第6話(3の2)「ポスト『リオ・京都体制』を目指して(1)」


在ウィーン国際機関日本政府代表部 公使

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(4)日本の「課題」
 翻って、日本はどうであろうか。

(「日本問題」は存在しない。)
 敢えて言えば、「日本問題」なるものは存在しない。少なくとも、前述の「米国問題」「中国・インド問題」「欧州問題」と同じ次元で、日本がグローバルな国際枠組み構築にとって障害となることは、基本的に無い。日本は、米、中印、欧州という全ての主要プレーヤーが受け入れられる合意であれば、基本的に受け入れられる。
 例えば、今後のあり得べき一つのシナリオとして、米国と中印が国際枠組みについて何らかの合意に至ったとする。そのような合意に日本が(米国と同等の義務を負う形で)入ることは何の問題もない。後は、そのような合意が現行の京都議定書との比較で欧州にとって受け入れられるかどうかという問題になる。ダーバン・プラットフォームを設定したCOP17後の交渉は、このような進展になる可能性がある。
 もう一つのシナリオは、(可能性は低いが)米国が京都議定書回帰に方向転換して欧州と足並みを揃え、中印に対しても、何らかの義務を負うように迫るケースである。そのような動きに日本が米欧と同等の義務を負う形で足並みをそろえることも問題はない。あとは中印等がどう判断するかという問題になる。COP15の前の2009年4月に日本政府があり得べき将来枠組みとして新議定書案を国連事務局に提案したのは、まさにこうした形である。
 日本の立場は、かなり柔軟なのである。日本が受け入れられないのは、第3のシナリオ、すなわち米中印などの主要排出国が義務を負わないという状況に目をつぶり、日欧など一部の国々のみが義務を負う場合のみである。それは、前述の「米国問題」「中印問題」に目をつぶり、「欧州問題」を助長させることに他ならない。これが京都議定書「延長」の最大の問題点なのである。COP16でこの点を巡って日本の対応が注目を浴びたものの、これは「日本問題」ではなく、日本の主張が「米国問題」、「中印問題」、「欧州問題」をクローズアップさせたに過ぎない。

 高村ゆかり氏は、国際交渉で取り上げられている気候変動の国際枠組みの法的形式のオプションとして4つ示している(図表6-3~6-6)。前述の第1のシナリオはオプションD,第2のシナリオはオプションA,第3のシナリオはオプションB,Cに概ね相当する。オプションA,Dの場合、日本はいずれでも受入れ可能であるが、オプションB,Cはいずれも受入れ不可である。京都議定書とCOP決定を並立させるオプションCは二つの法形式がバランスがとれているとは到底言えない。また、京都議定書と新議定書を並立させるオプションBについては、同レベルの法形式なら二本立てにする必要はなく、オプションAと同様に一本化できない理由はない。逆に、一本化できない内容であれば同レベルの法形式とは言えないであろう。そもそも、枠組条約上同じ先進国である日・欧と米国を異なる法的枠組みの下で律する合理性は全くないと言わざるを得ない。

図表6-3
図表6-4
図表6-5
図表6-6

 もっとも、COP17で京都議定書「延長」に向けた決定がなされた今、直ちにオプションA,Dになる可能性はもはやない。2013年以降しばらくの間は、図表6-7のようなオプションE、すなわち、EU他一部の国が京都議定書「延長」を受入れ、並行して、新たな法的枠組みの構築に向けた検討がなされる状況が見込まれる。

図表6-7 
出典:オプションA~Dは高村ゆかり「気候変動レジームを巡る諸理論」(pp72-73「気候変動と国際協調」亀山康子、高村ゆかり編)より引用。オプションEは筆者作成