第9回 日本化学工業協会 技術委員会 委員長/三井化学株式会社 取締役 常務執行役員 生産・技術本部長 竹本元氏
環境問題のソリューション・プロバイダーとしての化学の使命
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
c-LCAの考え方に基づく化学産業の貢献量
――c-LCAは、従来の評価とはどう違うのでしょうか?
竹本:従来は、製品そのものの生産についての排出量で規制を行うことが中心でしたが、この方法ですと、削減のために必要な製品の生産にも支障をきたし、社会全体の排出量を削減するには問題がありました。例えば、住宅に化学製品の断熱材を用いた際、原料の石油からの製造工程でGHGを排出していますが、できたものは住宅の断熱材になる。住宅は何十年か持ちます。その時にこの断熱材を用いない場合と比べるとどれだけGHGがセーブできるのか、そうするとGHGの全体が見えてきます。
c-LCAは、エネルギーやGHGについての評価を行う際、その商品を製造過程だけではなくて、原料・製造・使用・廃棄のライフサイクル全体「ゆりかごから墓場まで」を通じてどれだけ社会に貢献できる商品なのか、あるいは社会にとってマイナスなのかも含めて評価できるのではないかと思います。
――実際の化学産業の貢献量、また削減活動の結果はいかがですか?
竹本:このc-LCAの考えに基づき、ICCAは、化学の貢献についてマッキンゼー・アンド・カンパニーに研究を委託いたしました。 製品を作る際にはGHGを排出しますが、断熱材や照明等の化学製品を積極的にエネルギー削減に用いると、その後はGHG削減に貢献します。2005年ベースで実際の排出量の2倍量をセーブしています。逆に言えば、製造過程では排出しても、その後のセーブ量の方が大きいのが2005年ベースの貢献量です。
マッキンゼーの報告・研究では、2030年ベースではGHG排出の大幅削減が可能で、3倍から4倍の削減貢献ができることがわかりました。温暖化防止に対しては、かなりこれから期待されている産業だと思います。
日本がガイドラインを策定し、c-LCAによる数値の透明性を高める
――日本化学工業協会は、エネルギーと気候変動に対してどのような取り組みをされていますか?
竹本:日本化学工業協会(日化協)は、約180の当社のような企業会員と約80の団体会員によって構成しております。エネルギーとGHG削減については、経団連の環境自主行動計画に参画して取り組むとともに、社会に化学産業の貢献が理解され信頼を得られるように努めており、会員企業の製品と技術の提供を通じて、エネルギーやGHGの課題の解決に貢献していきたいと考えております。
化学の役割と貢献をc-LCAの方法で明らかにする場合、貢献量についての数字の算出方法を透明化することにより、社会からの信頼性を高めることの重要性を以前より感じておりました。そこで日化協では、c-LCAでのGHG排出削減貢献量を算定するガイドラインを策定することを検討し、昨年の3月に結果を公表しました。特に、算出方法の透明性を高めることに注力致しました。
このガイドラインの策定活動は、LCA日本フォーラムから高い評価を受け、昨年12月には、「第9回LCA日本フォーラム表彰」において、「経済産業省産業技術環境局長賞」を頂きました。この表彰はLCA手法を広く普及定着させ、エネルギーやGHGの環境効率を高めて産業発展に貢献することを目的にしています。