MENUMENU

日本では何かと理想化されがちな欧州のエネルギー環境政策。しかし色々な制約条件の中で理想と現実の相克に悩んでいることは洋の東西を問いません。昨年まで国連気候変動交渉の首席交渉官の1人を務め、現在、ジェトロロンドン事務所長として欧州情勢を見る有馬純氏が現地から発信します。

  • 2013/05/28

    私的京都議定書始末記(その1)
    -プロローグ-

     2013年1月、日本は京都議定書第1約束期間を終え、京都議定書上の削減約束を持たない状態に入った。この時を迎えて個人的にいささか感慨を覚える。私は2000年~2002年、2008年~現在まで気候変動交渉に参加し、これまで19回のCOP(気候変動枠組み条約締約国会合)のほぼ半分の9回に交渉官として参加してきた(昨年12月に開催されたのがCOP18なのに、19回というのは、2001年にCOP6再開会合が開催されたからだ)。 続きを読む

  • 2013/05/24

    サッチャー元首相と気候変動

     4月8日、マーガレット・サッチャー元首相が亡くなった。それから4月17日の葬儀まで英国の新聞、テレビ、ラジオは彼女の生涯、業績についての報道であふれかえった。評者の立場によって彼女の評価は大きく異なるが、ウィンストン・チャーチルと並ぶ、英国の大宰相であったことは誰も異存のないところだろう。 続きを読む

  • 2013/05/22

    IEA勤務の思い出(4)

     「その1」で書いたように、国際機関勤務には様々な不安があったが、結果的に任期3年のところをIEA側の要請で1年延長し、4年間勤務することになった。「IEA勤務の思い出」を結ぶにあたって、「国際機関勤務の心得」じみたことについて思うところを記したい。

     第1に国際機関はマルチカルチャーな組織であり、日本の組織のような以心伝心は通用しないということだ。 続きを読む

  • 2013/05/17

    IEA勤務の思い出(3)
    -国別審査はなぜ有益か-

     前回は国別エネルギー政策審査がどのように行われるかをご紹介した。今回は、国別審査がなぜ有用かを論じたいが、その前に、思い出に残るエピソードを2つ、3つ紹介したい。

     国別審査の1つのハイライトは審査チーム内の議論であるが、ある国の再生可能エネルギー固定価格全量購入制度(FIT)をめぐってドイツ環境省出身の専門家と激しく議論したことを思い出す。 続きを読む

  • 2013/05/16

    IEA勤務の思い出(2)
    -国別審査はこう行われる-

     今回及び次回は、IEA事務局で私が担当した国別審査について紹介したい。OECDにおけるコア業務の1つは加盟国同士による政策審査(ピアレビュー)であり、経済政策、援助政策、エネルギー政策、環境政策等、多岐にわたるピアレビュープロセスが存在する。IEAも1974年の設立以来、国別エネルギー政策審査をコア・アクティビティの一つとしてきた。

     国別審査は文字通り、IEA事務局と加盟国の共同作業である。 続きを読む

  • 2013/05/10

    IEA勤務の思い出(1)

     本コラムで欧州のエネルギー環境政策について愚見を述べているが、そのバックグラウンドになっているのは、足掛け6年近くになる温暖化交渉の経験と4年にわたるパリの国際エネルギー機関(IEA)での勤務経験である。

     私が初めてIEAという国際機関に触れたのは1982年に通商産業省に入省し、資源エネルギー庁国際資源課(現・国際課)に配属されたときである。雑巾がけのような仕事を除けば、最初のサブスタンスのある仕事がIEAの出版物「天然ガス:2000年への展望(Natural Gas: Prospects to 2000)」と「世界のエネルギー展望(World Energy Outlook)」の和訳作業への参加であった。 続きを読む

  • 2013/05/07

    補助金のかがり火

     4月6-12日号の The Economist 誌に”Bonfire of the Subsidies” (補助金のかがり火)、”The Fuel of the Future”というバイオマスエネルギーに関する興味深い記事が出ていたので紹介したい。

     EUの再生可能エネルギー指令では2020年までに一次エネルギー総供給の20%を再生可能エネルギーとすることとされているが、政治的、マスコミ的に関心を集める太陽光、風力ではとても目標達成は不可能である。ボリューム的に最も期待されているのが木材、穀物残渣を含むバイオマスである。 続きを読む

  • 2013/04/22

    その手は桑名の焼き蛤

     ちょっと前になるが、本年2月、欧州委員会気候行動総局と気候変動問題について議論する機会があり、その際に印象に残ったことをいくつか記しておきたい。

     一言で言えば、欧州委員会はEU排出量取引制度(EU-ETS)の維持に躍起になっている。

     かつてEU-ETSは温暖化対策の「先進事例」として日本国内でも大いにこれを持ち上げる議論があった。 続きを読む

  • 2013/04/17

    英国のエネルギー政策は On Track なのか?

     今年の英国はとても寒い。特に今春の寒さは異常で3月末でも各地で零下3度を記録した。昨年の今頃は21度と暑いくらいでアイスクリームがよく売れたのと対照的である。

     寒波のため、ガス需要は例年の20%増を記録しており、英国のガス備蓄が底を尽きつつある。3月20日過ぎには備蓄能力の10%程度、2日分程度まで低下した。英国は、ガス輸出国であったため、ガス供給安全保障への備えが弱く、備蓄能力は15日分しかない。 続きを読む

  • 2013/04/12

    化石燃料資源がごみくずに?

     3月8日のIEA主催の気候変動に関するワークショップの議論について報告したところだが、その際に聞いた興味深い話をもう1つ。

     それは「2度目標を守るためには、大規模なCCSの導入が無い限り、世界の化石燃料資源の3分の2は商業化できない」という議論である。2012年版のIEA「世界エネルギー展望」(World Energy Outlook:WEO)では以下のような説明が展開されている。 続きを読む

  • 2013/04/08

    温暖化交渉にプラグマティズムを

     3月8日、パリのIEA本部でRedrawing the Energy Climate Map と題するワークショップにパネリストとして参加した。IEAは毎年、世界エネルギー展望(World Energy Outlook)を発刊しているが、世界のエネルギー情勢の展望と、国連気候変動交渉やMEF(主要経済国フォーラム)で目指している「2度目標」との相互関係について論ずることがここ数年のプラクティスになっている。昨年秋に発刊されたWEO2012の気候変動に関する主要メッセージは以下のとおりである。 続きを読む

  • 2013/04/03

    ブラッセルフォーラムで考えたこと(2)

     ブラッセルフォーラム続き。今回は「米国のエネルギー自立とそのグローバルな影響」について紹介したい。同セッションで興味深かったのはファティ・ビロルIEAチーフエコノミストの発言である。そのポイントは以下の通り。

    米国は5年前、発電構成の5割が石炭だったが、現在では 続きを読む
  • 2013/03/28

    ブラッセルフォーラムで考えたこと(1)

     3月15-17日に独マーシャル財団主催のブラッセルフォーラムに出席する機会を得た。マーシャル財団は、第二次大戦後の欧州復興をけん引したマーシャルプランに感謝の意を表明するため、1970年代初頭にドイツ政府のイニシアティブで設立された財団で、環大西洋(即ち米国と欧州)の関係強化を目的とするものだ。ブラッセルフォーラムは欧米の政・財・官・学の有識者を集めて様々なテーマについて議論をする場であり、今回で8回目になる。 続きを読む

  • 2013/02/12

    ヘルム教授との対話

     先日、本コラムで紹介したオックスフォード大のディーター・ヘルム教授にずっとアポを申し込んでいたが、ようやく会う機会を得られた。笑みを絶やさないが、舌鋒は鋭い。以下、彼のコメントを紹介したい。 続きを読む

  • 2013/02/05

    気候変動交渉と通商交渉

     先日、「国際貿易投資ガバナンスの今後」と題するラウンドテーブルに出席する機会があった。出席者の中には元欧州委員会貿易担当委員や、元USTR代表、WTO事務局次長、ジュネーブのWTO担当大使、マルチ貿易交渉関連のシンクタンク等が含まれ、WTOドーハラウンド関係者、いわば「通商交渉部族」が大半である。私はその中で唯一の「気候変動交渉部族」であった。 続きを読む

  • 2013/01/22

    風車は回り続けるか?

     先般、再生可能エネルギー財団(Renewable Energy Foundation)のスタディ「英国及びデンマークにおけるウィンドファームのパフォーマンス」の発表を聞きに行ってきた。
    非常に興味深い内容なのでその概要をご紹介したい。 続きを読む

  • 2013/01/16

    天然ガスへの傾斜を深める英国

     12月5日、英国のオズボーン財務大臣が定例のAutumn Statement を行った。これはいわば日本の財政演説に相当するもので、マクロ経済見通しと経済財政運営の基本方針を示すものであるが、今年はAutumn Statement と併せ、ガス発電戦略(Gas Generation Strategy)が発表された。 続きを読む

  • 2013/01/07

    COP18で考えたこと

     12月1日~9日にかけてドーハのCOP18に参加してきた。私はジェトロロンドン事務所長とは別に、経産省地球温暖化問題特別調査員という、もう一つの肩書きを持っている。2008年から11年まで3年近くにわたって地球温暖化交渉に首席交渉官の一人として参加してきた経験・人脈を踏まえ、引き続き、交渉を手伝えということである。 続きを読む

  • 2012/12/06

    対ウィンドファーム戦争

     本日のSunday Times を開けたら、自治体の対ウィンドファーム戦争(Councils in War against Wind Farms)という物騒なタイトルが目に入った。11月23日に連立与党内でエネルギー政策に関する妥協が成立し、再生可能エネルギーに対する間接補助総額の上限レベルが現在の26.5億ポンドから2020年には76.5億ポンドに引き上げることが合意されたが、 続きを読む

  • 2012/12/04

    ヘルム教授の異議
    -欧州のエネルギー環境政策に対するアンチテーゼ-

     以前、畏友加納雄大氏が紹介していたディーター・ヘルム・オックスフォード大教授の議論は面白い。The Economist で紹介された彼の新著 The Carbon Crunch- How We are Getting Climate Change Wrong – and How to Fix It の概要は以下の通りである。 続きを読む

有馬 純(ありま じゅん)
1982年通商産業省(現経済産業省)入省。入省時を含め、資源エネルギー庁国際資源課(現国際課)に4回勤務(新入生、補佐、企画官、課長)。1996年から3年間OECD日本政府代表部参事官、2002年から4年間、IEA(国際エネルギー機関)国別審査課長。2008-2011年、大臣官房審議官地球環境問題担当を務める。気候変動枠組み条約締約国会議にはこれまで8回参加。2011年4月より日本貿易振興機構(ジェトロ)ロンドン事務所長兼経産省地球環境問題特別調査員。