第9回 日本化学工業協会 技術委員会 委員長/三井化学株式会社 取締役 常務執行役員 生産・技術本部長 竹本元氏

環境問題のソリューション・プロバイダーとしての化学の使命


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 第9回目にご登場いただくのは、日本化学工業協会 技術委員会 委員長/三井化学株式会社 取締役 常務執行役員 生産・技術本部長の竹本元氏です。化学産業が、地球温暖化対策やエネルギー問題に対してどのような戦略を立てているのか、率直なお話を伺いました。

化学産業はほぼすべての産業に製品を提供。人類は10万種類の化学物質を利用

――はじめに化学産業の特徴、またエネルギーへのかかわりについてお聞かせください。

竹本元氏(以下敬称略):化学産業は、世間一般の方からは、なかなか分かりにくい産業とよく言われます。化学というのが一般の人は苦手でわかりにくいというのが一つと、化学は他の産業と違い、製品の名前を冠していません。化学製品が最終製品になっているものもありますが、最終製品の素材として用いられる製品が多く、直接目に触れにくいことと、種類の多いこと、化学反応を取り扱っているので物質の変化をともなっており、変幻自在のところがあるからではないかと思っております。

 しかし、例えば自動車に磁石を持って乗ってみると、車内で磁石にくっつく物はほとんどないですよね。あれは全部化学製品だからです。化学製品をそのまま一般消費者に使っていただくこともありますが、いろんな素材を提供しており、化学製品を使っていない商品はほとんど見当たらないと思います。実際に、化学産業はほぼすべての産業に製品を提供しており、人類は10万種類の化学物質を利用しているといわれています。

竹本元(たけもと・げん)氏。1974年広島大学理学部化学科卒業後、同年三井石油化学工業(株)入社。 2005年6月MITSUI PHENOL SINGAPORE 社長兼Mitsui Bisphenol Singapore社長、07年4月執行役員市原工場長、09年10月常務執行役員 基礎化学品事業本部副本部長、2012年4月取締役 常務執行役員 生産・技術本部長、2012年5月日本化学工業協会技術委員会委員長。

――経済規模的にもかなり大きいのではないでしょうか?

竹本:そうですね。化学工業にプラスチックス製品とゴム製品工業を加えますと、日本の年間の出荷ベースでは2010年で40兆円になります。この額は電子電気工業の31兆円、鉄鋼業の18兆円よりも大きく、輸送用機械工業の54兆円に次ぐ、2番目に大きい産業です。製品の数が多く、規模も大きな産業というのが特徴です。

 エネルギーや環境との関わりで申しますと、化学はもともと原料の大半を化石資源に依存しており、それを加工する過程でも燃料として化石資源を使用していることになりますが、出てきた製品そのものは、今度はそうしたエネルギーをセーブし、消費を削減するために役立つ商品だと思います。実際、化学製品は多くの産業で、エネルギー効率を向上させる要の素材として、また再生可能エネルギー製造用の要の素材として使用されております。このような使用は、GHG削減に直接結びついており、化学製品は、エネルギーの効率化と、「気候変動」の「緩和」と「適応」にも大きな貢献をしていまます。

「レスポンシブルケア」活動から始まった化学産業の国際的な取り組み

――国際的にどのような取り組みをされているのでしょうか?

竹本:我々は日本化学工業協会に所属していますが、世界レベルで見ますと、1989年に設立した国際化学工業協会協議会(略称ICCA)は現在55カ国もの化学工業協会が参加している大きな協会です。これが世界的な課題に積極的に取り組んでいまして、「レスポンシブルケア」活動からスタートしました。

 「レスポンシブルケア」活動は、環境・安全・健康確保を達成するため、企業が自主的に取り組んで、その成果を自ら公表する仕組みにより、産業全体として大きな成果を挙げ、国連からも賞賛されている活動です。現在、ICCAは、引き続きレスポンシブルケア活動に参加する国と協会の数を拡大することを目指しています。

――何か具体例をお聞かせいただけますか?

竹本:昨年2012年6月に、1992年にリオで開催されたリオ地球サミットの20周年を記念して、「国連持続可能な開発会議」(「リオ+20」)が開催され、そこにICCAも会議に参画しました。「持続可能な経済を構築し、より環境に配慮した開発を推進する」という「リオ+20」の課題に対して、ICCAは化学産業は、環境問題のソリューション・プロバイダーとして、これから先、重要な役割を果たしていくことを表明しました。これは化学産業が、これまでに実績をもち、将来への大きな可能性を持つ産業として、環境問題に取り組むことを国際的に表明したことになります。我々は、ほとんどの産業に素材として提供しており、大きな貢献ができると自負しています。

――化学産業がソリューション・プロバイダーとしての役目を果たしていくわけですね。

竹本:国際的にはICCAの取組みは二つあり、一つは「エネルギーと気候変動の問題」、もう一つは「化学品の管理」という二つの国際的課題に重点を置いて取り組んでいます。「エネルギーと気候変動」の課題についてのソリューションプロバイダーの役目を着実に果たすために、主に3つの方針を掲げています。ひとつは、自らの産業のエネルギー効率を改善し、GHG排出の効率も改善していくことです。次に、他産業や人々の生活でのエネルギー効率の向上とGHGの排出量の低減に貢献すること、3つ目には、エネルギーと気候変動の課題に国連機関や各国政府またさまざまな国際組織と連携し協力して取り組むことです。

 ICCAは国連・OECD・WTOあるいはIEAといった国際機関と連携して課題に取り組んでいます。日本化学工業協会はICCAの基幹メンバーとして重要な役割を担っており、技術委員会のメンバー会社や事務局は、ICCAのエネルギーと気候変動についての活動に積極的に参画し貢献しております。

イノベーションの中心技術を担うのが化学産業の素材と技術

――長期的な視野でのエネルギーと気候変動問題への貢献が期待されているのではないでしょうか。

竹本:国連が謳う「持続可能な開発」を実現するには、エネルギーが地球全体にわたって確実に供給されなければなりませんが、世界のエネルギーの需要は今後の数十年間で急激に増加すると予想されています。 

 今後、エネルギーを確実に供給するには、再生可能エネルギーを導入していくこと、エネルギーの消費を大幅に改善すること、そして資源に限りがある非再生型の化石資源を最も効率的に使用するというエネルギー戦略が重要になります。化学産業は、この戦略を実現する上で重要な役割を果たしていますが、化学産業の役割はこれからもっと大きくなっていくものと考えています。 

 風力や太陽光、燃料電池、新型車量技術など新しいエネルギー技術において、化学製品が決定的な役割をしております。これからは新エネルギー技術を、さらに低価格で大規模に展開する必要がありますが、これには技術イノベーションが必要です。イノベーションの中心技術を担うのが化学産業の作り出す素材と技術であると考えています。
 
 エネルギーの消費の改善については、世界の化学産業は、軽量自動車、軽量航空機、エネルギー効率の高い窓、リチュウムイオン電池、バイオ燃料、新規なソーラーパネル等々のありとあらゆる分野でエネルギー効率改善の技術開発を実現し、すでに貢献しており、将来についても、エネルギー削減及びGHG削減への貢献について化学産業への期待が極めて大きくなっています。この貢献の量をICCAは、c-LCAという方法により数値化し公表致しております。

c-LCAの考え方に基づく化学産業の貢献量

――c-LCAは、従来の評価とはどう違うのでしょうか?

竹本:従来は、製品そのものの生産についての排出量で規制を行うことが中心でしたが、この方法ですと、削減のために必要な製品の生産にも支障をきたし、社会全体の排出量を削減するには問題がありました。例えば、住宅に化学製品の断熱材を用いた際、原料の石油からの製造工程でGHGを排出していますが、できたものは住宅の断熱材になる。住宅は何十年か持ちます。その時にこの断熱材を用いない場合と比べるとどれだけGHGがセーブできるのか、そうするとGHGの全体が見えてきます。

 c-LCAは、エネルギーやGHGについての評価を行う際、その商品を製造過程だけではなくて、原料・製造・使用・廃棄のライフサイクル全体「ゆりかごから墓場まで」を通じてどれだけ社会に貢献できる商品なのか、あるいは社会にとってマイナスなのかも含めて評価できるのではないかと思います。

――実際の化学産業の貢献量、また削減活動の結果はいかがですか?

竹本:このc-LCAの考えに基づき、ICCAは、化学の貢献についてマッキンゼー・アンド・カンパニーに研究を委託いたしました。 製品を作る際にはGHGを排出しますが、断熱材や照明等の化学製品を積極的にエネルギー削減に用いると、その後はGHG削減に貢献します。2005年ベースで実際の排出量の2倍量をセーブしています。逆に言えば、製造過程では排出しても、その後のセーブ量の方が大きいのが2005年ベースの貢献量です。

 マッキンゼーの報告・研究では、2030年ベースではGHG排出の大幅削減が可能で、3倍から4倍の削減貢献ができることがわかりました。温暖化防止に対しては、かなりこれから期待されている産業だと思います。

日本がガイドラインを策定し、c-LCAによる数値の透明性を高める

――日本化学工業協会は、エネルギーと気候変動に対してどのような取り組みをされていますか?

竹本:日本化学工業協会(日化協)は、約180の当社のような企業会員と約80の団体会員によって構成しております。エネルギーとGHG削減については、経団連の環境自主行動計画に参画して取り組むとともに、社会に化学産業の貢献が理解され信頼を得られるように努めており、会員企業の製品と技術の提供を通じて、エネルギーやGHGの課題の解決に貢献していきたいと考えております。

 化学の役割と貢献をc-LCAの方法で明らかにする場合、貢献量についての数字の算出方法を透明化することにより、社会からの信頼性を高めることの重要性を以前より感じておりました。そこで日化協では、c-LCAでのGHG排出削減貢献量を算定するガイドラインを策定することを検討し、昨年の3月に結果を公表しました。特に、算出方法の透明性を高めることに注力致しました。

 このガイドラインの策定活動は、LCA日本フォーラムから高い評価を受け、昨年12月には、「第9回LCA日本フォーラム表彰」において、「経済産業省産業技術環境局長賞」を頂きました。この表彰はLCA手法を広く普及定着させ、エネルギーやGHGの環境効率を高めて産業発展に貢献することを目的にしています。

――c-LCA手法は、社会からの信頼性を高めそうですね。

竹本:c-LCAで評価して将来の産業のあり方や貢献製品をどう生み出していくかなどいろいろな切り口があると思いますが、さまざまな形で社会に役立ていきたいと思います。あるいは、一つの単品の製品ではなく工場全体、あるいは化学産業全体としてどのくらい貢献できているかという数値化がこれから大事になってくるのではないでしょうか。
 
 現在ICCAではこの日本発のc-LCAに基づく貢献量の算出ガイドラインについて、現在、国際的なガイドラインの策定作業を行っていますが、世界レベルでどういうふうに表現してくかということについても、日化協が大きく貢献していけると思います。今、世界でのリーダーシップが取れているところです。この物差しで化学産業の貢献量をしっかり世の中にアピールしながら、化学の良い面を表に出していかなければと思っています。

――数字の透明化ができるのは、大きなメリットですね。

竹本:はい。数字の透明化ということでは、エネルギーデータの取り扱いについても整理をしたいと思っています。日化協では、エネルギーデータを集約し、自主行動計画の進捗を検証し、産業自らのエネルギーの効率化を進めています。実は化学製品は重さや容積、単位面積で、一律に評価しにくいのです。基準製品を決めて、基準製品あたりこれだけだとか、そういう形で表現しながら、将来の技術開発や化学製品の普及も含めて透明にして取り組んでやっていくというのがこれからの方向だと思います。
 このような多様な製品構成を持つ化学では、エネルギー原単位挙動を工場全体としてあるいは工業会全体で把握するには、「基準製品換算方式」という方法を用いています。

 多種多様な製品を扱うのに非常に合理的で便利な方法ですが、数字の透明性を増すために、算出の基礎についての説明書を作成したいと考えています。さらにこの値を用いて、経済動向とエネルギーの原単位の関係を解析できるように理論化を進め、エネルギーの取り扱いがより透明になり、より強い信頼を受けるようにしていきたいと思っております。

――GHG削減の実績は、どのような状況ですか?

竹本:実績としては、1997年から経団連の環境自主行動計画に基づいて省エネルギー、つまり自分で製造する際のエネルギー使用量を削減してきましたが、97年~2011年までで本計画に参加する化学企業の総エネルギー削減の為の投資額は5408億円に上ります。その結果、エネルギーの削減効果が原油換算461万klにつみあがっております。2011年の化学産業の原油の総使用量も2569万klですので、18%のセーブができています。かなり大きく削減できているのではないでしょうか。

 また、日化協は、日本の化学製品のGHG削減への貢献を数字で明らかにしてきています。ICCAのところでお話しましたc-LCAの方法で計算した8品目(太陽光発電、風力発電、自動車、航空機、LED電球、住宅用断熱材、ホール素子、配管材料)と海水淡水化プラントの合計9つの品目を例としてあげます。

 8品目のGHGの排出が2020年ベースで4.8Mtですが、これに対して断熱材などの化学製品によってもたらされるGHGの削減効果の貢献量が112Mtですから、これらの日本の製品品目で貢献量の多いものについては、23倍の貢献量になります。例えば、航空機の場合は炭素繊維により軽量化に貢献しています。

――23倍ですか。すごいですね!

竹本:8品目で112Mtですが、日本発の新規な半透膜を用いた海水淡水化プラントでは、世界全体でGHG 117Mtの削減に貢献しています。公表した内容は、用いたデータや統計データについて詳しく解説し、具体的な化学産業の貢献が数字の上で分かってもらえるようになっています。化学製品の問題解決の力が実感いただけるでしょう。尚、日化協では製品の品目を増やした研究を続けておりまして、これから品目を増やした結果について、下記の冊子で新たに説明を始めていこうと考えております。

(ご参照;日本化学工業協会 2012年12月刊行、『温室効果ガス削減に向けた新たな視点:国内および世界における化学製品のライフサイクル評価』

触媒技術、効率の高いビルディング技術、バイオ技術によりGHG削減

――化学産業が力を入れている技術のロードマップはどのようなものですか?

竹本:ICCAは今、今後の全世界のエネルギー消費とGHG排出削減にむけた取り組みの方法を検討するため、化学産業に関連の深い3つのGHG削減技術についてロードマップの策定を行っています。国際エネルギー機関や米国のSRIやドイツのDEHEMA等とともに作業しています。

 その1つは触媒技術で、新しい触媒技術を開発をして、エネルギー効率を上げていくということ。化学製品における製造過程のGHGを減らしていくため、ロードマップ策定に取り掛かっています。このロードマップは、化学産業自体のエネルギー削減のロードマップになります。

 2番目はエネルギー効率の高いビルディング技術です。化学製品を積極的に、断熱材や窓枠等に使用することにより、ビルのエネルギー消費を驚くほどの削減ができることを示しました。ビルの断熱材や窓枠からの放熱などを下げることにより、かなり高効率が達成できるロードマップになっています。昨年のCOP18のICCAのイベント会場でこのロードマップを世界の政策責任者に説明しましたが、高い評価を得ています。

 3番目はバイオ技術です。ICCAは、バイオ技術での化学の役割をSRIと共同で取りまとめ、その結果をIEAで議論し、輸送用バイオ燃料とバイオエネルギーのロードマップ策定作業に貢献しました。ロードマップのビジョンの達成に化学産業が重要な役割を果たすことがIEA発行の技術ロードマップレポートでも明らかになりました。

――化学産業自らのエネルギー消費対策はいかがですか?

竹本:化学産業自らのエネルギー消費やGHG削減を進めていくことも大きな方針になっています。化学産業の成果を述べます。ヨーロッパでは、1990年に比較してCO2を49%削減しています。日本では、エネルギー効率を16%改善し、GHGを17%削減しています。米国ではGHGを16%下げています。米国は化学産業の生産が39%増加していますので、GHG効率でいえば、実に39%の改善をしています。このように、化学産業はICCAを旗振り役として、世界で自らのエネルギー効率の改善に成果を挙げております。

三井化学のエネルギーと気候変動問題への取り組みや技術開発

――三井化学としてのエネルギーと気候変動問題への取組みについて伺えますか?

竹本:三井化学も、昨年の6月まではICCAの中で『エネルギーと気候変動』についての政策策定グループのリーダーとして、ロードマップ策定やc-LCAによるGHG排出評価のガイドラインの策定や取りまとめに尽力しました。昨年の6月に三菱化学にバトンタッチいたしましたが、国際的にも貢献を果たしてまいりました。

 三井化学としては、2007年に経営の基本的な骨格の中で、地球環境の課題に取り組むことを決めております。「経済軸・社会軸・環境軸」この3軸のしっかりバランスの取れた経営をすることとして、目標を定めています。環境軸では、生産での環境負荷を低減することと同時に、地球環境課題に貢献する製品を積極的に提供することを目標としております。 

――三井化学の省エネ対策はいかがですか?

竹本:温室効果ガスの削減も中期的な目標を立てており、エネルギー削減の成果としては直近の5年間で生産に用いるエネルギーを絶対量で20%程度削減できました。リーマンショック等もあって稼働が若干下がった部分もありますが、省エネルギー活動を徹底的に行った成果と考えております。

 90年をベースで比較すると、エネルギー原単位指数という方法がありますが、エネルギー原単位として、例えばあるプラントが2つできたら実際には排出量が倍になりますので、絶対量の比較と言うのは技術の改善を表すのにあまり適切ではないと思います。1つの製品単位当たりどれだけエネルギーを使っているのかという指数、原単位指数を90年比で見ますと、13%程度改善して、90年に比べて87%になりました。

――13%の削減は大きいですね。

竹本:省エネルギーに向けて、当社の得意技術である触媒技術を駆使して、例えば、一つはアクリルアマイドの生産では従来は銅触媒を使っていましたが、バイオの触媒に切り替えて、かなり運転条件も穏和になり、大きな省エネ効果を生んでいます。このバイオ法はすでに海外でライセンスもしており、エネルギー削減技術として、これからも世界に貢献していけるものと考えています。また画期的な触媒で、新規のエチレン3量化技術プロセスを稼動し、これも千葉県市原地区で商業化しており、エネルギー原単位を大幅に改善しております。

――さまざまな技術と工夫で省エネがさらに向上したわけですね。

竹本:そうですね。我々一つの企業で実際にエネルギーを削減していくことは、昭和48年の一次オイルショック以降相当注力してきていますが、一企業でやっていくにはそろそろ限界が見えてきています。近年はコンビナートに隣接する業種を超えた他社工場と連携しながらエネルギーをセーブしていく取り組みが重要になってきています。

 例えば他の企業で余った熱や物質が、我々にとって有用であれば連携するという仕組みです。市原地区のコンビナートでは隣接の石油精製を含めた3つの企業で連携し、化石資源の消費効率を上げています。また石油精製会社と連携して、共同使用設備を設置することにより、原油処理の効率向上を行っています。市原地区では、電力会社とコージェネレーションで発電と蒸気を発生する設備をつくり、エネルギー効率を上げていくという地域連携をやっています。

――地域連携がキーワードですね。

竹本:そうです。大阪のコンビナートにある私どものエチレンプラントのプロセスではかなりの冷熱が必要になります。一方、近隣のガス会社では、天然ガスを蒸発させて民生用にガス化するために冷熱が発生します。その冷熱は海水で海に逃がしていたのですが、それを私どもに供給してもらい、両者WIN・WINの関係でやることにしました。これにより原油換算で、1万3千kℓほど年間セーブできます。この取り組みは、省エネルギーセンター主催、経済産業省後援の平成23年度「省エネ大賞」表彰において「経済産業大臣賞」をガス会社と共同で頂き、私も表彰していただきました。今後もこうした地域連携は重要です。

――三井化学は再生可能エネルギー分野では、どのような開発をされていますか?

竹本:再生可能エネルギーは、未だ高コストという問題があり、低コスト化と量産についての技術開発が必要です。この技術開発の中核技術は化学が担うものと考えています。三井化学は、太陽電池の封止シート「ソーラーエバ」、太陽電池用の接着剤、また風力発電機に用いる潤滑油添加剤「ルーカント」等の製品を供給しています。

 本年、三井化学は太陽光・風力発電に技術と実績を持つ7社の共同で国内最大級のメガソーラー及び風力発電事業を行うことを決めました。発電能力は太陽光50MW、風力6MWで、約80万平米の敷地規模になります。技術情報を7社で共有し、再生可能エネルギーの技術課題に取り組み再生可能エネルギーの開発を促進していきたいと考えています。

――化学製品が技術革新の要ですね。

竹本:再生可能エネルギー分野において、太陽光の発電効率を上げる、また風力をどう活かしていくかについては、化学の素材の果たすべき役割は非常に大きいと思います。

原発を含めた多様なエネルギー源を用いたエネルギーの安定供給を望む

――安倍政権が発足しましたが、今後の政府に対してのエネルギー政策に対する期待、また化学産業としての見解はいかがですか?

竹本:3.11が起こる前までは、原発を推進してGHGガスを削減していくことがエネルギー戦略でしたが、3.11以降、旧政権でエネルギーミックスのあり方が活発に議論され、昨年9月14日には旧政権のエネルギー・環境会議では2030年代に向けて原発ゼロ社会を目指すという革新的エネルギー・環境戦略をとりまとめました。しかし、これは新政権では見直しを行うことが伝えられていますので、今後のエネルギー政策の見直しがどのようになるか注目しております。

 日本化学工業協会は日本が置かれている現状からみて、原発を2030年ベースで、あるいは将来的にゼロにすることは日本化学工業協会としては反対の立場です。

――主な理由は何ですか?

竹本:原発をなくすと、火力発電と再生可能エネルギーでエネルギーを賄っていくことになります。日本には資源がなく、エネルギー源の大部分を国外資源に依存しておりますので、火力発電には国際的な地政学リスクによる原料供給停止のリスクと海外からの原料調達難のリスクがあります。原子力発電をゼロとするならば、リスク対応策の重要な柱を失うことになります。火力用の原料調達においては、安価調達がより困難になることになります。エネルギーの安全保障、またコストという意味でも、かなり厳しいことになってまいります。

 再生可能エネルギーは、コストが高く、導入する場合も別の安定したエネルギー源によって不足時に応援を受けることが必要になるので、自ずと電力源としての限界があります。エネルギーの安定供給がなければ、産業は安全で安定した操業が阻まれるので、化学製品の国内生産を難しくしていきます。

 また、エネルギーのコストアップは、国内生産の競争力を喪失させてしまいます。海外への生産移転あるいは操業の中止を余儀なくされれば、技術流出や雇用の減少が生じ、国内の産業は脆弱化し、日本経済は大きなダメージを受けることになります。原発を含む多様なエネルギー源を用いることが安定した操業に必要と考えております。

――しかし現在、原発の再稼働は難しい状況です。

竹本:今、原発が1つしか動いていませんが、おかげで日本の電力料金が非常に上がっています。国際的に見ても電気料金はかなり高いわけです。化学だけじゃなく、日本の産業全体がかなりのコスト負担を強いられている形になっています。

 そのような中で今、日本の6重苦7重苦と言われている中の大きな一つとしてエネルギーの問題がありますが、やはり海外に出て行くしかなくなってくる。そうすると日本の空洞化、産業の空洞化が起こり、雇用も技術も外に出て行ってしまい、日本の経済のバランスという意味でもかなり問題だろうと考えています。将来的なエネルギー政策は新政権で真剣に考えてほしいと思いますが、そういう経済的な切り口、あるいは環境の切り口を加味した上で実現可能なロードマップをしっかり描いて欲しいと思います。

省エネと再エネの技術開発体制構築の必要性

竹本:今後のエネルギー問題を考えていく上で、我々は省エネルギーと再生可能エネルギーの技術開発体制を構築する必要性を訴えています。もちろん再生可能エネルギーは、まだまだコストが高いですが、技術開発いかんではコストをどんどん下げていけるかと思いますので、このイノベーション実現の上で、化学産業の先端素材の果たす役割はかなり大きいでしょう。

 ただ先端素材の開発から量産化までには険しい道のりがあり、この研究開発の促進のためには相当な資源投入が必要になってきます。また、再生可能エネルギーの新技術のための製品の安定生産のためにも、再生可能エネルギーの将来の普及を見据えて、日本のエネルギーのコストの低減と安定供給を実現する政策がとられるべきものと考えております。

 エネルギーの安全保障体制を確保し、先端技術の開発と工業化を促進する政策が必要です。その実現については、政府はエネルギー政策と環境政策更に経済政策を総合的に丁寧に検討し、すなわち地球温暖化対策・化石燃料の原料調達・研究開発体制の構築・国内外の技術的課題・同じく経済的課題を総合的に整理して、具体的で実現可能なロードマップとして策定し、政策の全体像を明示することが必要です。また計画の遂行については、エネルギーの需給見通しは国内外の情勢や技術開発の進展動向により大きな影響を受けることを認識して、政策を不断に見直せる体制とすることも必要だと考えています。

2013年以降も「低炭素社会実行計画」に参画

――最後にこれからの化学産業の活動についてお聞かせください。

竹本:環境自主行動計画は経団連が進め、それに参画して今までやってきたわけですが、2012年度で終了します。そこで終わったということではなくて、今度は新しくまた目標を掲げ、化学産業は手綱を緩めることなく「低炭素社会実行計画」に参画し、エネルギー効率を改善することにより、さらに温暖化ガスを削減していくことに貢献していきたいと思います。

 化学産業の製品はありとあらゆる産業に製品を供給している意味で、産業のもとになる産業ですので、マザー産業と言われています。化学産業の役割は温暖化防止に向けてはソリューション・プロバイダーとしてしっかりやっていくということだと思います。化学産業は現在もエネルギー効率の向上とGHG排出削減に製品を通じて大きな貢献をしていますが、将来はさらに貢献が大きくなるでしょう。

 日化協としてはICCAに貢献しながら、協調しながら、国際的にしっかり化学産業の果たすべき役割を明示しつつ、貢献量あるいは化学製品の効果といったものをしっかり皆さんに広めていきたいと思います。

【インタビュー後記】
 あらゆる産業に素材を提供している化学産業。化学産業がエネルギーと気候変動問題にどのように貢献していくのか、竹本さんは具体例を豊富にあげてお話くださいました。エネルギー多消費産業と見られがちですが、実は製品化される多種多様なものが、製造時にかかるエネルギー消費に比べて、大きくGHG排出削減に貢献していることを、c-LCAの考えにのっとり分かりやすく説明いただきました。これはある意味、「ものの見方」についてはっと考えさせられました。何事もぱっと見た目だけで判断したり、断片的に見て判断するのは正しくないことなのだと。数字の透明度を高めてライフサイクルで製品を評価していくc-LCAが今後ますます重要になるのは間違いありません。イノベーションの中核技術を担う化学産業の今後の取り組みに注目していきたいと思います!

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