コロナ禍で広がるゲイツ陰謀論


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「EPレポート」からの転載:2020年6月11日付)

 今回の新型コロナを広めた黒幕はビル・ゲイツ氏との話がネットの世界で広まっている。ゲイツ氏の目的は、ワクチン販売による収益、あるいは世界の人口減とされている。ゲイツ氏は過去に新型感染症を予言していたとの話も流れているが、多くの人は、ゲイツ氏の話を聞いたことはないのだろう。

 ゲイツ氏は、以前から感染症に関心を持っていた。感染が大きく広がるのは医療設備が十分にない最貧国であり、貧困問題に関心を持つ彼には見過ごせない問題だからだ。エボラ出血熱が広がった時には、今話題の米CDC(疾病予防管理センター)の幹部と面談。次の感染症はさらに感染力と毒性が強くなる可能性が高いが、備えにより大惨事を避けることができると警鐘を鳴らしている。この話が、新型感染症を広めたのはゲイツ氏と、陰謀説の背景になったのだろうか。

 地球上で電気がなく暮らす人が10億人。多くはサハラ砂漠以南のアフリカと南アジアに住むが、その地域では多くの子供が栄養失調状態にある。世界全体でも子供の5人に1人が栄養失調だ。2、3歳まで栄養失調状態が続くと、その後も体格、知能面で十分な発育ができない。疾病が広がった際に最も影響を受けるのは最貧国の子供だ。陰謀説の主張とは全く違うことをゲイツ氏は憂慮し、多額の資金を新型コロナ対策に投入している。

 彼が、最貧国の状況を改善するため、健康問題と共に注力しているのがエネルギー問題だ。最貧国では、しばしば長期の停電が起こる。携帯を持っている人は多いが、その人たちは停電すれば、近くのお店で家の充電コストの何百倍ものお金を払い充電する。貧困に苦しむ人が支払う充電代金を、ゲイツ氏は不安定な電気の隠れたコストと呼ぶ。ゲイツ氏が心を痛めるのは、最貧国で競争力のある電気の供給が安定的に行われないことだ。温暖化問題にも深い関心を持つ彼は、再エネと、原子力の新技術支援に力を入れている。ゲイツ陰謀論を広める人たちは、彼の書いたものを一度読んだ方がよい。