架空の財布の紐は緩い~経済影響を実感として理解する~

電気料金上昇の本当の影響を考える


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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 以前、尾瀬の自然保護活動に関して「仮想評価法(CVM)」という手法を使ってその価値の計測を試みたことがある。ハイカーが押し寄せて自然が荒廃した1960年代の尾瀬の写真と、保護活動により回復した現在の尾瀬の写真を2つ提示し、尾瀬の美しい自然価値に対して自分が支払ってもいいと考える評価額(支払い意思額)を聞いたものだ。回答のなかには驚くほど高額の回答もあり、平均すると年間で1人1000円超となった。担当者としては、尾瀬の自然に高い価値を感じてくださっていることを嬉しく思うと同時に、その場で自分が支払うわけではない「架空の財布の紐」は緩いのだとも感じた。

 想定される将来の経済的影響を、事前に実感を伴って理解することは難しい。ましてや、その影響を表現する言葉が抽象的であればなおさらだ。政策の妥当性を論じる際よく使われる「経済に深刻な影響を与えかねない」といった曖昧な表現では、どこか遠い世界の出来事のように聞こえてしまう。正しい議論をするためには、その政策が私たちの実生活にどのような・どれほどの影響を与えるのか、できうる限り具体的かつ定量的な予測が提示されるべきである。

燃料費は電気代として跳ね返る

 福島第一原子力発電所の事故以降、全国の多くの原子力発電所が稼働できなくなっている。2月20日、関西電力高浜3号機が定期検査に入り、全国54基の原子力発電所のうち、3月14日時点で稼働しているのは2基のみである。

 その代替として火力発電所を稼働させれば、燃料費が余計にかかるのは当然の道理だ。2011年7月29日に開かれた政府のエネルギー・環境会議で示された試算によると、今後原子力発電を火力発電で代替し続けるとしたら、毎年3兆1600億円の国富が、海外に流出するとのことである(2009年に日本で原子力により発電された電力量2745億kW時に、火力はLNGと石油の平均12.5円/kW時、原子力は1円/kW時を乗じて計算)。

 今後、円安と原油高が進めば、その金額はさらに膨らむことになる。電力会社の経営努力は当然だが、例えば電力会社全体の人件費を総計しても約1兆円しかなく、仮に電力会社の社員が無給で働いたとしても上記に試算される燃料代の増加分はとても吸収できない。もちろん経営努力は人件費の部分だけではないだろうが、発電し送電し配電するという事業を続けるにおいて、コストはゼロにはできない。燃料費は電気代として、最終的には利用者が負担せざるを得ないのだ。電気代の急激な上昇を抑えるために政府が何らかの経済的支援を行ったとしても、結局は税金として国民が負担することとなる。

 では、家庭と企業の負担は、具体的にはどの程度になるのであろうか。

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