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シミュレーションは温暖化を過大評価している


キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹


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 地球温暖化の予測に用いられるシミュレーションが過去の温暖化を過大評価していることはこれまでも何度か指摘されてきたが、「最新のシミュレーションでもこれは改善されておらず、むしろ悪化している」と指摘した論文を紹介する。地球温暖化の被害の試算は、多くの場合このようなシミュレーションに依存しているので、何れも過大評価になっていることが懸念される。

はじめに

 地球温暖化の予測に用いられるシミュレーションが過去の温暖化を過大評価していることはこれまでも何度か指摘されてきており、米国では議会証言でも言及されてきた注1)
 さていまIPCCの次期評価報告書に向けて、CMIP6注2)と呼ばれるモデル比較研究が実施されており、その成果が出揃ってきた。
 その計算結果を確認したところ、シミュレーションが地球温暖化を過大評価する傾向は改善しておらず、むしろ悪化していると指摘した論文を紹介する(McKitrick & Christy, 2020)。論文はリンク先で無料で公開されている。

過去の気温上昇は過大評価されている

 以下、論文の概要を、図を用いて説明する。

 図1は、モデルの計算結果と観測結果を比較したものである。縦軸は気温である。気温は地球全体の地表から上空約9000メートルまでの平均である(図中ではこのことをGlobal Lower Troposphere つまり対流圏下層と書いてある)。青い線は観測値である。観測値としては、a)人工衛星、b)ラジオゾンデ、c)再解析注3)の3種類がそれぞれ4つずつで合計12個のデータセットの平均が示されている。黒い実線はモデルによるシミュレーションの平均である。灰色のスパゲティ状の線は全てのモデルの結果を表している。比較のため1979年の気温をゼロとした相対値でプロットしてあり、全ての線が1979年でゼロとなるように上限にシフトしてある。
 期間が1979年以降になっているのは人工衛星などの観測データがモデルと比較可能な水準で揃ったのがこの期間だからである。
 図1を見ると観測値(青線)は殆どのモデルの結果(灰色)を下回っていることが解る。


図1

 図2は、図1と同じものを、地表から高度15000メートル付近まで(=図中ではGlobal Mid Troposphere、つまり地球全体の対流圏中層と書いてある)についてプロットしたものである。結論は図1と変わらず、殆どのモデルは観測値よりも地球温暖化を過大評価している。


図2

 さて図1と図2からはだいたいの傾向がつかめるが、より正確を期する為には、気温上昇率を測定して、モデルと観測値を比較すると良い。
 図3がその結果である。
 縦軸は10年あたりの気温上昇である。
 赤はモデルの試算結果である。横軸でData Seriesとあるのは世界の様々な研究グループによる計算結果を表している。赤い太線は平均値、誤差範囲は95%信頼区間を示してある。一番右は全モデルの平均である。
 青は観測値であり、人工衛星、ラジオゾンデ、再解析の3つの各々の平均と誤差幅が示してある。青い破線は人工衛星による観測の平均値である。
 4つの図があるうち、左上が地球全体で高度15000メートルまで(MT-Global。MTはMid-Troposphere対流圏中層の略)、右上が熱帯(北緯20度から南緯20度まで)の地上15000メートルまでである。左下でLT-Globalとあるのは地球全体で高度9000メートルまで、右下でLT-Tropicとあるのは熱帯で高度9000メートルまでである。
 これを見ると、殆どのモデルで、観測値を上回る地球温暖化のトレンドがあり、統計的な誤差範囲を有意に超えていることが解る。
 この結論は、地球規模で見ても熱帯だけで見ても変わらない。また、対流圏中層でも下層でも変わらない。


図3

将来の気温上昇も過大評価されている

 以上に見たように、モデルが過去について地球温暖化を過大評価しているならば、将来についても過大評価しているのはないか、と予想される。
 図4は、モデルが予測する将来の気温上昇を、過去の気温上昇と比較したものである。
 横軸は図3で計算された過去の気温上昇の速度である。
 縦軸はECSとあるが、これはCO2を産業革命前から倍増したときに何度気温が上昇するかというモデルの計算値である注4)。 このECSが大きいほど、モデルはCO2濃度の上昇に敏感に反応して気温上昇を起こす、ということである。
 図中ではモデルをECSの高いグループ(赤)と低いグループ(青)に分けている。また中抜きのシンボルはMT(対流圏中層、高度14000メートルまで)、中塗りのシンボルはLT(対流圏下層、高度9000メートルまで)である。MTとLTそれぞれに回帰線(実線および破線)が引いてある。図の下にある逆三角形は観測値の平均である。


図4

 図4を見ると、まず、モデルの予測する気温上昇(縦軸ECS)は、過去の気温上昇速度(横軸)と概ね比例関係にあることが確認できる。つまり、過去の気温上昇を過大評価するモデルは、やはり将来の気温上昇を過大評価する傾向にある。これはLTでもMTでも同じである。
 そして、温暖化の速度について、観測値はあらゆるモデルを下回っていることが再確認される。のみならず、気温上昇の観測値に対応するECSを回帰直線から読み取ると、LT(2つの実線の交点)でもMT(2つの破線の交点)でも、1℃以下になる。以上は回帰直線による大雑把な話なので、実際にここまで低いかどうかはともかく、「観測値が示すことは、ECSの真の値は、全モデルの示す範囲の下限(図4での下限は2度程度)か、ないしはそれ以下なのではないか」と論文の著者らはまとめている。

おわりに

 モデルが過去の地球温暖化を過大評価しているとなると、「過去に地球温暖化によって被害が起きた」とモデルに基づいて計算する所謂「イベントアトリビューション研究」においても、地球温暖化の影響は過大評価されることになる。
 また、将来の温暖化による被害の予測についても、過大評価になる。
 将来の温暖化の予測は、「どの程度CO2等の温室効果ガスを削減すべきか」という政策論にも当然影響する。本稿で紹介した論文が意味するところは甚大である。

注1)
熱帯の空:気候危機論への反証、ジョン・クリスティ http://ieei.or.jp/2019/10/opinion191004/
注2)
正式名称は、第6期結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP6: Coupled Model Intercomparison Project Phase6)
注3)
再解析とは、ラジオゾンデや、GPS信号観測等の利用可能な複数のデータを用いて推計した値。専用のモデルも使用するので厳密には観測値とは言い切れないが、観測値に基づく値なので論文では観測値に含めている。
注4)
ECSとは平衡気候感度 Equilibrium Climate Sensitivity の略で、CO2濃度を産業革命前から倍増し約560ppmにしてから、数世紀が経過して平衡状態になったとモデル上で想定したときに、どの程度の気温上昇が起きるかを計算したもの。

参考文献

McKitrick, R., & Christy, J. (2020). Pervasive Warming Bias in CMIP6 Tropospheric Layers. Earth and Space Science, 7(9). https://doi.org/10.1029/2020EA001281


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