鉄鋼業は東日本大震災をどのように乗り切ったか
関田貴司・日本鉄鋼連盟 環境・エネルギー政策委員会委員長[前編]
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
地震対策の日頃の訓練が、東日本大震災では役に立った
――地震への対応を日頃の訓練で練っていたわけですね。
関田:はい、いざという時のために、衛星携帯電話もしかるべき役職者には配られており、地上の通信網が遮断されても衛星携帯電話で交信できるようにしています。衛星携帯電話を使ったコミュニケーションの訓練もしています。
――東日本大震災では、かなり役立ちましたか。
関田:役立ちました。いざという時に大丈夫かなと思いながらも、何年もかけて、いろいろなケースを想定して訓練してきわけですが、見事に機能しました。
――周到に地震対策を積み重ねてきた理由は何ですか。
関田:弊社の場合、阪神淡路大震災では主要設備は無事でしたが、一部工場に被害が出た経験をしています。そのため、製造業の社会的責任の一つとして、ずいぶん前から、来るべき地震の影響を想定し、それに対する設備補強や対応の強化を行ってきました。
まずは人命尊重、そして社会に迷惑をかけない、この2点を重要課題として取り組んでいます。たとえば、対策本部がつぶれたら万事窮すですので、そのリスクを減らすということ。また人間がいるところをまず優先することが重要です。数年前から全社規模での地震災害対応に現実感をもって取り組んできました。
――津波対策も実施されていたのですか。
関田:これほど大きな津波は想定していませんでした。これまで地震に対してどの設備をどうするかという対策は練ってきましたが、東日本大震災後は、津波に対する追加の対策を考えなくてはならなくなりました。さまざまなケースが想定されますので、具体的にどうするのかを今検討しているところです。
――製鉄所は海沿いにありますし、津波対策は必須ですね。
関田:今、日本にある製鉄所は皆、臨海製鉄所です。原料はほぼ100%輸入ですし、製品の出荷も大部分海上輸送ですので、経済的に考えても臨海でしか成り立ちません。内陸部では無理です。臨海部で操業せざるを得ませんので、どうリスクを軽減するかが課題です。