オバマ政権の環境・エネルギー政策(その4)

景気対策法における環境・エネルギー投資


環境政策アナリスト

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石油政策と自動車の燃費基準

 ブッシュ前大統領は石油政策に積極的であった。ただし、自身が石油産業出身であることと、イラク戦争への突入とは巷間で言われているような関係はない。中小の油田開発会社経営に携わったことはあるが、当然のことながらメジャーズとは一線を画している。しかしチェイニー副大統領が、イラク復興事業に副大統領就任までCEOとして関わってきた会社であるハリバートン社を起用しようとしたところからその関係を疑われることになってしまった。
 またイラク戦争が原油価格の押し上げの要因というのは、一面的な見方である。原油価格はイラク戦争の懸念が出始めた2002年以降に上昇し始めたが、その後も上昇を続けた要因は、むしろ需給逼迫やハリケーンのような突発要因の影響が強い。中国を中心とする主要途上国の実需が増大したことに加え、米国の需要も増大。供給面では、1979年以来建設がストップしている石油精製所の製品供給能力が限界に近づく一方で、石油輸出国機構(OPEC)の余剰生産能力が減少していた。その需給逼迫の中で2005年、ハリケーンカトリーナおよびリタが襲来し、石油精製所が打撃を受け、価格が上昇した。
 これを受けてブッシュ大統領は、2005年エネルギー政策法で外国石油への依存度の軽減を目指す戦略の制定を促した。さらに2007年12月に成立したエネルギー独立安全保障法(Energy Independence and Security Act of 2007)では、自動車会社の企業平均燃費基準(CAFE)の強化、再生可能燃料の導入促進を盛り込むことになった。
 オバマ大統領も1970年代以降の歴代大統領が懸念してきたのと同様に、輸入石油への依存を削減することを目標にした。そして、10年以内に中東およびベネズエラからの輸入相当量の石油消費を抑制することを求めている。
 オバマ大統領は選挙期間中、その対策としてCAFE基準を毎年4%ずつ引き上げることを求めていた。就任後は、一層のCAFE基準の強化を訴えている。2007年エネルギー独立安全保障法で、新車は2020年までにガロン当たり35マイル(1リットルあたり14.8キロメートル)を満たすように求めている。オバマ大統領はそのさらなる加速を掲げており、2015年までに100万台のハイブリッド自動車投入を求め、7000億ドルの税控除を求めるという野心的な提案をし、一部は米国景気対策法で実現した。
 その後、オバマ大統領は矢継ぎ早に、これらの措置を前倒しする対策として2009年5月19日、新たなCAFE基準を発表した。新基準では米国内で販売する乗用車とライトトラックについて、2016年までにリッター当たり平均約15.1キロメートルとすることを求めた。新基準では2007年エネルギー独立・安全保障法に基づく燃費基準を4年間前倒しで実施することとし、2016年までの5年間に毎年5%ずつ規制を強化していくとしている。
 また、オバマ大統領はハイブリッド自動車の投入に向けて7000億ドルの購入時税控除を求めるという提案を行い、その一部は景気対策法に認められた。

油田開発については推進の方針

 既存の石油および天然ガス田へのアプローチについてはどうだろうか。
 2008年9月に下院を通過した法令の中の条項では、油田・天然ガス田資源を連邦からリースする生産者は、これを継続するか権利放棄をするよう求められている。放棄した場合には他の生産者に掘削を譲渡させられることになっている。これによりリースを受けたのにきちんと油田の掘削を行っていない事業者たちを一層刺激し、生産の拡大を目指すことにしていた。オバマ大統領はこの考えを支持している。最終的にこの法案は廃案になったが、下院の意向としては残っているとみられる。
 また、石油・天然ガス田の国内生産を増産させることで、資源開発に伴う環境インパクトの最小化を求めている。2009年2月、内務省はブッシュ大統領政権時代に決めたユタ州の77地区のリースをキャンセルさせた一方で、そのうち8地区はオイルシェール(炭化水素を多量に含む堆積岩)開発のために、州知事からの依頼に基づいて除外している。
 他方、米国域内の大陸棚、オフショア(沖合い)の油田・ガス田開発についてのオバマ大統領の戦略は、現在のところはっきりさせようとしていない。もともと初代のブッシュ大統領(父)がこれを禁止し、クリントン大統領が引き継いだ大陸棚油田・ガス田掘削禁止モラトリアム(一次停止)をブッシュ前大統領は解除しようとした。当初、民主党は反対していたが、原油価格の高騰などにより、下院の民主党議員の中には、一部開放に合意した人もいる。
 議会は、大陸棚油田・ガス田掘削禁止モラトリアムを更新しないこととしたため、モラトリアムは期限切れということになった。オバマ大統領はもともと掘削解禁を支持していたが、あくまでも輸入石油への依存を低減するという全体のエネルギー政策の文脈の中での措置であると表明しており、ケネス・サラザール前内務長官は引き続き州政府と議会の間の調整に腐心した。議会の証言で、サラザール長官は、「新政権は大陸棚油田・ガス田の開発については包括的エネルギー戦略の中で検討する。内務省提出の5か年計画に基づいて大陸棚開発についてどのように進めていくかは、議会の問題であり、行政の問題でもある。掘削に適した箇所もあり、禁止すべき場所もある」と地域ごとに判断するという柔軟な考え方を提案している。二期目初の女性閣僚であるジュエル現内務長官の判断が注目される。

堅実路線を歩むオバマ

 金融危機という重荷を背負って登場したオバマ政権は、就任以来矢継ぎ早に政策を打ち出しているが、その白眉となるのは7870億ドルにも上る景気刺激法である。優先順位としてはより上位にある雇用確保にエネルギー・環境政策を結びつけ、新たなパッケージのあり方を内外に示した。
 この考えは、オバマ大統領を支持する民主党系シンクタンク、アメリカ進歩センターの提案に拠るところが大きいが、ブッシュ前大統領以来の輸入石油依存からの脱出という安全保障面の要求に加え、地球環境問題を真正面から見据えた包括的なエネルギー・環境政策をベースにしている。さらに、電力送配電網強化への明確な言及とその延長線上にあるスマートグリッド促進は、これまでのどの大統領にもみられなかった特色と言っていいだろう。アメリカ進歩センターや全米エネルギー政策評議会などのシンクタンクにいるエネルギー・環境専門家の英知が、これに反映されているものと考えられるが、途中でのアメリカ進歩センターの影響が減少したことにより、チュー前エネルギー省長官のような実務家らが最終的には、第一期を通して手堅い現実的路線を進めてみてよいであろう。
 しかしながら、これを支える景気刺激策がどの程度功を奏したか、景気を浮揚させたか、は今現在まだきちんとした評価が米国内でも確定していない。法律では大統領経済アドバイザー諮問委員会「Executive Office of the President Council of Economic Advisers」が4半期毎に景気対策法の評価をすることになっている。それによれば「景気対策法は景気好転に著しい役割を果たした。名目DGPは2009年第二四半期に底を打ち、手堅く回復しており、それは主に税の軽減、支出の増大が寄与している。雇用も劇的な落ち込みに後、2010年を通じて持続可能なベースで成長している。云々」と自己評価をしている。この税の軽減と支出の増大は後になって「財政の崖」問題となって矛盾を露呈したが、しかし、2009年を底に回復基調にあるというのは確かなところだろう。ただ、第一期を通してシェールガス開発・生産が本格してきている中でむしろこうしたエネルギー政策によらず、市場にゆだねることで米国のエネルギー安全保障、低廉なエネルギーの供給、気候変動を含めた環境問題への対応が改善する方向にある。すくなくともこれだけ再生可能エネルギーに費やした資源は想定された雇用の拡大につながったのか?ここは現政権は答えていない。つまり、政策が功を奏したのでではなく、市場とそれを市場に供給するための技術革新が功を奏したとも言える。この点は強く2012年大統領選挙で強くロムニー候補側から追求された点である。次回は第二期政権に向けてのオバマの政権の環境エネルギー政策の方向性を予測したい。

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