オバマ政権の環境・エネルギー政策(その6)

大統領選で見えた共和党との微妙な政策の違い ~環境面


環境政策アナリスト

印刷用ページ

 前節で紹介した2012年10月MITでおこなわれたオバマ大統領のエネルギー環境アドバイザーのアルディー氏とロムニー候補のエネルギー環境アドバイザーキャス氏の論戦の中から環境面に注目して両者の相違点を見出したい。

気候変動政策について

 キャス(共)「ロムニー候補は気候変動政策に対してはNo regrets policyを唱道している。つまり、経済にマイナスの影響を与えず、技術開発を中心に進めて行く。そこにおいては民間セクターがもっともいい仕事をするであろう。政府は研究開発への資金援助を行うべきである。」

 アルディー(民)「オバマ大統領は2009年中国、インド、ブラジル、南アの首脳と集中的に交渉をし、彼らにも米国同等の目標を持ってもらうよう働きかけた。初めてのことである。また、国内的には電力の分野で天然ガスと再生可能エネルギーを推進することを始め、また家庭用・産業用において効率向上を通じて著しく排出量を削減している。また2009年2010年とキャップ&トレードを推進したが、共和党は大統領がやることにすべて反対であった。大統領は電力分野でクリーンエネルギーテクノロジーおよび排出量削減を進めることは重要と思っているが、議会で進めようと思うと別の種の仕事が必要となってくる。」

 ロムニー候補の主張の中で国際交渉に関するところは十分こなれているものとはいえず、この時点ではどのようにものを進めたいのか、国連プロセスに乗って進めたいのか、進めたくないのか、という点は不明である。これは彼の準備不足というよりも、米国国内の世論が国連プロセスに対して冷淡であることを示している。また、このときキャスは盛んにアルディーに対してオバマ大統領のキャップ&トレードに対する現在のポジションを追及したが、アルディーはまともに答えなかった。これは現在の米国のキャップ&トレードへの疑問からキャスの挑発にうまく乗らないようにしていたものと見られる。

環境税導入の可能性

 アルディー(民)「オバマ大統領は第二期においては財政再建とそのための税制改革に取り組む必要がある。彼の考えに沿った形で財政再建の形でまたは税制改革の形で共和党側から意思表示があり、それが中間層にとってフェアで気候変動問題への課題に取り組むものなら大統領は導入の可能性を検討するだろう。」

 キャス(共)「大統領は環境税または炭素への価格付けについて発言をしないのでこの問題は終わったと考える。ロムニー候補は技術革新に焦点を当てており、炭素の価格付けは正しい環境政策ではない。」

 双方、この点は持論をこれまでと同じポジションから展開している。

環境保護庁による環境規制について

 この論点は、議会でキャップ&トレードを中心とするケリー・リーバーマン法案を最後に議会が環境規制法制度の導入の動きがストップしている中でオバマ大統領が環境保護庁(EPA)を中心にして環境規制を矢継ぎ早に出していることに対する是非である。

 キャス(共)「EPA規制として発表されている、汚染物質最大削減達成可能管理技術(Maximum Achievable Control Technology:MACTルールと呼ばれる)にロムニー候補 は反対である。

(注)MACT:有害性大気汚染物質国家排出基準(NESHAPs)により規定される規制で、EPAが指定されている水銀を含む物質のうち一種類を年間10トン以上を排出する施設、または総合して年間25トン以上排出施設に対して適用される。MACTの基準は、既存の対象施設全体で削減量上位12%の施設における削減量を平均したのと同等の有害大気汚染物質排出削減を達成しなければならいとするもの。

 より広範に言えば、ロムニー候補はEPA規制の根拠となっている大気汚染浄化法は悪用されているので改正する必要があると考える。特に炭素規制は、もともと大気汚染浄化法で規制することを考えていないので大気汚染浄化法のもと行うべきでない。そもそも最高裁判決(2007年マサチューセッツ州対EPA判決:炭素規制は大気浄化法のもとEPAに規制権限があると認めた最高裁判決)には当事者適格性がない。」

 アルディー(民)「MACTは水銀だけでなく多くの大気汚染微粒子物質を規制しており、コベネフィット性がある。マサチューセッツ州対EPA最高裁判決はその後ワシントン控訴裁判所で支持を受けている(注)。ロムニー候補は公衆健康への汚染は削減しなければいけないと言う一方でMACTルールに反対というのは不誠実な対応である。」

(注:主として経済的影響という観点から大気汚染浄化法のもと炭素規制することを争うために産業界からワシントン控訴裁判所に対して起こされた「Coalition for Responsible Regulation(産業界代表) 対EPA裁判」においてワシントン控訴裁判所が2012年6月26日環境保護庁(EPA)の権限と関連する炭素規制への異議を棄却する意見を述べたことを指すものと思われる。」

 この点米国の各産業界がさまざまな機会を使ってEPA規制に異議を唱えているという現実からするとマサチューセッツ州対EPA最高裁判決は筆者からみるとまだ紆余曲折が予想されるので同判決の正当性にすがるアルディーの議論に説得力は感じられない。この点共和党は自由に議論を展開できるし、長い眼でみれば共和党の議論は意味のあるものとして顧みられるであろう。

ロムニー陣営は2007年マサチューセッツ州対EPA判決
(炭素規制は大気浄化法のもとEPAに規制権限があると認めた最高裁判決)には当事者適格性がないと主張。

 以上多少長くなったが、ふたりの議論の意見が相異するとことを中心に拾ってみた。キャス氏は、再生可能エネルギーの投資効率の悪さ、立法によらない環境規制の脆弱さなど適切なポイントをついているが、能弁なアルディー氏によってかわされ、かつアルディー氏はキャス氏の挑発に乗らず、多少ねじれている議会で合意不可能な点(キャップアンドトレードなど)にはいらだちは見せるものの言及を避ける。オバマ第二期政権は議会との関係が大変重要となってくると考えるが、第二期政権の初の一般教書演説をみてみたい。

第二期政権初の一般教書演説

 オバマ大統領は議会への苛立ちを隠そうとしない。
 オバマ大統領は、今日、エネルギーに対する投資ほど有望な分野はないと言ってから下記のように語っている。
 「長い議論の後、ようやくわれわれのエネルギーの将来についてコントロールができるようになりました。過去15年でもっとも多くの石油を生産しており、われわれの車は1ガロンのガソリンで2倍の距離を行くようになり、風力・太陽光などから発電される再生可能エネルギーも倍増しています。何万人もの善良なアメリカ人の雇用を伴いながら。これまで以上に天然ガスを生産しており、それがほとんどすべてのエネルギー料金を低下させています。そして過去4年間われわれの惑星を脅威を与えている危険な炭素汚染の排出量は実際減少しているのです。
 しかし、われわれの子供のため、われわれの未来のため、われわれはもっと気候変動と戦わなくてはならない。たしかに、ひとつの事象だけでこの傾向を決めつけられないのは真実です。しかし、事実は、過去15年間もっとも暑い年が12回ありました。熱波、旱魃、山火事、洪水、これらすべてがこれまで以上に頻繁で熾烈になっています。スーパーストームサンディや過去何十年より過酷な旱魃、そしていくつかの州で起こっている最悪の山火事、これらすべてがただ異常な一致であると信ずることができます。あるいは圧倒的な科学の判断が正しいということを信じるに足ると思うようになっています。そして遅すぎることにならない前に行動を起こす必要がるということを。

 よいニュースとしては、われわれが力強い経済成長を続けながら、気候変動問題について意義ある進展をしていることにあります。数年前にジョン・マッケインとジョー・リーバーマンがともに取り組んだような民主党共和党共同で市場メカニズムによる気候変動の解決策を探るように議会に促したい。しかし、議会がわれわれの将来の世代を守るためにすぐに行動に移さないようであれば、わたしは行政に対してわれわれが汚染物質を減らし、気候変動の結果に対してコミュニティーに準備をさせます。また、より持続可能なエネルギー源への移行を加速化するために採用することができる行政による行動を作り出してくれるように指示をするつもりです。
 数年前までは、他の国がクリーンエネルギー市場とその結果としての雇用を独占していましたが、われわれも変わり始めました。米国では昨年風力は約二倍の設備を増加させましたのでもっと発電をさせましょう。太陽光もだんだんと年を追うごとに価格は低下している。そしてもっとコストを安くさせましょう。中国のような国がいつものごとくクリーンエネルギーに関わり続けるならわれわれもそうしなくてはなりません。

 その一方で、天然ガスの増産がよりクリーンなエネルギーおよびエネルギー自給の向上につながっています。だからわたしの政権は行政の無駄を排除し、新規石油天然ガスの許認可を加速させたい。また天然ガスがもっとクリーンに燃焼できるようにまたわれわれの大気と水を保護するのに役立つ研究開発を促進するために議会と協働したい。

 実際、新しく発見されたエネルギーの多くは、公衆がともに所有する大地と海から掘り起こされています。さて本日、わたしはわれわれの石油と天然ガスからの収入をエネルギーセキュリティートラストに資金供与することを提案します。新たな研究開発を自動車とトラックを石油から永遠にシフトするためのファンドです。もし、企業のトップ、退役軍人が党派を超えて連携し、このアイディアを支援できるならわれわれもそれが可能です。彼らのアドバイスに耳を傾け、とても長くの間耐えてきた痛みを伴うガソリンの高騰からわれわれの家族と企業を解放したいと思います。わたしはまたアメリカのあらたな目標を発表します。今後20年間に家庭および業務用のエネルギーロスを半減させましょう。より効率的な建物を建築することにより、雇用を創出し、エネルギー料金を下げさせることのできる最良の考えをもった州にはそれの実現を後押しするための連邦の支援が受けられるようにします。」(訳筆者)

 エネルギー分野においてはこの直前にあった財政赤字削減問題とともに比較的党派性のない、言い方に終始しているが、後半の他の分野(移民政策、拳銃規制など)では共和党の不満そうな顔を省みずどんどんと自らの意見を鮮明に主張し、第二期政権での強気の運営を予想させるものであった。しかし、エネルギー環境問題では、むしろ議会に行動を求め、行動を起こさなければ(「仮に起こしても」と訳すべきか悩ましいところだが)、行政府のほうで進めると挑発をした。これはアルディーとキャスのMITでの討論会では比較的対立がはっきりとした、環境保護庁(EPA)による環境規制であるが、オバマ大統領も真っ向から議会に注文をたたきつけた。これは立法に寄らない行政規制を進めるかもしれないという特に顕著なメッセージであることを世界資源研究所(WRI)も注目しているところである。たぶん今の議会では、マッケイン上院議員やリーバーマン上院が取り組んだキャップアンドトレード法案は可決がとても難しいと知っての発言であり、大変意欲的、別の言い方をすれば大胆な言い方と言っていい。そこには「危険な炭素汚染」とあるように必ずしも公平な科学の知見には事欠いたような認識をベースにしているようなところもあり、注目が必要である。
 一方で2013年3月にはおよそ5000億ドルの大増税と歳出の大幅削減が始まる「財政の崖」が想定されていた。その点では民主・共和の融和を求める必要があり、一般教書演説ではこの点においては1兆円の予算削減に向けて一定の対策を示すことにより、取り組み姿勢を示すこととした。政策項目によって妥協的な対応するなどオバマ大統領の姿勢は第一期と同様、それ以上に現実的アプローチである。その後、結果的には1月にはオバマ大統領と議会が合意し、上院が減税延長に必要な法案を可決し、さらに3月に暫定予算を議会は通過させ、期限ぎりぎりの妥協が成立し、深刻な経済危機に陥ることを免れるのに成功した。

記事全文(PDF)