の石炭火力の発電効率を現状の35 % から40 % に 5 % 引き引き上げることができたとすると、世界の発電用石炭消費の節減量は 106.8百万石油換算トンとなり、2010年の国内原子力利用による化石燃料消費の節減量 75.1百万石油換算トンの1.4倍になる。この世界の化石燃料消費の削減は、当然、上記した原発利用での地球のCO2 排出削減効果の代替にもなる。近い将来、石炭ガス化コンバインドサイクルを利用して発電効率を70 % 程度にまで高めることができれば、より一層の省エネとCO2 排出削減効果が期待できる。
 なお、石炭火力発電では、排ガス処理や、焼却灰の処理・処分に関わる環境保全が問題にされることが多いが、現状では、これらの問題は国内では全て技術的に解決済みで、これらの費用を含めても、最も安価なのが石炭火力発電で、それが環境保全を破壊するとの非難はもう当たらない。

図4 各国の石炭火力発電エネルギー効率の値、2010 年、
(エネ研データ(文献1 )からIEAデータを基に作成)

CO2の排出削減のための再エネの利用とエネルギー政策としての再エネ利用

 現状でエネルギーの主役を担う化石燃料の代替として開発されてきた原子力エネルギーが、地球温暖化の防止のためのCO2排出削減効果への寄与も期待されるようになったのは、CO2排出削減対策の本命とされてその開発が促進されるようになった再エネ電力が、現状では、その実用化・利用には大きな経済性の壁があったからである。この経済性の壁を乗り越えるために考え出されたのが、市販電力料金値上げの形で広く国民に経済的負担を押し付けることで、何とか税金を使わない済むCO2 排出量の削減を図ろうとする「再生可能エネルギー固定価格買取制度(以下、FIT制度と略記)」である。
 しかし、ドイツを中心にEU各国で用いられるようになったこの制度を、国内で適用することには産業界の大きな反対があって思うように進まなかった。そのさなかにたまたま起こったのが原発事故である。この事故を契機にして、原発の代替としての再エネ電力の利用・拡大の要請から、このFIT制度が国内でも法案化、昨年(2012 年)7月から施行されている。しかし、国民に過大な経済的な負担を強いるこの 制度の利用では、少なくとも現状では、原発電力は代替できないし、大幅なCO2 の排出削減も図れない(文献4 )。いま、FIT制度の本場のドイツをはじめEU諸国では、この制度の存続が危機を迎えている(文献5)。
 EU諸国において、国民に経済的な負担をかけるFIT制度の適用が図られたのは、EUが言い出した地球温暖化のためのCO2排出削減が至上命令とされたからである。これに対して、化石エネルギー代替として再エネ電力の利用では、エネルギー生産での経済性が最優先されなければならない。すなわち、市場経済原理に従って、化石燃料の利用から再エネの利用への変換が行われるためには、その変換での経済的な有利さが定量的に示されなければならない。このように、FIT 制度に依存しないで、現有の化石エネルギー電力に替わって再エネ電力を用いることができるための条件として、私は、「限界設備コスト(原報では限界設備価格)」の概念を提案している(文献 4 )。
 再エネ電力の生産がFIT制度に依存しないでも収益事業として成立するためには、その発電設備の使用期間中に生産される電力を電力会社の発電コストと等しい価格で販売したときの売上金額が、再エネ電力生産設備の製造・使用のコストと等しくなる必要があるとして、これを「限界設備コスト」と定義する。なお、この国産の再エネ電力生産量に相当する化石燃料の輸入金額分が国の貿易収支の改善につながるとして、この金額分を国の補助金として再エネ電力生産事業に支給すことができるとする。このような国の補助金のない場合を「限界設備コストB 」、補助金のある場合を「限界設備コストL 」とする。また、ここでは、原報(文献 4 )では考慮していないが、生産電力の変動の大きい太陽光や風力発電では、生産電力を平滑化するための蓄電設備の使用が必要になるとして、この蓄電設備の製造・使用のコストが、発電設備の製造・使用のコストに等しいと仮定して、これを考慮した「限界設備コスト」の値を再計算した。
 この「限界設備コスト」の具体的な計算方法を「補遺」に示した。現状の化石燃料の輸入CIF価格、それを基にした発電コスト、設備価格などのデータを用いて計算した再エネ電源の種類別の「限界設備コスト」の計算値を表1 に示した。また、再エネ電力利用の実際では、国内の地政学的条件により規制される再エネ電力導入可能量が問題になるが、その推定値を表2 に示した。表1に見られるように、現在、日本において、FIT 制度を適用した再エネ推進の主役を担っている太陽光発電(家庭外、いわゆるメガソーラ)では、この「限界設備コストL (国の補助金付き)」の現状の「設備コスト(維持費を含む)T」に対する比率で表した評価指標 T / Lの値が8.5と、他の再エネ源に較べて大幅に大きな値となる。表2 の導入可能発電量の値からも、将来的にも、メガソーラーが、化石エネルギー電力の代替として用いることはできないと考えるべきである。また、中小水力や地熱は、表1の評価指標T / L の値からは、経済的には実用化の可能性があるが、表2に示す導入可能発電量に大きな制限がある。結局は、現在、世界における導入量の大きい風力発電の利用が、日本でも、最も大きな可能性を有していると考えられる(文献 7 )。

表1 自然エネルギー利用でのエネルギー源種類別「限界設備コスト」の試算結果
(エネ研データ(文献1)等を基に、「補遺」 に示す方法を用いて計算、作成した)

太陽光(家庭外) 太陽光(家庭)

風力 (陸上) 風力(洋上)

中小水力 地熱
買取価格 H*1
(円/kWh)
7.5 24 7.5 7.5 7.5 7.5
平均稼働率 y*2
( % )
9 9 28.8 35.4 65 70
使用年数 Y *3
(年)
20 10 20 20 20 15
限界コスト B*4
(万円/kW)
5.9 9.5 18.9 23.3 85.4 69.0
有効自然比 i *5
( % )
26.8 0 84~46 87~ 56 90~76 85~78
補助金 D*6
(万円/kW)
1.3 0 13.4~7.2 17.0~10.8 32.1~27.1 24.4~22.1
限界コスト L*7
(万円/kW)
6.2 9.5 32.3~25.4 40.3~34.1 118~113 93.4~91.1
設備コスト T*6
(万円/KW)
52.5 51.3 36~125 36~125 104~250 129~195
評価指標 T / L 8.5 5.4 1.1 ~ 4.9 4.9 ~ 3.7 0.88 ~ 2.3 1.4 ~ 2.1
注 *1;
生産電力の買取価格の略。需要端で挿入できる太陽光(家庭)では、家庭用市販電力料金 24円/kWhとし、それ以外では、火力発電での平均的な発電コストの値 7.5 円/kWh とした
  *2;
年間平均設備稼働率の略
  *3;
設備使用年数の略
  *4;
「限界設備コスト B 」の略、ただし、太陽光および風力では、発電設備コストと蓄電設備コストが同じと仮定して、両者の合計の1/2 を「限界発電設備コスト」とした
  *5;
「有効自然エネルギー利用比率i 」の略、i の計算に必要なc = 9.45 kcal/円(2009 年度の値)を用いた
  *6;
「国の補助金額 D 」の略
  *7;
「国の補助金付き限界発電設備コスト L 」の略、発電設備コストT の最小値と最大値に対して計算した値。ただし、化石燃料輸入CIF 価格Cとして、石炭火力の燃料費 3.14円/kWh を用いた
  *8;
政府の決めたFIT 制度での設備建設コストT 、設備建設費に設備維持費{(年間設備維持費)×(設備使用年数Y)}を加算して求めた値、設備規模の最大と最小に対する値を示した

表2 再エネ電力のエネルギー源種類別導入可能発電量と、その国内発電量に対する比率
(環境省による委託調査研究;「再エネ電力設備容量の導入可能量」から発電量を推算した。文献4)

太陽光
(家庭外)
太陽光
(家庭)
風力
(陸上)
風力
(洋上)
中小水力 地熱
発電可能量(百万kWh) 117,700 31,530 715,524 4,576,758 82,222 87,074
対国内発電量比率*1(%) 10,6 2,7 60.1 411 6.4 3.7

注 *1;国内発電量(2010 年度)1,156,888 百万kWh に対する比率

低炭素社会の推進から脱化石燃料社会への転換が、世界のエネルギー政策の解決への途

 はじめに述べたように、いま、ポスト京都議定書の地球温暖化対策についての国際協議が迷走している(文献2 )。そのなかで、国内世論は、京都議定書の制定に積極的に関わった日本の責任として、何としてでも、今後のCO2 排出枠組み国際協議の場で積極的な役割を果たすべきだと訴える。しかし、例えば、IPCC の要請に応えて、2050 年までに地球温度上昇を2 ℃ 以内に抑えるためには、先進国が現状の8 割を、途上国でも3 割のCO2排出量の削減が必要とされているが、このような数値目標の達成は、上記から判るように、世界のエネルギー消費の構造を根本的に変えない限り、到底、実現不可能である。
 では、IPCC が主張するCO2排出削減の要請が実現できなくなると地球はどうなるのであろうか?この問題について、私は、IPCCの報告書は、地球温暖化防止のためのCO2の排出量削減の数値目標を求める要請ではないと考えるべきとしている。その理由の一つには、今世紀に入って、地球大気中のCO2 濃度の増加にもかかわらず、地球大気の温度上昇は過去15年ほど停滞を続けているとの報道がある(文献 8 )。これでは、地球温暖化がCO2 に起因するとするIPCCの仮説自体が怪しくなる。太陽活動の変化から、地球が寒冷化に向かうとの説もある。少なくとも、いま、急いで地球温暖化防止を目的として何が何でもCO2排出を削減する必要はないと考えるべきであろう。もう一つの理由は、もし、IPCCの主張の通りのCO2の排出に起因する温暖化、或いは、それが原因とされる近年の異常気象が継続するとしても、これら温暖化や異常気象による地球の被害金額とCO2排出量との関係が判らない(科学技術による予測可能の範囲を超えている)から、この被害を防ぐためにどれだけお金をかけたらよいかが実は判らない。したがって、地球上のCO2の排出量削減に世界中の協力を得るためには、経済最優先で、現状のエネルギー供給の主役を担う化石燃料のなかの最も安価なものを、目的に応じて選択・使用する(例えば、発電用には石炭)なかでの徹底した省エネを推進する以外に方法がない。この方法には、将来枯渇する化石燃料の国際価格が上昇した時には、例えば発電用の化石燃料(石炭)の代替として、上記したように、市場経済原理に従った「限界設備コスト」の概念を用いて、FIT制度の適用なしの(国民に経済的負担をかけることのない)再エネによる化石燃料の代替利用を図ることも含まれる。なお、この化石燃料(石炭)の使用では、CO2の排出削減を目的としたCCS(燃焼排ガスからのCO2の分離、回収、貯留)技術を併用すべきとの意見もあるが、これでは、石炭利用での経済的メリットが失われ、世界中での協力を得ることが不可能となる。
 このような当分の間の経済優先での石炭利用を基軸とした省エネ・創エネの方法は、世界のエネルギー政策としても通用する唯一の方法であると考える。この方法を世界に適用する場合の前提条件は、全ての国が、化石燃料消費の削減に協力することである。しかし、経済発展を続けなければならない途上国と、いままで、大量の化石燃料消費を続けてきた先進国では、その削減努力に差がつけられるべきであろう。この努力目標の目安としては、各国の一人当たりのCO2 排出量(化石燃料消費にほぼ比例する)の値とその世界平均の値との違いが一つの目安となるであろう。すなわち、図2に見られるように、多くの途上国は、この目標数値としての削減義務は免れる一方、世界第2の経済大国になった中国は、できれば数値として表れる削減努力が要請されることになるだろう。一方、先進国のなかでは、フランスのCO2排出の努力目標は小さくなるが、これはCO2排出量削減に貢献する原子力を電力として多用しているためである。ただし、原発の所有国は、安全性に対するリスクとともに、核燃料廃棄物の処理・処分に関わる経済的な大きな負担を背負わなければならないことに留意が必要である。
 このように、世界中が協力して努力をしても、地球の温暖化や異常気象を防ぐことができない場合、人類は、何とか、いまの気候変動に順応して生きて行く以外に選択の途がないと考えるべきである。
 もともと、IPCC のCO2排出削減の要請は、産業革命以来、人類が野放図に進めてきた化石燃料の消費を抑制する意図から出たものであるとも考えられている。したがって、上記した、地球上の化石燃料消費の削減の方策を地道に探して行くのが、このIPCC の要請に応え得る唯一の方法と言ってもよい。これが、私が訴える、「日本を守り、地球を守るための“低炭素社会へ”から“脱化石燃料社会へ”の変換(文献9 )」であり、世界が共有できる地球上の全人類の生存のために必要な世界のエネルギー政策のあるべき姿である。同時に、これが、澤が主張する地球環境問題への日本の積極的な関与(文献2)の現実的な方策であると考える。私は、いま、難航する国連気候変動枠組み交渉の場に、地球温暖化問題の解決に対して何の貢献ももたらさなかったCO2排出削減を目的とした京都議定書方式に代わって、日本が、この世界中が協力できる化石燃料消費削減の途を地道に探索する“脱化石燃料社会へ”の実践を、世界のエネルギー政策として提言して頂ければと強く願っている。

「補遺」; 市場経済原理に基づいた(FIT制度の導入なしの)化石燃料利用から再エネ電力への変換の条件としての「限界設備コスト」の算出方法

 自然エネルギー(国産の再エネ)の導入による電力生産での「限界設備コスト B(円)」の値は、設備の使用期間内の生産電力の売上金額に等しいとして、次式で求める。

「限界設備コスト B」= P × H × Y
(A-1)

国産の再エネ電力の利用による化石燃料の輸入節減金額を再エネ生産事業への国の補助金(円)として支給する場合の

「国の補助金額 D」= P × i × C × Y
(A–2)

で求め、この国の「補助金額 D (円)」を含む「限界設備コスト L (円)」の値は、

「限界設備コスト L」= B + D
(A–3)

として求める。
ここで、P は再エネ電力生産設備の発電可能量(kWh/年/kW-設備 )で、

(設備の発電可能量 P)= F × y × g
(A–4)

ただし、F = 1 kW/(kW-設備)、y は年間平均設備利用率、g = 8,760 h/年、
(A-1)式中のH は生産される電力の販売単価(円/kWh )、Y は設備使用年数(年)。
(A-2)式中のi は、産出された自然エネルギーのなかの有効に利用される部分の比率で、

「有効自然エネルギー利用比率 i」= 1 – M / S
(A–5)

ここで、M は設備製造・使用での投入エネルギー(kcal/(kW-設備) で、

M = c × T
(A-6)

として概算する。 ただし、c は単位設備価格当たりの設備の製造・使用に必要な一次エネルギー消費量(kcal/円)、T は設備コスト(設備の市販価格に設備の維持費を含む、円/(kW-設備) 。
また、(A–5) 式中のS は産出エネルギー量(kcal/(kW-設備)で、設備の使用期間中能力の低下が無いとして

S = P × Y
(A–7)

として計算する。

<引用文献>
1. 日本エネルギー経済研究所編;「EDMC/エネルギー・経済統計要覧2012年版」、省エネルギーセンター、2013 年
2. 澤昭裕;環境正論第33回、COP18を越え日本が採るべき交渉スタンス
3. 久保田 宏;新しいエネルギー政策における安全保障と自給率の限界、ieei、opinion 、2012/08/18
4. 久保田 宏;科学技術の視点から原発に依存しないエネルギー政策を創る、日刊工業新聞社、2012 年
5. 竹内純子;ドイツの電力事情⑧-日本への示唆 今こそ石炭火力発電所を活用すべきだ-、ieei、解説、2013/03/25、ドイツの電力事情 ⑩-再エネ全量固定価格買取制度、クリーン産業、脱原発を改めて考える-、ieei、解説、2013/08/20
6. 北澤宏一;日本は再生可能エネルギー大国になりうるか、ディスカヴァーカヴァートウエンティワン、2012年
7. 久保田 宏;太陽光発電は「再生不可能」である――科学の原理を無視して進められる「革新的エネルギー・環境戦略」の根本的な見直しを求める、ieei 、opinion、2012/10/10
8. 竹内純子;エコノミスト誌が報じた温暖化の「停滞」、ieei 、解説、2013/04/19
9. 久保田 宏;脱化石燃料社会、「低炭素社会へ」からの変換が日本を救い、地球を救う、化学工業日報社、2012 年

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