国連気候変動枠組み交渉の転換点

-京都議定書型枠組みの限界と今後の方向性-


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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COP17までの成果とポスト京都のあるべき姿

 温暖化対策の国際交渉が混迷する中、世界のCO2排出量は2011年、過去最高を記録した(*3)。京都議定書の第1約束期間の経験を通じて世界が学んだことは、一部参加国に法的削減義務を課すトップダウン方式の限界、そして、技術・ビジネスの観点を取り込むことの重要性と言えるだろう。
 ポスト京都といわれる2020年以降の枠組みはどうあるべきか。COP15は失敗と評される向きもあるが、ボトムアップ・アプローチという新たなスキームへの転換点として大きな意義があった。京都議定書のカバー率は26%に過ぎないが、コペンハーゲン合意では、米・中を含む先進国・途上国が設定・登録した自主的目標によるカバー率は85%にもなった。
 しかし位置づけの不確かな将来枠組みしか描けなかったことで、COP15 後は再び京都議定書「延長」が焦点となったが、COP16では、コペンハーゲン合意を進化させたカンクン合意を国連の正式文書に位置づけることに成功した。

 この流れを受けたCOP17では、
① 全ての国に適用される法的文書の作成に向けた道筋(ダーバン・プラットフォーム特別作業部会の設置)
② 京都議定書第2約束期間に向けた合意の採択
③ 「緑の気候基金」の基本設計合意
④ カンクン合意実施のための一連の決定
という成果をみた。重要な事項はすべて先送りされているとの批判も聞かれるが、「全ての国に適用される」という文言が入った将来枠組みの設定、カンクン合意の着実な実施など、あるべき要素は盛り込まれており、また、数年来主張してきた通り日本(及びロシア、カナダ)が京都議定書第2約束期間に参加しないことは各国に改めて認知された。
 温暖化国際交渉の趨勢は既にボトムアップ・アプローチに軸足を移している。少なくとも、次なる法的拘束力のある枠組みができるまでの有効な温暖化対策として、期待は高い。ボトムアップ・アプローチのネックは強制力の弱さだ。しかし、トップダウンの数値目標設定に拘っていては取り組みそのものが始まらない。世界全体で見て実効性ある温室効果ガス削減を始めることが重要だ。そして、それを可能にするのは民間の技術力であり、ビジネスベースでの高効率技術の移転が促進される仕組みを入れ込むことが最重要事項だと筆者は考える。
 日本には世界に冠たる省エネ技術がある。9月25日に公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)が発表したレポート(*4)で、日本の鉄鋼業は世界一のエネルギー効率を誇ることが改めて明らかになった。こうした技術の普及拡大を促進する仕組みとして、日本が提唱する2国間オフセット・クレジット制度には大きな期待が寄せられている。粘り強い提案とフィージビリティスタディの進展などにより、今年になって国際的認知度が向上しているという。政府も来年度からインドネシア、ベトナムなど政府間協議が進展している国を中心にモデル事業支援に乗り出す方針を打ち出し、10月8日にはインドネシアと日本の閣僚級対話により、来年4月から2国間クレジット制度の運用を開始することを目指す旨の合意が得られたという(*5)。実績を積み上げ、柔軟でビジネスの実態に即した、実効性あるスキームが確立されることを期待する。
 国連気候変動交渉でも、実際の技術移転とその資金的支援を行う重要性は認識されており、「CTC&N(Climate Technology  Center & Network)」と「緑の気候基金(Green Climate Fund)」の設立準備が進められている。こうした制度が実効性を伴うものになるような提案こそが、日本に求められる貢献だと言えるだろう。

<参考文献>
*1:2012年7月20日日本経済新聞夕刊
*2:ドイツ シュピーゲル誌
http://www.spiegel.de/international/europe/europe-looks-to-fix-problems-with-its-carbon-emissions-trading-system-a-863609.html
*3:IEA 2012年5月24日
http://www.iea.org/newsroomandevents/news/2012/may/name,27216,en.html
*4:日本鉄鋼連盟HP
http://www.jisf.or.jp/news/topics/120925.html
*5:経済産業省HP
http://www.meti.go.jp/press/2012/10/20121010002/20121010002-1.pdf
*電力中央研究所研究報告書(上野貴弘)
http://criepi.denken.or.jp/jp/kenkikaku/report/detail/Y09007.html

月刊ビジネスアイ エネコ12月号より転載。

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