同時同量(前編)

現行制度の考え方と問題点


Policy study group for electric power industry reform

印刷用ページ

現行制度は歪んだインセンティブが問題

 さて、冒頭述べたように、同時同量制度は、参入障壁のように言われることが多いが、問題はむしろ、割り切りの多い制度ゆえの「隙」である。特に新電力によるインバランスの発生量を抑制すべくインセンティブを設計しているのであるが、割り切り故にインセンティブが歪んでいる。この歪みは、新電力にとっては有利に働く性格のものなので、現在の制度を心地よく感じている新電力関係者がいてもおかしくないのであるが、今後の詳細な制度議論を進める中で、適切な制度が構築されることを期待したい。

 「歪んだインセンティブ」と考えられるのは、例えば以下の2点である。
 1点目は、3%以内の不足に対するインバランス料金が必要以上に割安であることである。この料金は電力会社の平均発電電源コストに基づいて算出しているが、実態としてインバランスの調整を行っている電源は揚水、石油火力、LNG在来型火力等のピーク・ミドル電源である。それが、原子力や石炭のようなベース電源まで含めた料金となっているので、実態よりも安い料金となっている。この水準であれば、新電力が30分単位の積分値を合致させるべく調整に用いている電源よりも安いと思われるので、3%を超えない範囲であれば、不足インバランスをむしろ出す方向の歪んだインセンティブを新電力に与えていると言える。また、インバランス料金が安すぎるのであれば、本来の価格との差分は電力会社の顧客が言われのない負担をしていることになるので、この観点からも適正な料金水準が実現するような制度とすることが必要である。

 2点目は、3%を超える不足に対して適用されるペナルティである。これが高いという批判もされているが、高いと言っても中途半端に高いので、それが悪用される可能性がある。夏季におけるペナルティの水準である40~50円/kWhは、新電力にとっては、自らピーク電源を確保するよりも安い水準である。例えば、自らの需要の最大電力が100であった場合、自ら確保する電源は90までで、90を超える需要が出た場合は、ペナルティを払ってインバランスの供給を電力会社から受けた方が、新電力にとっては経済的になる可能性がある注2)。不必要なインバランス出さないようにペナルティを設定したつもりでも、水準が中途半端なために、却ってインバランスを増やす方向の歪んだインセンティブが生じかねないということである。

注2)
簡単な試算を以下に示す。
東京電力の2012年の需要実績によると、その年の最大一点ピークの93%以上の需要が出ている時間数は146時間(1.7%)
他方、コスト等検証委員会作成の発電コスト試算シート(2011年12月)を用いて、LNG火力(2010年モデル)の設備利用率1.7%の際の発電コストを算出すると約63円/kWh。
つまり、100の最大需要に対して93以上の需要が出た時は、インバランス料金のペナルティを支払った方が、経済的になる。
上記に加え3%範囲内の不足に対するインバランス料金も割安であるので、100の最大需要に対して、90の電源を確保し、90を超える需要はインバランス供給に依存する方が、経済的になる。

記事全文(PDF)