オバマ政権の環境・エネルギー政策(その5)
オバマ第二期政権の政策の方向性
前田 一郎
環境政策アナリスト
第一期オバマ政権におけるエネルギー環境政策は前々回紹介したようにアメリカ進歩センターの影響が強かった。それはオバマ大統領とポデスタ補佐官との個人的人間関係が大きかったためだが、第一期政権の途中でアメリカ進歩センターの影響力は減り、多くの政治任命の要人を排出した未来資源研究所(RFF)も含め、いわゆるシンクタンクの影響力そのものがなくなり、第二期は第一期の後半から含め、産業ロビイストの影響が強くなっている。ただ、第一期を通してシェールガス開発・生産が本格してきている中で市場にゆだねたことによって米国のエネルギー安全保障、低廉なエネルギーの供給、気候変動を含めた環境問題への対応が改善する方向にある。次に第二期政権に向けてのオバマの政権の環境エネルギー政策の方向性を予測したい。
「プラグマティスト」アーネスト・モニーツ教授のエネルギー省長官指名
スティーブン・チュー前長官はその3で組織重視の実務派という整理をした。しかし、西海岸出身ということでそれまでワシントンの政治には関わっていなかった。そういう意味でワシントン政治を知り尽くしたダニエル・ポネマン副長官の役割は大きかった。ポネマン次官は米国外交評議会エネルギー・セキュリティグループの副議長なども努め、日本人ビジネスマンとも大変交友のある人である。そこに同様にワシントンの政治に精通したアーネスト・モニーツMIT教授がエネルギー庁長官に今年3月に指名され、5月16日上院で民主共和両党の党派を超えて97対ゼロで議会の承認を得た。モニーツ教授はクリントン政権でやはりエネルギー省次官を努めている。エネルギー産業との関係も深く、理解者である。しかしながらそのためにNGOからの批判もあり、指名承認に手間のかかったのも事実である。この指名は産業ロビイストの影響力がNGOやシンクタンクの影響力の低下との対比においてオバマ第二期政権で一層表面化し、産業寄り、より実務的なエネルギー環境政策運営が行われることにつながるものと考える。4月9日に承認のための聴取が議会で開かれたが、多少時間がかかったのはむしろ議会とオバマ大統領の間に別の要素のやりとりがあったようだ。それはサウスキャロライナ州で建設が予定されているMOX工場への予算削減に対し、同州選出のグラハム議員が懸念を表明し、同指名人事をエネルギー・天然資源委員会で棚上げにする動きに出た。最終的には政府との調整がついたようで同議員はこの棚上げを解除し、指名の運びとなった。前節でも述べたが、このようなまったく違う案件で議会と政府が取引をすることがよくある。この点注意しなければならない。4月の聴取会で彼は“All of the above”政策を支持した。どのエネルギー源も捨て去るべきではない、日本のベストミックス政策に近い考えである。野党院内総務であるマッコネル上院議員は「アメリカのエネルギー面の課題を解決するためにモニーツ教授のプラグマティックなアプローチにはわたしもわたしの多くの同僚も楽観的に考えている」と評価は高い。産業界は軒並み高い評価を与えている。NEI(原子力エネルギー協会)は「モニーツ長官とともに原子力が引き続きアメリカのエネルギーと環境に対して重要な役割を果たすことを確認するために一緒に働くことを期待している」、米国石油協会は「モニーツ長官に米国に雇用と国の債務の削減に貢献するLNG輸出を認可することを促したい」と歓迎している。このシェールガスのLNGとしての輸出許可問題はモニーツ教授の指名と関係があることは後ほど述べたい。ただし、彼は原子力についても理解者であるが、プルトニウムのビルドアップにつながるだけの原子燃料サイクル政策には一貫して反対している。
環境保護庁長官だったリサ・ジャクソンも退き、その下で大気・放射線局担当次官補だったジーナ・マッカーシー氏はやはり4月にオバマ大統領から指名候補とされたが、議会の承認は大変難航している。5月には上院環境・公共工事委員会では野党共和党が投票をボイコットしている。共和党候補ロムニーの環境政策アドバイザーをしていたにも関わらず、同委員会共和党メンバーはマッカーシー氏に環境保護庁(EPA)による規制に関する透明性および説明責任に関する書簡を発信した。それに対する回答において依然懸念があるとして全会での同意のプロセスに入ることを拒否している。本件は、マッカーシー氏そのものに対する懸念というよりも環境保護庁(EPA)に対する懸念を彼らは表明していると言うことができる。つまり、環境保護庁(EPA)のこれまでの議会を超える権限を超えるかのような規制の発出のしかたに反発を強めていた。後述するが、環境保護庁(EPA)による石炭火力由来の公害物質(水銀を含む)規制については、産業界は大変その動向には注意をしている。
どちらにしてもエネルギー省は「プラグマティスト」モニーツ長官の登場を歓迎し、やや強硬派と目されているマッカーシー長官は敬遠されている。これもオバマ第二期政権をとりまく政治環境の変化を象徴していると言えようか。
オバマ政権第二期目のエネルギー政策のプライオリティー
オバマ大統領は2013年就任演説および一般教書演説において気候変動への取り組みを加速する発言をしている。大統領は、同時に議会において気候問題の法制化が成功しなくても行政府において対応を進めることを明言した。就任演説では「気候変動の脅威」という言葉を使った。これに対して化石燃料ロビーたちは温暖化ガス規制に反対をし、環境保護庁の規制案に対して司法的なチャレンジをすることをうかがわしている。また、天然ガスロビーは天然ガス生産がいかに経済的で米国の温暖化ガス排出量削減に意味があるかを、行政府と議会に対して「教育」をすると言っている。実際議会は上院と下院ではねじれているのでなんらかの法制化をするのは難しいので行政府の執行力で進めていく考えであることに注目する必要がある。また、一般教書演説においては再び気候変動に触れ、マッケイン上院議員に視線を送り、「かつて議会で市場メカニズムによる環境法制化の動きがあった」と言いながら、キャップ&トレードのような市場メカニズムを使うことを求め、かつすべてのバランスよくエネルギー源を活用しようという政策の意味をもつ”All of the above”という言葉を強調した。第二期オバマ大統領政権のいわゆるエネルギー政策15ポイントといわれているのは以下のとおりである。
- 1.
- 2020年に2012年に比して再生可能エネルギーを倍増にする
- 2.
- 内務省に対して連邦所有地におけるエネルギープロジェクトをもっと確実としてものとすること
- 3.
- 天然ガスにより安全な発電およびよりクリーンな電力をコミット
- 4.
- 責任をもった原子力廃棄物政策を支援
- 5.
- 10年のうちにネット石油輸入を半減する目標をもつ
- 6.
- 天然ガスおよび他の代替燃料採用を民間とパートナーを組むことをコミット
- 7.
- 2030年までに米国エネルギー生産効率倍増目標を確立
- 8.
- 州政府に対してエネルギー効率を向上させ、送電網を近代化することを求める
- 9.
- エネルギーを賢く利用する既存の官民パートナーシップを成功裏に進めることをコミット
- 10.
- エネルギー効率および廃棄物削減を最大限促進する持続可能な技術投資を要求
- 11.
- クリーンエネルギー大臣会合や他のフォーラムを使ったエネルギー効率向上、クリーンエネルギー開発のための国際的取り組みを主導する
- 12.
- G20および他のフォーラムを使って非効率な化石エネルギー補助のフェーズアウトに努力する
- 13.
- 安全で責任のある石油・ガス開発を促進
- 14.
- エネルギーセキュリティーの米国の国際的影響力拡大
- 15.
- 米国原子力輸出の支援
上記のうちクリーンエネルギー大臣会合などをつかったエネルギー効率向上のための国際的取り組みは、GSEP(Global Sustainable Energy Performance Partnership)が例示されていてこれに深く取り組んできて筆者としては大変心強くした次第であった。
ただし、この表面的ないいぶりだけでは全体的には総花的で論点が十分につかめない。そこでロムニー候補陣営との間で繰り広げられたエネルギー政策に関する論争を多少見て具体的論点を拾ってみたい。