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コロナ禍後のエネルギー・電力会社の戦略の立て方


国際環境経済研究所所長、常葉大学経営学部教授


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 バブル経済が弾けた後1993年頃にお話した、当時銀座に本社があった自動車会社の社長の言葉で印象に残ったことがある。「バブルが弾けて世の中変わった。いま財界の会食の後二次会に行きましょうと誘ったら、田舎者と笑われてしまうよ。二次会に行くことはなくなったね」だった。夜の銀座の街から経営者が利用するハイヤーが消えて、タクシーが溢れるようになったのは、そういうことだった。バブル崩壊を境に二次会が減り、タクシー利用も減ったのだ。
 バブルの頃、東京の夜の繁華街では終電後タクシーを捕まえることが難しかった。当時タクシーの運転手さんが一日の売り上げが多い日は10万円あると言っていたが、今は数万円だろう。バブルが弾けて30年近く立つが、二次会後タクシーを利用して帰るというバブル前の行動が復活する様子はまったくない。
 いま、コロナ禍により、また生活が変わりそうだ。繁華街のバー、クラブの利用はさらに減りバブル後と同じく、前には戻らないかもしれない。在宅勤務も進むかもしれない。生活が変われば電力需要の構造も変わるだろう。電力供給サイドにも変化があり、結果、雇用にも影響があるかもしれない。

新型コロナにより落ち込む電力需要

 新型コロナにより世界各国の電力需要は大きく落ち込んだ。米国ニューヨーク州ではニューヨーク市の学校閉鎖が始まった3月中旬の1週間に前年同期比7%と落ち込み、州全体で必要不可欠な職種以外の人の外出が原則禁止になった3月下旬からはさらに落ち込み始め、4月の需要は前年同期比、毎週12%から14%下落している。
 需要が大きく落ち込んだのは、日本も同じだろう。5月中旬の関西電力の需要は、前年の同じ曜日に対し図‐1の通り、ピーク時では最大10%以上落ち込んでいる。コロナ以外の要因も需要量に影響を与えている可能性はあるが、昼間の落ち込み幅が相対的に大きいのでコロナによる影響があるのは間違いないだろう。

 ドイツの今年と昨年4月の電力供給量を比較したのが図‐2だ。ドイツの電力需要量は周辺国ほど落ち込んでいないが、周辺国の需要落ち込みの影響を受け電力輸出量はゼロになり供給量は大きく落ち込んでいる。需要減9%に対し供給減は18%だ。ドイツでは供給量が大きく落ち込む一方天候要因もあり太陽光の発電量が大きく増えたことから、マイナスの卸価格帯が増加していると報じられている。
 マイナスの卸価格になるのは、一度運転を停めると再開に大きな費用がかかる火力発電と固定価格買取制度で価格が保証されている再エネからの供給量が需要を超えることがあるからだ。再エネ法は時々改正されているので、いつ発電を開始したかにより受け取ることができる金額は異なるが、多くの再エネ設備は収入が保証されている。卸金額が下落すると収入が保証されている再エネ設備への補填額は増えるが、再エネ法の下消費者が負担することになり、電気料金上昇の懸念も指摘され始めた。電力需要が低迷する中で再エネ比率が高い状況が続けば、最終的には地域経済にも問題が生じることになる。

ピーク需要減少がもたらすものは蓄電池導入か

 コロナ禍後、グリーンディールに熱心な欧州の主要国は電気自動車(EV)導入支援策を強化することになるだろう。内燃機関自動車がEVに切り替われば、電力需要量は増加する。ただし、EV充電は夜間など需要が高くない時に行われる。全体の電力需要量は増えるとしても、ピーク需要は当分落ち込む可能性が高い。結果、欧米ではピーク対応の天然ガス火力の稼働率は極めて低くなり、電力会社は維持することが難しくなる。特に、エネルギー効率の悪い老朽化したガス火力は閉鎖を迫られることになる。稼働率が極めて低くなったとはいえピーク対応の設備が不要になるわけではないので、老朽化した設備に代え効率が良い設備を導入しなければならない。
 ここで問題がある。新設する設備も稼働率は低く利益が出ない可能性もある。であれば、再エネからの電力供給を安定化させ、二酸化炭素を排出しない蓄電池を導入したほうが、有利かもしれない。再エネの出力制御も抑えられる可能性もある。既に、米国カリフォルニア州などではピーク対応の老朽化した天然ガス火力を廃止し、蓄電池を導入する動きがある。
 この蓄電池導入の動きが広まれば、ピーク対応火力設備は廃止になるが、発電所があった地元は雇用を失うことになる。温室効果ガス排出を考慮し、経済的なメリットが確実でない初期投資額が大きい蓄電池を導入し雇用を失うのは企業の選択として正しいのだろうか。MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究グループは、太陽光、風力などの変動電源を短時間しか対応できない蓄電池で補うのは経済性がないと指摘している(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2542435118303866#)。

企業にとり大切なことはなんだろう

 数年前、シンポジウムで同席した再エネ推進の方が、「デンマークの風力発電設備を見学した時に、風切り音が気にならないか」持ち主に尋ねたら「いや、チャリンチャリンとお金の音に聞こえる」と返事があったと話をされた。つい、「そのお金を負担している消費者には出ていくお金の音に聞こえるのでは」と思ってしまった。その方は、再エネを推進し自給自足にすれば地域でお金が回る。こんな良いことはないとも話されたが、この話も突っ込みどころが満載だ。
 再エネを推進して地域でお金が回るのだろうか。消費者による電気料金負担があるから再エネ設備が導入されるケースが殆どだが、普通は地域にお金が外部から持ち込まれ設備が建設される。その収入は地域で回るのだろうか。太陽光、風力であれば、キャッシュフローの大半は設備の償却費で設備保有者の懐に入る筈だ。自給自足、地域でお金が回るどころの話ではない。地域に落ちるお金はない。太陽光、風力は建設時以外雇用も殆ど生まない。
 企業は、ステークホルダー(企業の利害関係者)のことを考える必要がある。地域の雇用と経済に貢献していた発電所を閉鎖し雇用も地域経済への貢献も生まない再エネ・蓄電池で代替することは正しいのだろうか。巨大石油会社を例に挙げ、Wedge Infinityの連載(https://wedge.ismedia.jp/articles/-/19657)で指摘したが、私たちは、企業の利害関係者、株主、顧客、従業員、地域住民などに最も貢献する企業戦略をよく考える必要がある。問題は温暖化だけではない。コロナ禍後の電力需要と供給がどのように推移するかエネルギー企業は良く見極め、技術開発の状況を見ながら戦略を立てるべきだ。



山本隆三 ブログ「エネルギーの常識を疑う」の記事一覧