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日本の先をいくEU鉄道部門の温暖化対策

英仏でも“燃料電池列車”運行を検討へ


国際環境経済研究所所長、常葉大学経営学部教授


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(「月刊ビジネスアイ エネコ」2019年11月号からの転載)

 気候変動対策に本気で取り組むことを求め、学校を休んで国会前でストライキを始めたスウェーデンの高校生、グレタ・トゥーンベリさん(16)は一躍時の人となり、ローマー法皇との面談、欧州連合(EU)議会やダボス会議などでスピーチを行った。
 彼女は、気候変動問題に関心を持った時から航空機の利用をやめ、移動には鉄道を使っている。今年9月にニューヨークで開催された国連の気候行動サミットには、大西洋をヨットで渡って駆け付け、ニュースになった。
 鉄道を利用するのは、1人当たりの二酸化炭素(CO2)排出量が航空機や自動車より少ないためだ。特に欧州内は鉄道網が発達しており、短中距離を移動するには鉄道が便利だ。ロンドン、パリ、ブリュッセルを結ぶユーロ―スターは有名だが、スペイン、ドイツ、イタリアなどでも高速鉄道が発達している。
 高速鉄道網が充実すれば、鉄道利用者が増え、気候変動対策にも貢献することになる。
 EUでは、2050年の温室効果ガス純排出量ゼロを目指すことも議論されており、輸送部門からのCO2排出削減が求められている。自動車部門の対策としては、電気自動車(EV)の導入策が英、仏、独などの欧州主要国で産業政策としても進められている。鉄道部門のCO2排出量は、自動車部門より少ないものの、鉄道部門でも削減策も進められてきた。
 その対策の1つが、電化されていない地方路線のディーゼル列車を燃料電池列車に切り替えることだ。水素を化学反応させて電気をつくる燃料電池では、排出されるのは水だけで、気候変動対策として大きな効果がある。水素は化石燃料から製造でき、製造工程でのCO2排出が問題になるが、EUではこの問題も視野に入れた取り組みを進めている。
 日本では、燃料電池車(FCV)がすでに市販されているが、燃料電池列車については研究開発段階でまだ実用化されていない。日本企業がFCVを実用化している間に、欧州企業は列車での実用化を図り、ドイツではすでにフランス製の燃料電池列車が運行されている。フランスや英国などでも導入の見通しが立ってきたという。
 自動車は電気、列車は水素で動かすと考える欧州勢が世界の主流になれば、日本企業は取り残される可能性がある。欧州の鉄道は、どのように発展を遂げているのだろうか。

英国の高速鉄道計画

 欧州主要国の運輸部門と自動車のCO2排出量はの通り。自動車からの排出量が圧倒的に多いものの、鉄道部門の排出量も無視できない数字だ。


表 米・日・欧州主要国の運輸部門のCO2排出量
※ 燃料起源の排出量で2016年の数値
※ 全世界には他国も含む
出所:国際エネルギー機関(IEA)

 英国では、列車、国内航空機のCO2排出量は運輸部門全体の5%程度だが、2050年に排出ゼロを目指すには削減が必要になる。英国が高速鉄道建設を計画する背景には、移動手段を航空機から鉄道に切り替えてもらい、CO2排出削減を進める狙いもある。
 英国政府は、まずロンドンからバーミンガムまで高速鉄道を建設し、その後、バーミンガムから北に二股に分かれる路線を建設する「HS(ハイスピード)2計画」を立てている。
 第1段階では、最高時速400㎞の列車でロンドン-バーミンガム間を52分で結ぶ計画だ。1100人乗りの列車を1時間に最大14往復させる。第2段階では、バーミンガム-マンチェスターと、バーミンガム~リーズの2路線が建設される。ロンドン-マンチェスター間の所要時間は、現状の2時間7分が1時間7分に短縮される。
 建設プロジェクトにすでに着手しているが、英国政府は第三者委員会を設けてプロジェクトの費用便益分析を行い、今年の年末までに結論を出すと8月下旬に発表した。現地では、工期が遅れ、工費が増大する懸念があると報道され、運輸大臣が9月上旬、工費の増大を認め、完工予定も遅れる見通しであることを発表した。
 2015年時点で560億ポンド(約7兆4000億円)と見積もられた工費は、880億ポンド(約11兆6000億円)まで膨らみ、2026年に完成予定の第1段階は2028~31年に、全体の完成は2033年から2035~40年に遅れる見込みと発表された。
 HS2プロジェクトについては、都市と地方の格差縮小に寄与し、地方経済の活性化に貢献すると評価する声が多い。ジョンソン英首相は、マンチェスターとリーズ間を結ぶHS3高速鉄道プロジェクトの詳細をHS2再検討の結果が明らかになった後に発表すると述べており、事業が継続される可能性は高いとみられる。ただ、鉄道車両の納入も遅れることになり、日立製作所など納入候補企業はじりじりとした時間を長く過ごすことになる。

EUは燃料電池列車の時代へ

 欧州には電化されていない鉄道区間が多くある。ドイツでは、40%もある非電化区間でディーゼル列車が利用されている。鉄道部門のCO2排出削減には電化が望ましいが、時間も資金も必要になる。ディーゼル列車によるCO2排出を減らすため、蓄電池を積んだ電気列車の運行も考えられるが、重量や充電時間を考えると難がある。燃料電池で発電すれば、非電化区間でも電気を利用した列車運行が可能になる。
 ドイツ北部のニーダーザクセン州では、仏アルストム製の燃料電池列車が昨年9月に運行を始めた。100㎞の区間を最高時速140㎞で走行している。水素を一度充填すれば、ディーゼル列車とほぼ同じ1000㎞の走行が可能だ。当初、2編成が納入されたが、2021年までに14編成が納入される予定となっている。問題はコストだが、アルストム社は、製造コストはディーゼル列車より高いが、運行コストは低いとしかコメントしていない。
 同社によると、ドイツの他州のほか、カナダ、ノルウェー、オランダ、デンマーク、イタリアが導入に関心を示しているという。フランスは2022年までの燃料電池列車導入を明らかにしている。
 英国は、2040年までにディーゼル列車を廃止する予定だ。同社は、英国企業と共同で既存の電気機関車をベースに燃料電池列車を製造し、2022年から導入を進める意向を明らかにしている。このほか、バーミンガム大学は貨車のリース会社と組み、今年6月に電気機関車を改造した燃料電池機関車の試験運転を行った。
 一方、日本では燃料電池列車の実用化の話は出ていない。欧州主要国と異なり人口が大きく減少する日本()では、インフラ関連の投資を行うことは徐々に難しくなっていく。技術開発で後れを取ると、今後リカバーすることは難しくなり、その差はさらに広がっていく可能性が高い。人口減少は、技術革新にも影響を与えることを頭に入れる必要がありそうだ。


図 日・英・独・仏・伊の人口推移予測
出所:欧州連合(EU)統計、社会福祉人口問題研究所



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