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エネルギー・環境ビジネスにおけるシナリオプランニングの手法(3)

コロナ自粛に悩む経営戦略スタッフのために


東京大学公共政策大学院 客員教授


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経営戦略ワークショップ

 シナリオプランニング手法を紹介しています。筆者は大ベテラン故、経験豊富。このように進めれば、この手法が企業の経営戦略検討に役立つ、という実践的な手法を書いてみます。

 さて、架空のエネルギー・環境ビジネス関連企業の、社内経営戦略検討風景を、戯画風に書き継いでいる。今回は挿入図が多くて、図に解説をつけてゆくスタイルを取ります故、読者諸賢はざざっと読み流すわけにはまいりませぬ。申し訳ござらぬ。

 さて、9月15日11時に、経営戦略ワークショップが始まった。昼食休憩をはさんで2時までの予定である。社長以下経営トップの7人が参加。経営陣が10年後、30年後の当社の存続・発展を見据えてみた時に、今現在、将来展望が読みにくいビジネス環境要素を発見し、集合的に認識するためのワークショップである。
 この集まりに事務局たる経営企画部が準備したのは、疑問文が書かれたカードが、9枚。
 ここからまっさらでスタートする。説明資料は、今日の会議には配らない。事前のご進講も、ない(そのように社長が指示したのである)。
 ポストイットに書きつけた9枚の疑問文カードが役員会議室の壁に貼ってある。横3メートル、縦1.5メートル、模造紙を貼りまわした大画面である。

 どのカードからディスカッションが始まるのだろう?
 社長が口火を切った。
 壁の前で、カードを動かしながら自分の意見を述べる。残りの参加者も、「これは、何か言わねばならん、資料が手元にないので「地アタマ」で、直観と洞察で、かっこいい意見を開陳せねばならん」と覚悟を決めた。
 経営企画部長は、参加者7人がなるべく公平に発言機会を得、またできるだけ話題が発散しながら展開してゆくよう、気を配る。部長はどの発言に対しても2つのコメントしか出すまい、と堅固に自制する。「ナルホド、それ、あり得ます。なぜ、それが起こるのでしょうか?」、「ナルホド、それも、あり得ますね。では、その次に、何が起こるのでしょうか?」 つまり部長は、自分の見解を決してはさまず、発言者側の思考が深まり、未来に拡がってゆくのを支援しているのだ。このように、注意深く自制を利かせた司会術をファシリテーションと呼ぶ。非常に大切な技法。
 企画部門の若手たちは目立たぬ席に控えて、参加者それぞれの発言を懸命に筆記してゆく。こういうハイパワーなひとびとが自由闊達に話そうとしている場には、ICレコーダーを持ち込まないことだ。

 壁の大画面にたくさんのカードが追加されてゆく。床にもたくさんカードが落ちている。もはや何がどうつながっておる議論なのか、参加者たちでさえ読み取れなくなった・・・。

 12時15分に、いったん散会。その間に経営企画部門が大画面を整える。
 実はこの昼休み中に、大切な技法が持ち込まれる。カオスと化した画面を鳥瞰し、カードを動かしながら、核心となるテーマを発見しようとする。午後の議論の立て方を設定する。それから、このような経営企画部の手が加わった作業を、会議室に戻ってきた経営陣が一見して分かるように、壁の大画面を整えておくのだ。ここでは「クラスタリング」と呼ばれる技法が活躍するのだが、いつか、稿を改めて説明したい。
 ともあれ経営企画部メンバーは、部長以下、昼食を食べずに作業をせねばならぬ。

 1時から議論が再開され、またもやカードが散乱して、1時間後、仕上がり画面は、こうなった。

 経営トップ7人は、今日現在、10年後の情勢が見通せない事象として、原油・天然ガス価格のレベル? 成長のエンジンたるアジア域大規模投資の成否? 次の成長をもたらすイノベーションの入手手段? それにパンデミックショックは繰り返されるのか? この4つを選んでいた。
 さらに、10年後に至る経営戦略に重大な影響を与える事象としては、アジア域大規模投資の成否? パンデミック? 原発の電源再参入の成否? そして温暖化問題の行方? の4つ。
 ワークショップは、時間を30分延長して2時半に終わった。会議室の床にはポストイットが散乱している。経営陣は、「いい汗をかいたなー」と満足して引き揚げた。

 この画面から、どう、先に進めるのか?
 部長はまず、シナリオ手法を勉強している若手スタッフにやらせてみる。教育だ。
 第1回の投稿を思い出してほしい。若者は『シナリオ手法-実践指南』を買って参考書とした。この本では・・・「最も不確実性が高くて、経営への影響が大きい位置にあるラベルを2つ選び、縦横の「十字架図」を作る。それぞれのテーマを、縦軸横軸、2様に描き分け、組み合わせて4象限とすれば、異なる4つの経営環境が描けるだろう」
 『指南』に従って、縦軸に「アジア大規模投資プロジェクトは、10年後に稼いでいるのか? それとも失敗して、撤退しているのか?」を置いた。横軸には「コロナ禍=パンデミックが、2020/21年に一過性で収束しているか? それとも5-10年周期で繰り返されているか?」を置いた。そうすると4象限の空間に、4つの異なった未来世界が見えて来た。

 なるほど・・・少し考えれば一目瞭然なのである。今後、パンデミックが繰り返されるのならばアジアの経済は伸びず、ひどい場合には需要が縮退する。当社の投資した生産設備の稼働は低迷しよう。故に、シナリオAは、成り立たない。第4象限のシナリオDはありうる、が、最悪だ。パンデミックが収まってもアジアプロジェクトが失敗しているシナリオC。このシナリオでは、需要の伸び悩み以外の、何かプロジェクト失敗の原因があるのだろう。だから、シナリオBが、当社にとっての好都合な未来像だ、とわかった。
 次の経営戦略会議では、いよいよ、中長期経営戦略のリスクを議論することになる。「10年後の2030年、もし、シナリオAの世界や、Cの世界が現実化していたら、経営への影響は、如何?」という議題を提案して、10年後のBの世界、Aの世界、それにCの世界の有様を、書き込んだ準備資料を作ろう・・・。

 これが、9月15日の経営戦略ワークショップの成果だったのだろうか? そんなはずもない。若いスタッフはまたしても未熟である。
 次回こそ請うご期待、中締めの投稿をします。