国連気候変動枠組み交渉の転換点
-京都議定書型枠組みの限界と今後の方向性-
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
温室効果ガス排出制限は経済発展の制限に通じる
このように、国連気候変動交渉の裏側には各国の思惑が渦巻いており、これを「地球温暖化問題の解決に向けて世界各国が話し合う場」と認識していると、会議場でのやりとりはほとんど理解することができない。温室効果ガス抑制は、すなわち化石エネルギーを消費し経済発展をする権利を制限することであるため、国益をかけたぶつかり合いの場となる。温室効果ガスを抑制しつつ経済成長をすることも可能だという主張もあるが、そうした「グリーン成長」は非常に困難であることを示したデータがあるので紹介したい。
経済協力開発機構(OECD)各国の1990年、1995年、2000年、2005年(いずれも前後5年間の平均値)における国内総生産(GDP)成長率と電力消費量の関係をプロットしたグラフ(図2)だ。これを見ると過去経済成長しながら電力消費量を削減できたのは、1990年(5年平均)のドイツくらいしかないことがわかる。このことで「ドイツは電力消費量を減らしながら経済発展に成功した」といわれることがあるが、東西ドイツ統合の影響による「特殊事例」ととらえるのが妥当だろう。歴史的な事実としては、経済発展すれば電力消費量は増え、原子力発電や再生可能エネルギーの導入量により幅はあるものの温室効果ガス排出量も増えるのが一般的だといえる。そのため、温室効果ガス排出量をトップダウンで制限しようとすれば、成長制約要因の押し付け合いの様相を呈するのだ。
今や世界一の温室効果ガス排出国となった中国、インドなど新興国が「(先進国と途上国の)共通だが差異ある責任( Common but Differentiated
Responsibilities)」を主張し、自国が排出削減の法的義務を負うことを受容しない理由はここにある。京都議定書の一番の問題点である温暖化対策としての実効性、カバー率の低さを解消するには、新興国を中心に、法的削減義務を負う国を増やすことが必要だが、それを交渉によって実現していくことは、今の国連交渉を見る限り非常に難しいと言わざるを得ない。