オバマ政権の環境・エネルギー政策(その1)

はじめに


環境政策アナリスト

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気候変動国際交渉に対する対応の変化

 2009年4月、ドイツのボンで行われた国連の気候変動枠組み条約に基づく特別作業部会※。米オバマ政権の気候変動問題担当特使として初めて登場したトッド・スターン氏と主席交渉官のジョナサン・パーシング氏は、颯爽としていた。
 彼らは終始、会議を積極的にリードしたのははもちろん、民間からの参加者に、何度も説明の機会を用意し、発言に耳を傾けた。また、議長が2009年8月のボンでの作業部会を非公開にしようと提案したときも、民間参加者にも開かれるべきだと強く主張し、実現してくれた。また米国交渉団は参加していない京都議定書における特別作業部会でも発言を求めるなどの意欲的な姿勢を見せた。その前のブッシュ政権時代での交渉での姿とはだいぶ違った印象を受けた。
 オバマ政権が送り込んできたスターン氏とパーシング氏の積極的な姿勢は、米国が地球温暖化問題の主役に帰ってきたことを世界にアピールすることになった。
 ちなみに筆者は、パーシング氏が世界資源研究所(WRI)にいるときに何度か訪れたとき、彼はWRIの前に国際エネルギー機関(IEA)にいたこともあって欧州連合(EU) 域内排出量取引制度(EU-ETS)の情勢にも大変詳しく、強い信念をもってキャップ&トレードを擁護していた。パーシング氏の地球環境問題に関する主張にぶれはなかった。その活躍ぶりが米政権内部の人々に信頼と安心感を与えたであろうことは想像に難くない。
 この主張は当時の国内におけるオバマ大統領の議会で環境政策を形成したいという強い思いと連動していた。これはその前のブッシュ大統領の路線、すなわち国連プロセスではなにも決まらない、もし地球環境政策を前進させたいのなら、国連とは離れたプロセスを別途設置し、そこを実質的な交渉の場とするべきである、とする考えとは異質なものであったといえよう。

米新政権の特使が気候変動枠組み条約の特別作業部会に颯爽と現れた
(左:2009年4月ドイツ・ボンの作業部会 筆者撮影 / 右:スターン氏)

現実的なオバマの現実的な原子力政策

 新大統領は2009年1月20日の就任直後から次々と政策を打ち出している。危機に陥っている米国経済を立て直す手段として注目されているのは、グリーン・ニューディール政策だ。再生可能エネルギーや省エネルギーを産業に育て上げ、道路や橋、エネルギーインフラを建て直す。それにより経済の復興とエネルギーの独立を目指すことが狙いであることは、周知のとおりだろう。温暖化防止法案の議論に着手するなど、地球温暖化問題についても積極的な姿勢を見せる。
 一方、ブッシュ政権で強化された原子力発電については、オバマ大統領は多くを語らない。2009年の予算教書では使用済み原子燃料の処分場であるユッカマウンテン計画の見直し方針を打ち出した。オバマ大統領は原子力発電に否定的ではないかとの声も聞かれる。
 しかしオバマ大統領は決して原子力発電を否定してはいない。むしろ冷静に現実路線を歩もうとしていると筆者には見える。オバマ大統領は、2012年の再選において盛んに「All of the above」(どの既存のエネルギー源も安全保障のために活用するべき)という主張を言い出している。これはどのエネルギーも総動員するべきであってどれかひとつに偏るべきではない、とする考えであり、日本がずっと主張しきている「ベストミックス」の考えとあい通じるものがある。原子力をどうみるかというのは明確にオバマ大統領の肉声と聞こえることは少ないが、第二期においてエネルギー省長官にマサチューセッツ工科大学のアーネスト・モニーツ教授を起用したことは原子力に対して前任のスティーブン・チュー長官以上に前向きあることを示している。
 それぞれ横に縦にお互いに関わりあっている米国のエネルギー・環境政策であるが、これを紐解いて解説するため、以下に、オバマ政権のエネルギー・環境政策を個別にみていきたい。

※ 条約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会第5回会合(AWG-LCA5)及び
京都議定書の下での附属書 I 国の更なる約束に関する特別作業部会第7回会合(AWG-KP7)

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